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嵐の吹き荒れる梅雨

クレアがクレリデイラにやって来てからもう二ヶ月以上が経ち、ここでの暮らしにも慣れてきたのか笑顔を見せることが多くなっている。


授業はもう終わったものの毎日会いに来るクレアと朝食を共にしたりと、任務で忙しいながらも去年までとは違う日々を過ごしていた。


 クレアは私のような暗殺の任務は与えられていないが、書類整理などの簡単なものをこなすようになっていた。少しづつではあるが成果を積み重ねていけば今年は第十位の座を下ろされることはないだろう。


来年以降は明確な実績が必要になってくるだろうが、まだ心配する必要はない。


「ミリー! おはよう!」


「ああ、おはようクレア」


 いつも朝は楽しげだが、今日はより機嫌がいいように見える。ここ数ヶ月でクレアは食事をしている時が一番幸せそうであることに気づいた。


「今日のご飯なにかなー? あ、クレオお姉ちゃんだ」


 おーい、とクレアが手を振る先にはクレオ姉さんの姿があった。


「ん? ああ、おはよう二人とも」


「おはよう! クレオお姉ちゃん!」


 クレオ姉さんは頑固で頑なな性格ではあるが、懐が深くクレアを意味無く虐げたりするような人ではない。


 クレアがほかの兄妹と接するのに唯一気負いなく接することができる人だろう。


 クリスティーナ姉さんは一見優しげに見えるが、残忍で容赦なく人を切り捨てられる冷酷さを持ち合わせている。

クレアを不用意にクリスティーナ姉さんに会わせれば良いように利用されて終わりだろう。

セレーナ姉さんとカリーナ姉さんは以ての外だ。


 残りは男兄弟だが、カーティス兄さんは興味すら持たないだろうし、シエラン兄さんはクレアの教育に悪い。クランレスとカラムはクレアが無力なのをいいことに怪我を負わせて序列争いから離脱させようとするだろう。


 まともにクレアと接してくれるのはクレオ姉さんが無難なとこだ。


 朝食を食べながら楽しげに会話する二人を眺めていると、後ろに控えていた使用人から父上の命令が書かれた紙を渡された。

内容はここから遠く離れたリルドー地方の伯爵夫人の暗殺。最近は暗殺の命令が多い。あまり多く敵対勢力を間引いてしまえばそれを逆手にどんな奸計をされるか分からない。


それを父上もわかっているはずなのに、それほど敵対勢力が大きいということなのか。


「ミリー? どうしたの?」


「任務が入ったから朝食を取り終わったら、出るよ」


「わかった! 行ってらっしゃい!」


 うん、と頷いて少し早めに食事を進める。

今までは本を読むのに熱中して朝食や昼食を食べないこともざらだった。


 随分健康的な生活を送るようになったなと自分でも思う。今回の任務は二週間くらいかかるだろう。殺すのは簡単だが、リルドー地方まで行くのに時間がかかる。警戒されないように、リルドー地方まで歩きで向かって帰ってこなければならない。


 そんなことを考えながら食事を終えて予定を組み立てる。クレアはクレオ姉さんにでも任せておけばいいだろう、いつもの任務用ローブを被り短剣を腰に、予備のナイフ二本をポーチにしまい屋敷を出た。


 クレリデイラ家が位置するジェルト地方が永凍の地と呼ばれ、夏でも気温が低く作物があまり育たないのと比べ、リルドー地方は実りの土地とも呼ばれる広大で豊かな場所だ。


 この国、シリディ国の糧を約四割も賄っているのがいい証拠だ。当主であるはずの伯爵は病に臥せまともに仕事もできない状態のため、伯爵夫人の彼女が代理として仕事をこなしている聡明な方だと資料からわかる。


 暗殺対象の伯爵夫人は朗らかな人だと聞くが、王都の貴族たちからはリルドー地方の田舎者と馬鹿にされているらしい。広大な土地を持ち、国を支える糧を作る農民の主たる彼女に考え無しに傲慢で無礼な態度を取れるとは、会ったこともない王都の貴族は随分愚かだ。


 写真の中の伯爵夫人を見る。名はフィリア・リーレン、焦茶色の髪に同じ色の目、まさしく秋を体現したような人だ。


 街を出て、旅の馬車に乗せてもらい、また街につけば建物の屋根を飛び移って出来るだけ早く進む。


 そうやって進んでいけば、五日目で着いたリルドー地方最大の都市「リルムレット」。

 リレーン伯爵家がこの街の中心地にある。

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