晩夏の実り⑥
商品が入れられた悪趣味な檻を眺める。見ていて気分の良いものではない。人間の子供、女、男、ピクシー、中にはただの動物もいた。
その様子を見て立ち止まり、もう一度足を進めようとした。
「ハァ、……ッお願い、します。私を買っては、いただけませんか」
突然足首を掴まれた。足を止めて、私の足首へと伸びている手の先を見つめる。そこに居たのは獣人だった。
比較できる対象が少ないから正確には分からないが、おそらく十代後半。振りほどくことは容易だが興味本位でそれを見つめる。
すると近くにいた商会の人間が目ざとくその様子に気付いたようだった。
「何をやっている! お前のような獣人がお客様になんと無礼なことを! 申し訳ありません、直ぐにお求めの奴隷をご用意致しますので」
「お願いします、私はユキヒョウの、獣人です。獣人の身体能力、の高さはご存知でしょう? ……必ずッ、お役に立ってみせます。だから……」
私の足を木の格子越しに掴んできたから何事かと思えば自分から買ってくれと売り込んでいた。わざわざ自分の種族の特微を上げてまで。
獣人のほとんどは人、というよりも他種族を嫌悪している節がある。だから自分から同族以外に助けてくれと言うことはなく、それ自体も仲間内では軟弱者だと切い捨てられることが多い。だから彼らは、どんな目に合おうとも決して折れない不屈の精神と気高さを誇りとして生きているのだ。彼女のような言動をすることはまず無い。
確かに今地にひれ伏している彼女の言う通り、獣人の身体能力の高さは他に類を見ない。圧倒的な敏捷性と瞬発力、動体視力、持久力、どれを取っても身体能力で獣人に敵う種族はいないのだから。だから本来なら、こんな奴隷商に捕まることも無いはずだが。ユキヒョウの獣人だと名乗った彼女に答えることなく思考を続けていると、私を案内していた商人が腰に付けていた鞭を降り下ろしていた。
「さっさとその手を離せ!」
悪意ある鞭の嵐が木の格子越しに降りかかる。痛みを感じないわけではないだろうに、どれだけ鞭で打たれようと彼女は私を逃すまいと足を掴むその手を離そうとはしなかった。再度鞭で打とうとした商会の人間を静止する。
「もういい、止めろ」
「ッも、申し訳ありません……」
先ほどまで威圧的な態度を取っていたというのに、急に怯えたように体を震わせる商会の人間。なんて情けないんだと独りごちる。
「何故この奴隷は最も安価な値打ちで売られているんだ?耳と尾があるのを見るに獣人だろう、獣人はどんな系統でもここまで安価になることはないはずだが」
そう問えば何か隠したいことがあるらしく大げさに体を震わせて反応した。いつまでも「その、あの」としか言葉を喋らないので苛つきに任せて殺気をぶつける。余計に体を震わせたが観念したのかようやく口を開いた。
「その……この獣人は訳ありでして、檻の奥に他の獣人が二匹居るのが見えますか?あれらに手を出そうとすると酷く暴れるものでして、一度一匹が買いとられたのですがその際買い手に怪我を負わせてしまったのです。ですがなにせ見目が良く、種族も稀少ですので殺すわけにもいかず……」
正しく訳ありという訳か。未だに手を離さないユキヒョウの獣人が何か言いたげにこちらを見つめてくるので用無しを追い払う。バタバタと足音を立てて去っていくのを見てから膝をついて彼女と目線を合わせた。
「……それで?一体私に何の用だ」




