嵐の吹き荒れる梅雨③
「まさか本当に暗殺に来るだなんて」
「フィリア様に嘘はつきません」
どこからか四人の大人たちが出てきた。フィリア伯爵夫人に男の魔法使い、騎士が二人。
「なぜ気づいた?」
「黙れ、子供といえどフィリア様に危害を加えようとした貴様に発言を許可した覚えはない!」
ただ聞いただけだと言うのに随分と威圧的だ。まあ、主人を狙われたとすれば当然か。私を拘束しているこの魔法陣、立ったままでいられるのを見るに大して強いものではないが今は大人しくしておくべきか。
「落ち着きなさいエリヤ。なぜ気づいたかだったわね、聞いたところで何も出来はしないでしょうし、いいわ教えて差し上げましょう。……情報ほど恐ろしいものもないのよ」
つまり密告者、裏切り者がいると。処理が面倒だ。嬉しそうに頬を紅潮させ、エリヤと呼ぶ魔法使いと腕を組んでいるフィリア伯爵夫人を見つめる。さながら恋仲の距離感だ。
「おかしいとは思っていたが、最初から分かっていたのか、なるほど」
「? なんの話かしら」
もう勝利を確信しているのだろう、余裕の表情の彼女に少しばかり落胆する。聡明な人だと断定するのは些か早計だったようだ。
「なぜローブを着ていた私のことを一目で女、しかもまだ子供だと言える年齢だとあの露天の女店主は気付けた? リルムレットは他の都市に比べて他種族が訪れることが多い都市だ。性別も種族すらも一目では断定できないはずなのにあの女店主は当ててきた」
そう、本来ならおかしいことだ。リルムレットの住民たちは他種族のものの扱いにも慣れているから、客引きの時にも性別などのことは言わずに服装や持ち物の特徴だけで呼びかける。それなのに一番最初に見た目で声をかけてきた時からおかしいと思っていた。
「十中八九、私を警戒していたんだろう? そして買ったイヤリングに追跡魔法でもかけていたか」
ポーチから向日葵のイヤリングを取り出し踏み潰す。少し名残惜しかった。
「……わかっていながらどうして、自分から罠に嵌まりにきたのかしら。貴方は年齢に見合わず聡明だからこうなることも予想が着いていた、違う?」
「罠だとわかっていたとしても、これが任務である限り失敗は許されない」
罠だとわかっていて自分からやってくるのは勝利を確信しているからだ。私は負け戦をする趣味はない。強められた魔法陣の拘束で膝をつかせられる。
顔を下げ、視線の先を悟られないようにしてから魔法使いの男を盗み見る。白髪紫目、短髪で肌は褐色。杖を持っていないのを見るに成人済みだが、私を拘束している魔法陣が不安定だ。
まだ無詠唱で魔法を発動できるほど成熟はしていないな、クレリデイラ家に仕えさせられている魔法使いたちと戦闘訓練している時のような命の危機を感じない。
これなら魔法陣から抜け出しさせすれば制圧は簡単だろう、伯爵夫人は言うまでもない。問題は後ろに控えている二人の騎士だ。暗殺は犯人の情報が漏れてはいけない。
この場にいる全員まとめて殺す必要がある。一に魔法使い、二に騎士、三に伯爵夫人だ。
「まあ、なんて可哀想な子。このまま罪を認め正直に情報を吐くのなら、命だけは見逃して差し上げましょう」
「! フィリア様、それは……」
「エリヤ、いいでしょう? この子はまだ子供だわ、更生の機会を与えるべきよ」
ね?と首を傾げ魔法使いに身を寄せる彼女に魔法使いは大きく出れないらしい。まだだ、魔法使いが完全に油断した瞬間が来るまで、魔法陣から抜け出す最適な瞬間は今じゃない。
「ま、まあフィリア様がそう仰るのでしたら、このエリヤに異論はございません」
まだ。
「エリヤならそう言ってくれると思っていたわ! 良かった」
まだ。
「当然でございます、フィリア様のお言葉に間違いなどございませんから」
いまだ。




