花を攫う夏風①
目を覚ましたのは昼過ぎだった。いつもならフェデリーカやフェリーナが起こしに来てくれるのに昼過ぎまで寝ていたということは任務で疲れていると思って放っておいてくれたんだろう。
任務完了の旨を父上に報告しに行かなければならない。昨日のこともあって気分は良くないが、朝食という名の昼食を取る前に報告に行った方がいいだろう。
情報を流していた裏切り者の件もあるから出来るだけ早く見つけださなければ。まあ、そういうことはクレオ姉さんの担当だ。気怠い体を動かし、フェデリーカとフェリーナに支度を手伝わせる。いつも通りの堅苦しい格好よりも任務の時の人に溶け込む用の服の方が好きだ、そっちの方が動きやすいから。
屋敷の中にいる間はこの堅苦しい服を脱ぐことはできない。ただでさえいつもより人が多くてうるさい屋敷内に辟易しているのに、ストレスが多くてはたまらない。だが明日にはセレーナ姉さんとカリーナ姉さん、そしてカラムとクランレスもアジェルダ戦地に出征することになっている。うるさい屋敷内も幾分か静かになるだろう。
とはいえ、この父上の執務室周辺だけはいつも静かだ。静寂すぎて逆に気味が悪いほどに。重厚な木の扉を三回ノックする。
「父上、カミラです。任務の報告に参りました」
「……入れ」
「失礼します」
扉を開けた先には珍しく先客がいた。噂をすればなんとやら、アジェルダ戦地に向かう予定の四人だ。どうやら取り込み中だったらしいが父上がいいと言ったのだから遠慮する必要は無い。
「……報告しろ」
「はい。フィリア伯爵夫人の暗殺は無事完了、その場に居合わせた魔法使い一人と騎士二人も共に処理。しかし、どうやら私が暗殺に向かっていたことを事前に知っていたようでした」
「なんだと?」
椅子に座ったままの父上が指を机に打ち付ける。コツコツと鳴らすそれは父上の苛立ちを表していた。
「そうか、それはつまり、このクレリデイラに裏切り者がいると? そう言いたいのかカミラ」
「……はい。別館のものにリルドー地方と血縁関係のある者がいたかと」
コツコツと爪と机がぶつかる音は鳴り止まない。だがしばらくの静寂の後、父上は溜息をつきながら頷いた。
「ふん、クレオにでも問い詰めさせよう。そろそろ一度この家も掃除が必要な頃だからな、ちょうどいいだろう」
そう答えるコーディー・クレリデイラという男は実に合理的で実につまらない男だ、とカミラは思う。その胸元に輝くサファイアのブローチは代々クレリデイラ家当主の身につけることが許されたもの。つまり投手であることの証明だ。
それをこの男は実につまらない方法で手に入れた。兄弟姉妹、父母、妾、その全てを一夜にして虐殺して見せたのだ。競争相手がいなくなったら当主になるのは必然となるから、そんなある意味合理的で強引な手に出た。
そして今も、クレリデイラ家を手中に収めるだけでは飽き足らず国を思いのままに操っている。どういうことかといえばここシリディ国の国王は父上の傀儡と化しているのだ。国内のクレリデイラ家と敵対する国王派と争いながらも、隣国カサール国に戦争を仕掛けている真っ最中。その戦争の最前線アジェルダ戦地にこの四人が送り込まれるのだが、おそらく双子は死ぬことは無いだろう。実に残念だ。
「お前たちも話は終わったはずだ、さっさと出ていけ」
「「はーい、お父様」」
セレーナ姉さんとカリーナ姉さんはいつもこの調子だ。溜息をつきながらも失礼しますと言って足早に立ち去ろうと扉を潜り抜けた時、私の前に先回りしてきたのはやはり双子だった。
「ねえ、どうだったかしら? 私たちからのとっておきのプレゼント喜んでもらえた?」
「ふふ、きっと喜んでくれたわ! だって今のカミラ、私たちが心底憎いって表情だもの」
身を寄せあってヒソヒソ話すようにしながらこちらをニヤニヤと、チェシャ猫のように見つめている。何がしたいんだか、いつも分からない。理由なんてないのは分かっている。いつも楽しむ為だけに他人の人生を壊すことを遊びとしてきた人達だ、それを間近で見てきた。とはいえ、腹は立つ。
「クレアちゃん、とっても可愛いわね! 私たちの任務の話をしたら顔色が真っ青!」
「ちょっと揶揄うつもりで話しかけたのに、あんなに可愛い反応なんだもの! 面白かったわ!」
「私を怒らせて楽しみたかったなら成功なんじゃないか」
いつも通りポーチから二本のナイフを取り出し、二人の首を狙うように見せかけてドレスの裾を狙う。ナイフでドレスの裾を縫い付けられた二人は、首を狙うと思って避ける動作をしていたからナイフに引っ張られて倒れ込んだ。
「きゃあ! ……ちょっと!」
「きゃあ! ………もう! なんなのよ」




