これ以上はこの先も
失礼なリュックモンド氏以降も、縁談話を父親は立て続けに持ってきてくれた。しかしそれはなんと言うか、何かしら難ありの案件ばかり。やけに高齢男性だったり、訳ありの再婚希望者、後妻希望の癖あり男性で、結局わかったことはひとつ。
たとえ私が初婚でも、修道院上がりとわかると、途端に値踏みされる。しかも男爵令嬢だからと軽く扱われることもよく理解した。
(冷静に考えると、私は結婚願望が強かったわけではない。コルネ伯爵のウェディングドレスに感化され、結婚を考えるに至ったのだけど。別に結婚しなくてもウェディングドレスを着ればいいだけの話だ。自分が着て満足し、以上終了でいいではないか)
そういう結論に至り、父親には「もう縁談話は受けない」と伝えようとしたところ──。
「マリエット、とんでもない優良な縁談話があるぞ!」
本当は手紙で「もう縁談は懲り懲りです」と伝えることも考えた。だが父親は私のために尽力してくれたのだ。きちんと顔を合わせ、縁談は……結婚を断念すると伝えるつもりでいた。それなのに父親はとんでもなく優良な縁談話があると言うが……。
「お父様を疑うわけではないですが、前回も。その前も。同じことを言われましたが、お相手は生きた化石のようなご老体や青髭と呼ばれる妻子殺しの疑惑のある伯爵でしたよね? 今回も……」
「今回は違うぞ、マリエット!」
「今回は、と強調するということは、お父様、ご老体や殺人鬼かもしれない殿方と知りながら……」
「そ、それは……仕方ないじゃないか、マリエット! 世間は修道院からの出戻りの男爵令嬢を値踏みするんだ」
父親が遂に弱音を漏らし、私は「ああ、やっぱりね」と思う。
「ともかく、今回のお相手はこれまでとは違うんだ!」
「……期待はせずに聞きます」
「期待して聞いていいと思うぞ。まず、お相手は騎士の方だ」
「……騎士、ですか」
「ああ、そうだ。将来有望と言われており、出世は間違いないそうだ」
(つまり騎士団長になる逸材……ということね)
武力に秀でた相手なら、手合わせにも付き合ってもらえる。
(いいかもしれない……)
「しかも侯爵家だ! 我が家よりうんと格上の家門!」
「そうなのですね……!」
「そして嫡男。将来は侯爵夫人になることが約束されている」
「……! で、ですが私、できればまだ宮殿勤めをしたいのですが……」
「その点についても問題ないそうだ。職業婦人は素晴らしいという考えのお方だ。さらにかなりの美青年だと聞いている」
これまで紹介されたお相手は、結婚したらメイドを辞めて欲しい……が多かった。その理由は介護のため、体面のため、子作りのためと様々ではあったが。
「それでその素敵な騎士の方のお名前は?」
「それがな、仲介人を通して紹介された話なのだが、お相手は性格も良いようだ。マリエットが修道院にいたことも気にしない。何よりもお互いのフィーリングこそが大切と考え、変な先入観を持たず、まずは会おうとおっしゃってくれた。向こうもマリエットの名を知らない。お互い、一人の妙齢の男女として顔を合せようとなったのだよ」
「なんてよくできた方なのでしょう、お父様!」
「だろう? そう思うだろう? 父さんもこの方ならマリエットを安心して任せられると思った。そして後にも先にも、これ以上の御仁は見つかると思えない」
確かにこれまでの縁談相手を考えると、こんなに好条件な相手はいなかった。
「マリエット、会ってみるだろう?」
「はい、お父様!」
◇
まさに五月晴れの日曜日。
私はメイドの仕事をお休みし、前日から屋敷に泊まり、朝からきっちり身支度を整えた。
(きっと上手く行く。私、コルネ伯爵みたいな素敵なウェディングドレスを着ることができるわ……!)
晴れ渡った青空を見上げ、気分爽快になったまさにその時。
窓から見える庭園で何かが横切ったように思える。
(気のせい……? 気のせいなわけがないわ。私はこれでも諜報部ミラーの一員。動体視力はバッチリ鍛えている。……何者かが侵入した、と思う)
縁談に向け、既に水色の生地に黄色の花がプリントされたお洒落なドレスに着替えていたが……。
(仕方ないわ。賊ならとっとと始末してしまおう)
そこでナックルダスターを手につけ、ドレスのスカートの下にはナイフと警棒を隠し、私は一階へと向かう。裏口から庭へ向かおうとすると――。
ふわりと香水が匂う。
(これは――)
「リエット! 会いたかった!」
まさかの背後を完全にとられ、ジークに抱きしめられている!
(な……! せっかくの香水なのに、風下にいられては感知できなかったわ!)
「もう、ジーク、任務はどうしたんですか!?」
「リエットに会いたくて、早々に片付けたてきた」
「……! 簡単な任務だったんですね」
「そうだな。間もなく結婚するレグルス王太子殿下を狙う刺客を国境付近で仕留めてきた。僕一人でね。まあ二十名ぐらいだったから、どうってことはない」
(待って、待って、待って! 国外から来る刺客なんて、その道のプロのはず。その相手をたった一人でしたの?? しかも予定より早く切り上げて戻って来るなんて……!)
「ちょ、ジーク、どさくさに紛れ、抱きつかないでください」
そうピシャリと言った瞬間。
「何、この金属のような……錆びついた鉄のような匂いがする……」
「あ」
ハッとしてジークの方を振り返る。
「ごめん。リエットにもらった香水をつけたけど……誤魔化し切れないか」
「どういうことですか、ジーク!」
「まあ、急いで片づけたから、多少の無理をしたというか」
「まさか……怪我を……怪我をしているんじゃ……」
そこで息を呑む。
ジークは濃紺のジャケットを着ているが、その下の白シャツに血の染みが見える。
「たいした怪我じゃない。かすり傷だ」
「……ジークは強いから怪我なんてしないはずです」
「はは。……そうだな。本当にかすり傷だったのだけど、なかなか血が止まらなくて。うーん、多分、毒が塗られていたのかもしれない。この後、ホワイティア先生に診てもらうよ。それより、ほら。これ」
そういうとジークは紙袋を差し出す。
「ドライフルーツだよ、リエット。南国の珍しいフルーツ、マンゴーだ。食べたこと、ないだろう? 国境付近まで行って、一度出国した時、隣国で手に入れた。きっとリエットが喜ぶと思って」
そこでジークは笑顔になるが、額には汗が浮いているし、顔もいつもより赤くなっている。
「ジーク! ドライフルーツなんて言っている場合じゃないですよね!?」
その手に触れると、燃えるように熱い。
「ちょ……ジーク! すごい熱があるじゃないですか!?」
「うん……そうかな? リエットに会えて、感動して熱くなっただけだよ」
「違うと思います! なんで……なんでそんな無茶するんですか!」
カタコンベでミノタウロスみたいな大男に殴られたジークは、驚くほど冷たかった。あの時は、その冷たさに衝撃を受けたが、今は……。
「こっちに来てください、ジーク!」
「えっ……」
そのままジークの手を掴み、屋敷の中へ入ると、客間へと向かった。
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