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晩夏の実り②

 気が遠くなるほど長かった気もするし、瞬きの間のように一瞬だった気もする。体が浮遊感に包まれて、はッと目が覚めた。体のどこにも痛みがない。魔法使いの回復魔法で治してもらったのか。心を落ち着けようとするも、効果はない。一体どれだけの時間がたったのか分からない。なぜ私は気絶したのか、記憶が混濁している。


 意識して気絶寸前のことを思い出す。


 イヤリングを付け替えたクレアの、手を取ろうとした。ただそれだけだ。重ねようとしたその手に突然光が集まって、目の前で爆ぜた。

あれは、あれはなんだ? 

あれと同じものを昔見たことがある気がする。記憶の糸を手繰り寄せる。


 確か、王都で行われた武闘大会で魔法使いが使っていたものだ。爆発魔法。クレアが使っていたのは魔法だ。


 なぜ? どうしてクレアが魔法を扱える? 

魔法は人間には使えない。そのための器官がないのだ。例外は一度たりとも生まれたことはない。クレアは間違いなく人間であることを資料に書いてあった検査で証明されている。人間でありながら魔法を扱えるとするならばそれは……、それ、は……。


「カミラお嬢様!」


「カミラお嬢様、起きてる」


 ベッドの周りを囲っていたカーテンを開けてフェリーチャとフェリーナが入ってきた。うわーんと泣き声をあげるフェリーチャと幽霊でも見るかのような目で私を見るフェリーナ。なんでも私はあの時から一週間も眠っていたらしい。


「魔法使いも医者も異常はないって口を揃えて言うんです! でも全然目を覚まさないから……心配したんですよ!」


「カミラお嬢様……起きてる」


「見てください! フェリーナが同じ言葉しか言わなくなっちゃいました!」


 起きたばかりだと言うのに騒がしい。泣き言を言いながらフェリーナの体を揺らすフェリーチャ。この二人は双子だが、カリーナ姉さんとセレーナ姉さんのように性格は似ていない。見た目もフェリーチャは髪が長いし、フェリーナは短い。似ているようで似ていない、似てないようで似ている。そんな双子だからこういう時はいつも騒がしくなるのだ。まとめ役のフェデリーカはいないから余計に。


 そんな二人を見ているとカーテン越しに足音が聞こえてきた。シャッと音を立ててカーテンを開けたのはフェデリーカだった。カーテンを全開にしたから陽の光が入ってきて眩しく感じる。


「何を騒いでいるんですか! ……は、カミラお嬢様。お目覚めに、なられたんですね。……フェリーチャ、フェリーナ! カミラお嬢様がお目覚めになられたならどうして報告に来ないのですか!」


「だってぇ……」


「だっても何もありません! カミラお嬢様、御気分はいかがですか。なにか口にできそうなのであれば、すぐにでもご用意致します」


 さすが二人の姉貴分と言ったところか。フェデリーカは二人よりも三歳年上だ。私が三人を自分のメイドに選んだ時も、自分から選んでくれと売り込んできたのはフェデリーカだった。


「いつも通りでいい、と言いたいところだが果物か何かにしてくれ。少し体がだるいから」


「かしこましました。フェリーナ、医者を呼んできて。フェリーチャ、カミラお嬢様の着替えを手伝って」


「分かった」


「久しぶりの仕事ですね!」


 フェリーナがパタパタと小走りで部屋を去り医者を呼びに行ったのを見てから、フェリーチャに着替えを手伝ってもらい、新しい服に着替えた。寝汗をかいていたのか服が濡れていたので、ちょうど良かった。


 着替え終わったタイミングで医者を連れてフェリーナが戻ってきた。ビクビクと怯えた様子の医者はもう初老に差し掛かっている。もう何十年もクレリデイラに仕えている古株だ。診察は滞りなく行われ、異常は見られなかった。


「あまり身体を動かさないようにお願いします。異常が無いとはいえ、一週間寝たきりでしたので体力も落ちているかと思われます」


「ああ、分かった」


 しばらくは任務に着くことも減るかもしれない。体力の回復や感覚を取り戻すのに時間が掛かるだろう。手を閉じたり開いたりを繰り返す。


「カミラお嬢様、旦那様がお呼びです」


「……分かった」


 診察が終わるまで外で待っていたらしい執事の言葉に従って部屋を出た。フェデリーカに支えられながらも、まだ上手く動かせない体を無理やり動かして、父上の執務室に向かった。執務室のある二階は人気の無く、いつも話し声が聞こえない。黒く塗られた木の重厚な扉の前で立ち止まり深呼吸してからノックをした。

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