イースターエッグハント
「オルリック嬢、九時の方向に敵一名です!」
アーチの上から指示を出すモンクレルテ嬢の言葉に左手の生け垣を見る。確かに葉の隙間から上質そうなワイン色の生地が見えていた。
(……私が気付いたということは。あっちも気付いた可能性が高い。ならば)
「リエット!」
「ジーク!」
警棒を手に踏み出したが、ジークは丸腰。
「武器を持たない上官を攻撃なんてできないわ」
「……リエット……!」
「何よりも私、ジークとは争いたくないので、どうぞ」
メイド服のエプロンのポケットから、一人一個持っているイースターエッグをジークの方へと差し出す。
「そんな……リエット」
ジークが赤銅色の瞳をうるうるさせる。
(あと一押しね)
「気にしないでください、ジーク。私にとってジークと争うより、これを渡し、リタイアする方が気持ち的に楽ですから」
塩らしい表情でうなだれると、ジークがハッとする。
「いや、リエット! 君にそんなこと、させられない。僕がリタイアする。僕の分のイースターエッグはリエット、君に捧げる」
ジークが上衣のポケットからイースターエッグを取り出す。
「ジーク……!」
「女性陣営に勝利を。願わくばリエットが勝利の女神にならんことを」
決め顔になったジークの手からイースターエッグを受け取る。
「ありがとうございます、ジーク! では遠慮なくいただきます」
「!? リエット……? ここはもっと感動的な展開になっていいはずでは!?」
動揺するジークをよそに、モンクレルテ嬢が声を上げる。
「オルリック嬢、三時方向に敵、複数です!」
「それ、鍛冶工房の爺様方だと思います! そこはダイアンを動かした方がいいかと」
「なるほど、了解です!」
「リエット、感謝の熱い抱擁は?」
面倒なジークにはとっとと撤収してもらおう。
「リーヴィエル侍女長、一名リタイアです!」
「えええ、リエット~!」
ジークの情けない声が宮殿の広大な庭園に響き渡った。
◇
春分の後の、最初の満月の次の日曜日。
その日は毎年イースターだった。そしてイースターの日は朝から王族たちはイースターの礼拝に出席し、その後は宮殿の敷地内で行われる恒例のイースターエッグハントに参加する。
通常のイースターエッグハントは、庭園に隠されたイースターエッグを見つけ出すというものだが、今年は趣向を凝らしたものになっている。
男性陣と女性陣にわかれ、それぞれの総大将は国王陛下と王妃殿下。各自一つずつ持つイースターエッグを探すのではなく、ハント(狩る)するのだ。一部の者は運営を担当し、リタイアした者を庭園の外へ連れ出す役割を担っている。だがそれ以外では多くの貴族や騎士が、このイースターエッグハントに参加していた。
(つまり相手と交渉し、イースターエッグを手に入れるわけだけど、武器を手に戦うわけではない。あくまで交渉で相手からイースターエッグを手に入れる。さっきのジークに対して、私がしたように)
「ボルチモア先生はダイアンさんが、鍛冶工房の爺様方もダイアンさんが制圧されています! ダイアンさんは大活躍ですね」
興奮気味のモンクレルテ嬢に近づき、戦況を確認する。
「庭園に散らばっている人はもうわずかです。そろそろ終幕でしょうか」
「そうですね。コルネ伯爵のところへ戻りましょうか」
モンクレルテ嬢と共にガゼボにいるコルネ伯爵のところへ戻ると、伯爵が座るテーブルには沢山のイースターエッグが置かれている。そばにはダイアン、ルベール嬢、ララ嬢、そして少し離れた場所にスコット筆頭補佐官とレグルス王太子殿下がいた。
「ううっ、こんな究極の選択、僕に答えを出すなんて、無理です! 主を立てれれば、最愛を裏切ることになる……。一体どうすれば……!」
スコット筆頭補佐官はルイーザ様と向き合い、最愛の婚約者である彼女からイースターエッグを受け取るか、渡すかで大いに苦悩していた。
「スコット筆頭補佐官、ここはコイントスで決めましょう」
「ル……テレンス嬢……!」
「それが一番公平です。交渉で決まらない方は、皆、そうしていますから」
「……わかりました」
「どんな結果であれ、恨みっこはなしですわ」
表が出たらルイーザ様にスコット筆頭補佐官がイースターエッグを渡す。裏だったらルイーザ様がスコット筆頭補佐官にイースターエッグを渡す。そう取り決めた上で、コインを投げた結果。
「コインは裏です!」
運営に回っているリーヴィエル侍女長が高らかに告げると「そんな~!」とスコット筆頭補佐官は頭を抱える。
(勝ったのはスコット筆頭補佐官なのに、全然嬉しくなそうだし、むしろとても悲しそう。勝利だったのにこんなに絶望的になるなんて……見たことがないわ)
とにもかくにもルイーザ様のイースターエッグはスコット筆頭補佐官の手に渡った。
「次はいよいよレグルス王太子殿下とコルネ伯爵ですね。どうなるのでしょうか……」
モンクレルテ嬢が神妙な面持ちになった。
◇
レグルス王太子殿下とコルネ伯爵。
レグルス王太子殿下は頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群で、剣術の腕はソードマスターと変わらない。自分に厳しく部下にも厳しい彼が唯一甘い表情を見せるのが、婚約者であるコルネ伯爵と言われている。
(殿下は婚約者にゾッコン。そうなるとここは殿下がコルネ伯爵にイースターエッグを渡す……? でもコルネ伯爵は伯爵で、元は殿下の侍女をしていた身。元主を立て、イースターエッグを渡す可能性も高い)
こうなるとスコット筆頭補佐官とルイーザ様の時と同じように、コイントスで決まるかと思ったが……。
「殿下」
「アンジェリカ」
歩み寄った二人は向き合うと、お互いのイースターエッグを差し出す。
「では殿下、いただきます」
「ええ。わたしもいただきます」
なんと二人はお互いのイースターエッグを交換し、お互いに手に入れるという結末を迎えたのだ……!
「くっ、なんて美しい! あれなら恨みっこなしだ! 僕もリエットとこうしたかったのに!」
「というかジーク、リタイアしたのにここにいないでください!」
「いや、もうこれで終幕だ。国王陛下夫妻は競わないからな。あとは両陣営、手に入れたイースターエッグをカウントして、勝者を決めて終了だ」
ジークの言う通りで、運営に回っているリーヴィエル侍女長らがイースターエッグのカウントを始める。相当な人数が参加していたので、数えるには相応に時間がかかったが……。
「集計が終わりました。女性陣営、777個。男性陣営、777個。この勝負、引き分けです!」
これには参加者がドッと沸く。
「最後の殿下と伯爵の交換、あれがよかったのだろう」
「二人の愛が平和な結果を導いた」
「引き分けなら恨みっこなしだ。この後の舞踏会も気持ちよく参加できる」
春爛漫。
宮殿で開催されたイースターエッグハントは、大変牧歌的な結末を迎えた。
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