嵐の吹き荒れる梅雨②
「……屋敷に侵入する夜中まで時間があるな、適当に時間を潰すか」
リルムレットは流石と言うべきか、土地も人口もシリディ国最大の都市としての風格がある。大通りは人通りが絶えることなく多様な人が行き交っている。
「そこのでかいリュックの人ー! 道案内ついでによってっとくれよ!」
「美味しい串カツはいかがですかー! ねえ、そこのとんがり帽の人! おまけするよ!」
荷物片手に立ち話をする女たち、露店で値切り交渉をする旅人、人と人の合間を縫って走りまわる子供たち。
人だけでなくドワーフや珍しくエルフも見られる。私たちクレリデイラ家があるジェラムの街では見られない光景だ。
あそこは常に商人の駆け引きが行われ、賭け事で盛り上がる大人が大半。ほとんどの子供たちは寮制の学校に送られているから街で同年代の子供を見かけることはない。
こんなにも違うのかと少しばかりの衝撃を受けながら、目的もなくフラフラと街を見て回る。中々面白いものばかりだ。
「そこの美人なお嬢ちゃん! 灰色の髪の子! ちょっと見てかないかい?」
「……私?」
「そうそう! そこのお嬢ちゃん、ちょっと見てかないかい? アンタに似合う可愛いのが沢山あるんだよ」
どうやら私に話しかけていたらしかった。暇つぶしにはちょうどいいと近づいていく。私に話しかけた気前の良さそうな赤茶色の髪の女性が開いていたのは装飾品の露天だった。
ペンダントや髪飾り、イヤリング。私のような年代の女子が好むのだろう可愛らしい装飾品が沢山並べられていた。
「なにか気になるのがあったら言っておくれ、ちょっとまけてあげるからさ!」
「……ありがとう」
こういう時はありがとうと言えばいいとクレアに教わった。ぎこちなくも言ってみれば店主の反応的に正しかったらしい、満足そうに笑みを浮かべている。
視線を下に向けて並べられた商品を見る。青い石が埋め込まれた金属製のバレッタ、銀の花の髪留め、シンプルな丸いイヤリング、色とりどりの糸で編まれた花のブレスレット。
どれも私の好みでは無いなと立ち去ろうとした時、視界の端にとまった向日葵の花。
「これ、ください」
「ん? ああこれかい? はいよ毎度あり!」
精巧にかたどられた向日葵のイヤリング。
クレアは、確かいつも小さな白石のイヤリングをしていたから、これも付けられるはず。
お土産というのだろうか、こういうのを買って帰るのは初めてだから喜んでくれるかは分からないけど、帰ったら渡してみよう。それをポーチの中に大切にしまい込んだ。
夜は思ったより早くやってきて、予め確認していたルートで屋敷内に侵入するのは容易だった。同じ伯爵家といえどクレリデイラ家ほど警備は厳重ではない。
気配を消し、見回りの兵士をやり過ごして、暗殺対象のいる部屋のバルコニーにたどり着いた。音を立てずに部屋の中に入り込めば人の気配がしない。
悟られたか、そう思いながらすり足でベッドに近づいていけば足元に光を放ちながら魔法陣が展開した。




