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晩夏の実り①

 アジェルダ戦地に出征する四人と兵士たちの見送りは大して面白いこともなく行われた。クレオ姉さんとの取引で、オリバーを逃がしたことがバレる可能性は低くなった。暫くは心配する必要も無いだろう。いつも通りの日常が戻ってきた。クレアと過ごす日々は楽しくて退屈しない。気づけば夏も終わりが近づいて来ているようで、あんなに眩しかった陽光も光が弱まっていた。


「おはよう! ミリー!」


「……おはよう」


 相変わらずご飯の時間が好きなんだな。この時間が一番気分が良さそうだ。


 私は食べるものは栄養さえとれるなら文句はない。彼女の場合は甘いものや果物が好みで、苦味のあるものや酸味の強い食べ物は苦手としている。ここ半年近く観察していて発見した。食事中もクレアの表情は豊かで見ていて飽きない。


「この水、とっても甘い! なんで!?」


「それは果実水だからね、甘いのは当然だ」


ここに連れてこられる前はあまり甘いものを食べた経験がなかったと自分で言っていた。「こんなの毎日食べられるなんて、すごい贅沢なんだよ!」と頬一杯に食べ物を詰め込みながら言っていたのが懐かしい。もう何か月も前のことだ。ダージリンの紅茶が淹れられたティーカップを持ち上げる。


「はわぁ……! 頬っぺが溶けちゃいそう……!」


「本当に美味そうに食べるね。ただのケーキなんだけれど」


「そんなことないよ! すっごく美味しい!……ミリーはいっつも紅茶?  を飲んでるけど、どんな味?」


クレアの目線が私の持つティーカップに注がれているのに気づいた。


「ふ、これはクレアの好みの味ではないよ。気になるなら少しだけ飲んでみればいい」


「えっ! 気になる、けど。甘くないんでしょ? 苦い?」


「どちらかと言えばね。本当は行儀が悪いから駄目なんだが、私のを試しに飲んでごらん」


ティーカップを受け皿の上に戻し、机の上を滑べらせて彼女に差し出した。迷いながらもそれを手に取ったクレアは紅茶の波を眺めている。「んー」と声を上げて紅茶をようやく飲んだ。かと思えばぎゅっ、と顔を歪めている。


「ゔぅー……苦いぃ……」


「ふ、はは、んふふ。……クレアは可愛いね」


「っもー、笑わないでよ。」


 機嫌を損ねて頬を膨らませている。こういう子供らしい振る舞いはクレリデイラの兄姉弟妹には見られない。だからこそ微笑ましく思えるのかもしれない。

 タイミングがいいかもしれない、と思い懐から小さな包みを取り出した。クレアにバレないようにそれを背に隠し、声をかけるタイミングを見計らう。


「期限を直してくれないか。その、プレゼントがあるんだ」


「プレゼント?」


「本当は別のものを渡そうと思ってたんだが、ちょっと事情が変わってね。こっちを気に入ってくれるといいんだが」


 後ろ手に隠していた包みを差し出す。私の手に収まる小さな包みだ。不思議そうにしながらそれを受け取る彼女。「開けていいの?」と聞いてくるので、もちろんと頷いた。包みの紐を取り、紙を剥がしていく。次第に見えてきた中身を見てクレアが顔をほころばせ始めた。


「可愛い! これイヤリング、だよね! ありがとう!」


「喜んでくれてよかった。向日葵が好きだって言っていただろう? だから、向日葵のデザインを探したんだ」


 早速つけようと、クレアが祖母の形見だと言っていた白石のイヤリングを外す。そのイヤリングはシンプルだが品があるものだった。


 あの露店で見つけた向日葵のイヤリングとはまた違ったデザインのものを渡すことになったが、それでも以たような向日葵のイヤリングを喜んでくれているようだからよかった。


「ありがとう! ミリー、これ大事にするから!」


「ふふ、うん」


いつものように手をつなごうとしたのだろう、さし出してきた手のひらが私に向けられた。それと同時にクレアの手の平の上に強烈な明るさをまとった光の粒が発生した。それの正体を頭が、脳が認識するよりも早く、目の前で、爆ぜた。


「がッ、かハッ……」


突如として発生した原因不明の爆発に対処することもできず、衝激によって吹き飛ばされた。背中が壁とぶつかったのだろう、鈍い痛みが背骨に響く。急に眼が強い光に当てられて白黒とした視界と、キーンとした音が鳴り響きほかの音が入ってこない耳。いまだ雪崩が起こったときのような振動が体に伝わっている。


 不良な視界の中遠くでクレアが倒れているのが見えた。先程の爆発で崩れた壁の瓦礫に埋もれ、うつ伏せになっているから顔が見えない。無事を確認しに行きたいのに体がうまく動いてくれない。眠たくないのに自然と瞼が降りてくる。


「……クレア、クレ、ア」


 視界が黒く塗りつぶされた。

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