花を攫う夏風⑧
「カ、カミラ」
声もどこか震えている。
「わ、私……その、ご、ごめ」
「ごめん、私が悪かった」
これは私が言わなきゃならない、そう思った。
「え?」
「ごめん、クレアが非道なことを嫌うなんて分かってた。けどこれが私の今までの生き方だし、きっとこれからもこの生き方は変わらない。人として間違ってることをしてるのは分かってる。でもどうか、お願い。私を、私を嫌わないでくれ」
滅茶苦茶だ。言っていることがちゃんと伝わっているのか分からない。いつもの冷静さを欠けている。それでもとにかく言葉を紡ぐ。何とか、伝わって欲しい。
あの言葉は本心じゃないんだ。
「……ふは、ふふ、あはは」
急に笑い声が響いた。驚いて顔を上げる。
クレアが目に涙を浮かべながら笑っている。
「ど、どうしたんだ……?」
「ううん、なんでもないの! ただ良かったって思って」
「よかった?」
「うん」と涙を拭いながら元気よく頷いた。理由は分からないが、急に彼女の体の力が抜けて座り込む。
「私、カミラが怖かった。あの言葉も言われて確かに傷ついたけど、私のことを心配してくれたんだよね」
涙を拭いきって笑みを浮かべたクレア。小指を差し出してきた。
「仲直り!」
「……うん」
小指を互いの小指に引っ掛け合う。仲直りの証だ。胸にじんわりとした暖かいものが広がって、目頭が勝手に熱くなった。目元に触れれば手に水が着く。泣いているのか。でも、悲しくない。泣いているのに悲しくないなんて初めてで不思議だ。小指を解いて、手を握る。久しぶりに二人で笑いながら手を繋いで歩いた。
それから、しばらく書庫で時間を潰した。私のお気に入りの本を見せたり、私たちの出生の記録を見せたり。退屈することはなかった。朝日が登って本館に人の気配がするようになってから、バレないように本館に戻った。本館は忙しそうに使用人たちが行ったり来たり。何かあったかと思考を巡らせる。思い当たったのは、今日がアジェルダ戦地に四人が出征する日だということ。
クレアの手を引いて広間に向かう。一応、こういう日には家族が見送ることになっている。形骸化した家族のルールだ。広間にはまだ出征する四人は揃っていなかったが、人影が三人。
クリスティーナ姉さんとカーティス兄さん、クレオ姉さんだ。シエラン兄さんの姿は見られなかった。どうせまた部屋に人を連れ込んでいるんだろうから昼過ぎまで起きてこない。
こちらに気づいたクレオ姉さんが表情を硬くする。クリスティーナ姉さんとカーティス兄さんはこちらに気づいても一瞥するだけで話しかけては来なかった。
カーティス兄さんはいつもそうだが、クリスティーナ姉さんはいつもなら話しかけてくるはずだ。あの人は慎重すぎるほど、念入りに準備してから行動する人だ。まだクレアを見定めている最中らしい、彼女が自分に利のある存在だと認識すれば関係を持とうとするはずだ。そんなことを考えていれば、クレオ姉さんが口を開いた。
「カミラ……お前は随分と私の管轄内で好き勝手してくれたようだな」
「……なんのことだか」
シラを切る私に苛立ったような表情を浮かべるクレオ姉さん。やはり私たちの行動はバレてしまっていた。感情をむき出しにするところはやはり子供っぽい。そういう所はあの双子に似ている。
「このことを父上に報告したら、お前も逃亡犯も、クレアだってタダではすまないぞ」
「事実が明るみになればタダではすまないのはクレオ姉さんもだ。……地下牢に随分お気に入りの囚人でもいるんだな」
「……!」
はっと息を飲み、驚愕に表情を染めているクレオ姉さん。まだ父上に報告していないのは重要度が低いのと同時に、囚人に逃げられたとなれば管理者として責任を問われるのはクレオ姉さんも同じだからだ。脅しには脅しで返す。
声を小さくしてあの妙な囚人の男についてハッタリを仕掛ける。弱味があると自分から言っているようなクレオ姉さんの反応。ポーカーフェイスが苦手なのは昔からだ。
人差し指を唇に当てる。雄弁は銀、沈黙は金。
「……お互いに利のある取引、そうだろう? クレオ姉さん」
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