枯死向寒②
それから一週間後。ようやく準備が出来たのか兵士によって連れてこられたたアシェル。そんな彼に物珍しさを感じたのか、私の背に隠れながら見ているクレア。慣れるためにも紹介は手短に済まそう。
「クレア、君の新しい使用人、護衛役だ。名はアシェル。魔法使いだから、魔法の師匠にでもするといい。ああでも、喋れないだろうから少し不便だけどね」
「私に? 魔法教えてくれるの?」
頷けば嬉しそうに顔を明るくする。
当然だが、まだ慣れないから自分から近づいていくことはないが目線はアシェルに向いている。自分の父親であることには気づいていないはずだが、こう並んで見てみると確かに似ている。他人の目から見てもわかりやすい。この関係が露呈してしまえば何かと厄介だ。バレないよう、対策を立てなければならない。
しかし、それはまたあとからでも考えればいいこと。それよりもクレアが楽しめそうな行事がもうすぐ始まるのだ。無理を通して急遽護衛をつけたのもそれが理由だ。クレリデイラの子供たちは未成年のうちは自由に出歩くのが難しい。近場でも護衛としての使用人がいなければ許可が降りることはない。だが、その人員も揃った。これで心配はなくなった。
「クレア、話は変わるが、もうすぐ祭りが開催されるのは知っているか?」
「お祭り?」
「ああ、厳冬祭という祭りで一年で、最も寒くなる頃に開催するんだ」
厳冬祭。シリディ国の各地から隊商が訪れ、ジェラムの商人たちも店を出店する一番の稼ぎ時。ジェラムに住むものたちだけでなく、世界各地から訪れるものも少なくないかなり大きな祭りなのだ。
「美味しいお菓子も……?」
「ふふ、あるよ」
「わあっ、行く! 行きたい!」
手に入れるのが困難だったクレアの護衛役も揃った。その実力、とまではいかないが役割を果たすかどうかのテストとしても十分な場だ。厳冬祭が開催されるのは五日後。クレアご所望の美味しいお菓子もある。クレアは指で数えながら祭りの日をいまかいまかと待ち構えてるようだった。
五日後というのは存外すぐに訪れた。
朝から街の方は活気で溢れ、楽器の音や人々の楽しげな声が風に乗って聞こえてくる。
「ミリー! はやくはやく! お祭り始まっちゃったよ!」
「分かってるよ、さあ行こう」
滅多にない外出にクレアは気分が上がっているらしい。今も楽しげにピョンピョンとジャンプを繰り返している。扉を両手で開けて入ってきたかと思えば、早く行こうと私を急かす。
外に出ると息は白く染まり、針を刺すような寒さを感じる。衛兵によって開かれた門をくぐり抜けて街に降りていく。雪が積もり、視界が悪いのはいつもの事だ。こんな雪道では馬車で移動するのは危険で、滑ってしまえば馬車ごと下に落ちてしまうだろう。
「そちらに行ったら危ない。こっちだ」
「はーい」
歩きであってもその危険性は変わらないが、少なくとも全員が一度に落ちる結果にはならない。もし何かあっても、獣人のメイドたちの動きの妨げになることはない。間一髪、といったところで助けに入るだろう。
歩き続けてようやく見えてきた街は普段の様子とは様変わりしていた。鮮やかな赤黄青の原色の飾り。華やかな衣装を纏って踊る女性。道には数多くの屋台が並び、それを買おうとする人だかり。年に一度、この大きな祭りでしか見られない光景だ。
隣を見れば、待ちきれないと言った様子のクレアがいた。手にはお金の入った皮の巾着を既に握りしめている。これ以上の人だかりができないうちに、祭りの様子を見て回った方がいいだろう。「行こう」とクレアに声をかける。
一歩踏み出した。自然と人だかりに道ができる。私は当然のようにそこを進もうとしたが、クレアは心底不思議そうな顔をしていた。
「みんな、どうして道開けてくれるの?」
「私たちがクレリデイラだからだ」
「……?」
今日のクレアは私と揃いの白い毛皮のコートを身につけている。珍しい金色の刺繍でクレリデイラ家の家紋が施された物だ。それは周囲に対する警告であると同時に、クレリデイラの子供たちを守る鎧としての意味を持つ。手を出せば容赦はしないという警告なのだ。
実際、こちらを見つめる周囲の目線は畏怖と好奇心、嫌悪。様々な感情が入り乱れているが、皆一定の間隔を開けて近寄ってこない。
「! あれってジュース?」
「あれはホットワインの屋台だ。私たちはまだ口にできないよ」
クレアの目線はあっちに行ったり、こっちに行ったり。忙しなく動き回っている。
「あれ、お菓子の屋台? 飴に、クッキー、ドライフルーツ! あれは?」
「パスチラ。リンゴやベリーの果肉を煮詰めて乾燥させた伝統的な菓子だ」
彼女の一番の興味関心はやはり食べ物だ。国が違えば文化も違う。食は特にその代表例だ。屋台の軽食も見たことが無いものばかりなのだろう。
「あっち!」
「白樺細工に人形、木製の食器や帽子。気になるなら見てみよう」




