花を攫う夏風⑦
「ここなら大丈夫だよね」
「書庫には基本誰も来ないよ」
書庫の窓から別館の中に避難できた。一先ずは大丈夫だろう。
「これからどうすればいいの? どうすればオリバーをここから逃げさせられるの?」
「一旦ここに避難はしたが、もう直ぐにでも逃げられるよ。ここに来た時のように塀を乗り越えればいい。兵士が見回りに来るタイミングは私がわかってるから、心配ない」
そう言えば頬を緩めるクレア。それに対してオリバーは困惑した表情を見せていた。
「俺を逃がすって、シシーは? まさかここに残るなんて言わないよな?!」
「……私は」
握っているクレアの手に力を込める。行かせない。逃げたって無駄だろう。初めから逃げなければよかったと後悔する羽目になるだけだ。
「私は、ここに残る」
残る。クレアは自分でここに残る選択をしたのだ。
「な、なにいってんだよ。お前は怖いのも痛いのも嫌いだろ! ここにいたらずっとそんな目に合わされるぞ! だから一緒に逃げよう! 俺がお前を守ってやるから!」
「ありがとう、オリバー! でもいいの、町のみんなに私は元気だって伝えて!」
呆然とするオリバーに睨みをきかせる。さっさと帰ってくれ。こいつがいたらクレアの決意が揺らぐかもしれない。
「塀のそばの兵士の気配が離れた。行くなら今だ、機会を逃せば見つかる可能性が高まるぞ」
オリバーを急かす。ここにいて欲しくないからだが、今の機会を逃せば逃げずらくなるのも事実。
「俺も、ココに残る。それならお前を守ってやれるだろ!」
「オリバー……」
「無駄だ。お前がここに残る選択をしたところで、また地下牢に連れ戻されるだけ。お前が地下牢の外で見つかることが、クレアを危険な目に晒すんだ」
どうして分からない。どうして早く去ってくれないんだ。ここに残ったところでできることなんかない。住む世界が違うんだ。ここに残ってオリバーが見つかれば、地下牢から連れ出したクレアと私も共に捕えられる。
「オリバー! 私は大丈夫! オリバーは自分のことを考えて! さあ、行って!」
クレアがオリバーの頬を掴み、顔を寄せる。そして諭すように言ったかと思えば別れを惜しむように抱擁をした。そこまで言われてはどうにもできないのだろう。オリバーは諦めたように窓枠に足を掛けた。
「……わかった。だけど、諦めた訳じゃないからな! 大人になって、力をつけて、シシーを本当の意味で守れるようになったらまた迎えに来るから!」
オリバーはそう言って身軽な動きで颯爽と去っていった。大人になったら迎えに来る、か。大人になるまでクレアが生き残っていればいいが。
オリバーがいなくなって、気まずい沈黙が続く。クレアの方を見れば唇を噛み締めて俯いていた。自分で残る選択をしたとはいえ、ほぼ強制だった。それに、やはり町と母親が恋しいのかもしれない。私には、理解できないけれど。
クレアをここに残らせたことに少しばかり罪悪感を覚えた。なんて声をかければいいのか分からない。もう一度クレアの方を見た。すると決意を決めたかのように彼女はこちらに向き直った。
いつかの光景と同じだ。
クレアの手はスカートをぎゅっと力強く掴み背は丸まっている。強風が窓を打ち付けた音が響く。あの時ほどの恐怖感は感じ取れないが不安そうなのは伝わってくる。
「カ、カミラ」




