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晩夏の実り③

「……父上、クレアです」


 ノックを三回したが、いつものように中から入室を許可する声は聞こえてこなかった。不審に思いながらももう一度ノックする。


「父上……? 失礼します」


 もう一度ノックをしても声が聞こえてくることはなかった。許可なく入るのは無礼だが中でなにかあったのだとしたら確認しなければいけない。おそるおそる父上の執務室の扉を開いた。


「……やはり女神に対する信仰心……いや、それに追随する女神の加護による力か?」


 執務室の窓の外を向いて立っている父上。最悪殺されているのではとも思ったがそんなことはなかったようだ。父上は何やら考え込んでいるのか独り言を言っている。何を言っているのかと耳を澄ますと女神の加護、そんな言葉が聞こえてきた。なんの話だろうか。女神といえば、女神アペリウェールだが私たち人間の信仰心はとうに廃れてしまっている。


 昔読んだ歴史書によれば種族同士の戦争が起こった時代に人間は女神への信仰を捨て去り、自らの力で生きていくことを選んだのだと書いていた。今では人間に限らず多くの者が信仰を捨てている。歴史は改変されていくものだから、当然それも全てが全て正しいことを言っているものでは無いはずだ。


「父上、カミラ・クレリデイラ、ただいま参りました」


「……ああ、来たか」


 声をかけると、父上はようやく気づいたのかこちらに振り向いた。その顔は自分の前で起こっていること全てが面白くてしかたがないというように、紅の目が愉悦に歪んでいた。フェリーチャとフェリーナの報告によると、 急に爆発が起こったあの日から一週間が経過している。


 その間にクレアに起こった変化について調べることはもう済んでいるはずだ、 私に父上が聞きたいことなど無いはず。新しい命令が与えられるのかもしれない。その命令でクレアと離されることになったらどうしよう。言い表せない不安が押し寄せてくる。


「あれについてはもう知っているな、魔法が使えるようになった。だが、今のままでは宝の持ち腐れというものだ。訓練以外は部屋に籠もり、その訓練もまともに取り組まん。……あれを上手く誘導しろ、魔法を使いこなせるようにな」


 部屋に籠っている。報告にもあった通りだ。

 与えられた命令は私とクレアが引き離されるようなものではなかった。それだけで安堵してしまう。


 ほっと胸を撫で下ろしながらも父上の様子を盗み見る。クレアが魔法を使えるようになったことに驚きも恐怖も感じていないようだ。まるで魔法を扱えるのが当然とでも言うように。尋ねることを許されるだろうか。クレアがなぜ魔法を使えるのか。迷いながらも意を決して口を開いた。


「父上、なぜクレアは魔法を使えるのですか。人間に魔法は使えない。それに例外はないはずでは?」


「はっ、あれが人だと、人間だと本当に思っているのか? 魔法使いの遺伝子が息づいているあれが? 混血など人ではない」


 混血。


 それは女神アペリウェールが遺したとされる「女神の言葉」が纏められた聖典では、混血は禁忌とされている。十戒の一つだ。それぞれの種族と交流が始まったのは種族間の大戦が終わってから、交流を始めて異なる種族間で恋愛するものも出てきた。


 しかし、他種族との間にできた子どもは異形であったり、内にひめられた自身の力に耐えられず幼くして死んでいった。だから女神は十戒の一つとして混血を封じたのだ。


「何のために子供達の中で暗殺に優れているお前をつけたと思ってる、カミラ。暴走して手が付けられなくなったら、お前が殺せ。」


息が詰まる。クレアを殺す。その役割を与えられていたのが私だったから、世話を任せられていた。それだけじゃない。


「クレアが混血だと言うのなら。クレアが魔法を使えるのは魔法使いの血を引いているからだとしたら、それは、つまり……」


「ああ、あれにはクレリデイラの血は流れていない。便宜上クレリデイラの名を与えていただけだ」


 なんて事ないように衝撃の事実を告げる父上。血が繋がっていない、クレリデイラとは関係のない子供。家族だと思っていた。血の繋がった家族であるから、この家に留める理由を作れた。姉妹であるから、そばにいれる理由を作れた。血が繋がっていない、家族ではない、姉妹ではない。なら、何を理由にクレアをここに留めておけばいいのだろう。


「父親は昔この家に仕えていた魔法使いだ。魔力量だけは人一倍あったが、魔法を使う才能はさしてない男だった。今は地下牢に拘束されている」


 その言葉に目を見開いた。地下牢。魔法使い。クレアの黄色の目。パーツが繋がりパズルが完成していくかのように答えが見えてくる。


 あの時目に留まった地下牢の懲罰房に拘束されていた魔法使いの男、あれの目の色は黄色だった。

 通りで見たことがある気がすると思ったのだ。あの目の色はクレアと全く同じものだった。あの魔法使いが、クレアの父親だったのだ。


「あれの母親はこの館にいた時から信仰心が厚かった。そもそも教会のシスターだった女だ。その教会があった地域を庇護下に置くことの人質として連れてきたから当然と言えば当然だが」


 人間が捨て去った信仰心を捨てることなく持ち続けていた少数の者たち。彼らには古代から女神が与えていた加護が、未だ残っている。その加護が与えられた人間と魔法使いとの間にできた子供だから、クレアは無事だった。


「娘が魔法を使っていると報告を受けたから連れ戻したのにも関わらず、なぜ半年が経っても魔法を扱う気配がないのかと思っていた。


 だが、まさかあのイヤリングに女神の加護が宿っていた影響だとは。良くやったカミラ、お前の功績だ」


「イ、イヤリング……?」


 新しいイヤリングを渡したのは私だ。あの時外した白石のイヤリングに女神の加護が宿っていた? それをつけていたお陰で、これまでクレアが魔法を使うことはなかったのか? 

 だとしたら、クレアを危険な目に合わせたのは私だ。


 その後も父上が話続けていたが頭に入ってこなかった。何もかも衝撃の事実。ああ、もう何が起こっているのか分からなくなってきた。頭が痛い。


 足をふらつかせながら自室に戻り、吸い込まれるようにベッドへと倒れ込んだ。

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