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枯死向寒④

「怪我しちゃったの?」


「うるさい! あっち行けよ……」


 大きな声で怒鳴られたのに怖がる様子を見せず彼女は言葉を続けた。


「私が治してあげる。最近は回復魔法も上達してきたんだから!」


「クレア……」


「いいでしょ? たった一人、子供の怪我を治すだけだよ」


 その子供は先程君から盗みを働いた子供なんだが、危機感があるのかないのか。


 尻もちを着き、先程落とされた時にできた足の怪我を抑えている子供。その手を退かせ、クレアが手を重ねればそこを中心に緑の光が溢れ出した。


「な、なんだよこれ」


「動かないでね」


 あっという間にその場に魔力と光が満ちた。回復魔法が上達したと言っていたのは嘘でも虚勢でもなかったらしい。痛みで顔色の悪くなっていた子供は次第に顔色が回復していった。


「よし! どう? もう痛くないでしょ」


「え、あれ? ほんとだ……」


 クレアはその力の危険性を理解していない。無闇矢鱈に魔法を使ってはならないのだ。どこから情報が盛れるかなど分からない。


 彼女が純粋な魔法使いではないことが公になって仕舞えば、どんな危険に晒される結果になるか考えたくも無い。一人前になる前の今なら尚更。


 私たちよりも幼い子供とはいえ、こんなにら盗人の怪我を治すためにクレアが力を使う必要なんて無いのだ。名も知らない盗人を睨みつける。私の怒気を感じ取ったのかそいつはビクリと体を震わせ、恐る恐るこちらを見上げた。こちらを見るその目には見覚えがある。このシリディ国では珍しい黒曜石の瞳。


「あれ……わ! あなたの目ミリーとそっくり!」


 カサール国特有の民族的象徴。カサール国のルーツの血が流れてなければ持ちえない色の目だ。本来ここにいることは無いはずだが。今はシリディ国とカサール国との戦争中。敵国の人間が、民間人とはいえこの国に居ていいはずがないのだ。


「カサール国から来たのか。大方戦争の被害に巻き込まれないうちに逃げる算段だったろうが、食い扶持が無くなったか」


「……」


「お母さんとか、お父さんは? はぐれちゃったの?」


 黙り。子供は決まりが悪そうに顔を逸らし、俯いている。予想だが、もう随分前にはぐれたか、この国の人間に親を殺されたか。戦時中なのだから敵国の人間に敵意を持つ者は多い。石を投げ金を奪い、家を燃やす。いつの時代も人間は残虐な質の生き物だ。そうなっていてもおかしくはない。


 さまよった末に盗むという手段に出たのだろう。その境遇を理解こそすれ、同情はしない。


「なんでもいいだろ、ほら。これ返すから。……その、悪かったよ」


「……いいよ、それあげる。お金が必要なんでしょ?」


「え、で、でも」


 自分からお金を盗んだ相手にも慈悲をかける。クレアは未だ善良なままだ。育った環境ゆえか、生まれ持った性格なのか。


「気にしないの! じゃあね! いこミリー」


「全く……」


 せっかく取り返すために追跡したというのに、最終的にはクレアが自分で相手を許してしまった。なんのために追いかけたのか。彼女が納得しているなら、それで良いが。


 来た道をもう一度歩き祭りに戻る。厳冬祭の賑やかさは落ち着く様子はなかった。人が行きかい笑い声が響いている。まだまだこの祭りは始まったばかりなのだ。楽しむものも楽しめていない。どこか浮かない顔をしたクレアの手を引き、私は祭りを見て回った。

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