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枯死向寒③

 屋台の台に積みげられた商品を眺める。そうしていると、ふと違和感に気がつく。いつもの祭りならもう少し品数の種類が多いはずだ。カサール国産の有名なガラス細工が出品されていないのは戦争中なのだから当然。それにしてもジェニーロスト国の陶器が少ない。小さな宝石をあしらった装飾品も観光客向けに置いているはずだ。


 だが、それも見当たらなかった。まるで意図して輸出を制限しているように、いつもとは違う。そんな風に考え込んでいたためか、普段なら気がつくはずの気配に気が付けなかった。前方から小走りで向かってくる少年に気づいたのは、その少年が目の前に迫ってからだった。走ってくる勢いのまま、私の隣にいたクレアと衝突する。少年はふらついたものの、倒れることなくそのまま走り去っていった。


「わっ、いたた……」


「! 怪我は?」


「大丈夫! よいしょっと」


 幸い怪我はしていなかったようですぐに立ち上がっていた。クレアがスカートに着いた雪や汚れを払うのを見て、良かったと思うも束の間。


「クレア、袋は?」


「え?」


「……盗まれたか」


 彼女にぶつかる様にして逃げていった子供。一瞬の間に見れた限りで確証は無いが、服装がみすぼらしく貧相な体つきだった。おそらくは子供の盗人。少なくとも、この街の住民ではない。この街に住んでいる子供なら、クレリデイラ家の者から盗みを働こうとはしないはずだ。このわかりやすい毛皮のコートを身につけているのだ。この街に住んでいるなら家紋を一目見ればわかる。この祭りに乗じて訪れた盗賊団の一員、と考えた方が自然だろう。


「フェデリーカ」


「はっ、もう既にフェリーナが追跡しております。居場所はこちらの者が」


 フェデリーカの示した先にはアシェル。魔法で追跡できるのだろう。


「そうか。……クレア、盗まれたものを取り返しに行こう」


 そう言えば不思議そうにしながらこちらを見つめるクレア。


「取り返せるの?」


「もちろん。獣人の身体能力なら簡単なことだ」


 アシェルの指がさす方向に従い大通りを歩き、キャラバンが並ぶ通りを抜けた先の路地裏。石造りの家が並ぶ、雪で埋もれた路地裏の細道を歩く。少し歩き続ければ、周囲よりも開けた場所に行き着いた。


 人影がふたつ。小さい人影はしゃがみ込み、しりもちをつきながら後ずさっていた。その傍に佇むのはフェリーナ。命令通り人気の少ない場所に追い込んだようだった。


足音に気づいたのか、フェリーナを睨みつけていた目は驚いたようにこちらを見た。先程ぶつかってきた少年で間違いないだろう。この寒さの中、薄手の麻の服を重ね着し、無造作に首に巻かれた毛皮。髪は痛み、肌も汚れていて見窄らしい。


「っ! なんだよ、お前ら!」


「ああっ! 逃げないでくださいよ〜、逃げたっていい事ありませんよ?」


 子供は自分が不利な立場にいることを理解した途端に一目散に逃げ出した。それをすかさずフェリーチャが捕まえる。


「離せって! このっ、……首を、掴むな!」


「離したら逃げちゃうじゃないですか! クレアお嬢様から盗んだもの、返してください」


「……わかった、わかったから! 首が苦しいんだよ!」


 首元を掴まれて中に浮いていたのが堪えたらしい。足をばたつかせ自分を捕まえているフェリーチャに反抗する。


「あら」


「うわっ!」


 それを見て手を離したフェリーチャ。子供は急に手を離されて落とされたのに対応できなかったのか、着地が不自然になっていた。予想通りというか、やはりそれで怪我をしたらしい。足首を捻った様で怪我した場所を手で抑えている。


 私はそれで簡単に逃げられなくなり丁度いいと思った。しかしクレアはそうは思わなかったらしい。彼女はアシェルとフェデリーカの背に隠され状況を理解できていなかったが、隙間から背伸びをして眺め子供が怪我したことだけは伝わったようだった。


 二人の間をかき分けてこちらにやってくる。足首を抑えている子供のそばにしゃがみこむと優しく声をかけた。

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