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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
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202/205

アルラーク隊長編

「隊長、二月のチョコレートのイベントに続き、また何やら動きがあるようです」


 日曜日の昼下がり。


 巡回に出て、王都警備隊立ち寄り所となっているカフェで休憩をとる自分の元へ、部下が報告に来た。


「まさかまた街中のあちこちで行列か!? 前回はその行列でいろいろトラブルが起きたが……」


 三月に入り、舞踏会や晩餐会が増え、酔客によるトラブルが増えているものの。まだ寒さの名残りもあり、怪しい輩も大人しくしている……と思ったら!


「いえ、隊長、今回はその心配はありません!」

「そうなのか?」

「前回はチョコレート限定だったので、特定のお店に行列ができたのですが、今回はありとあらゆる店が『3月14日はチョコレートのイベントのお返しの日です!』ということで、お返しギフトの販売をしています。みんなそれぞれ気になるお店に足を運ぶので、分散され、行列の心配はないかと」


 それを聞き、安堵で大きく息を吐く。


 息を吐いたが「うん?」となり、部下に確認してしまう。


「『3月14日はチョコレートのイベントのお返しの日です!』――と言ったか?」

「はい! 隊長もチョコレート、もらいましたよね? ちゃんとお返し、した方がいいですよ。これだけ街が大騒ぎなんです。チョコレートをくれたご令嬢……婚約者の耳にだってはいっていると思います。間違いなく、期待しますよ、お返しを。あっ、お返しは気持ちでもよくて、物を贈らなくても――」

「ヒューゴ、急用を思い出したから、本部へ戻る。お前は茶の一杯でも飲んで、休憩してから戻るといい。お代はこれで払うといい!」

「え、た、隊長!?」


 銀貨をテーブルに置き、席を立つと、店の外へと駆け出した。


 ◇


 王都警備隊の本部に戻り、執務室に入ると、怒涛の勢いで報告書を仕上げ、提出された書類に目を通し、サインを行う。それが終わると五分間の休憩となるが……。


「ルベール嬢に手紙だ!」


 コルネ伯爵が考案した羽根ペンにつける金属により、手紙を書く時間が劇的に短縮されるようになった。


 わずか五分で手紙を書き終え、一階のジェネラル・ストア向かう。ここでは食料品から日用品、雑貨や文具などに加え、郵便業務も請け負っている。


「急ぎで頼みたいんだ」

「任せてくださいよ、アルラーク隊長! 宮殿だろう? なんなら俺が行ってくるぜ」

「いや、店長を動かすわけにはいかないよ」

「はは、なら俺の息子に行かせるよ! おい、ルーカス! 隊長の肝いりの手紙だ。お前、今すぐ、宮殿へ行って来い!」

「はーい!」

「頼んだぞ、ルーカスくん!」

「隊長の大事な手紙なんだろう? 任せてとけ!」


 大事な手紙。

 そう大事な手紙だ。

 3月14日。

 その日、偶然にも仕事が休みだった。

 だからその手紙で大切な婚約者に「会いたい」と伝えることにしたのだ。


 ◇


(日中の宮殿に隊服ではなく、私服で向うのはいつぶりだろうか?)


 シルバーグレーのスーツを着て宮殿の廊下を歩くのは、なんだか不思議な気分だ。隊服ではないので、私が誰であるか気づかない。すれ違う貴族も会釈で、敬礼する兵士や騎士もわずかである。


(隊服により何者であるか認識されていることを実感するな)


 なぜ私服でこの時間に宮殿にいるのか。

 それは今日が3月14日だからだ。


 3月14日。


 ルベール嬢と会うことになったが、時間は限られている。


 夜は宮殿で舞踏会があり、コルネ伯爵はレグルス王太子殿下と一緒に出席。伯爵の侍女をしているルベール嬢も同行となる。よって侍女としての仕事が終わってから会うのは難しい。


 早朝に会うことも考えたが、舞踏会に同行するなら夜が遅くなる。早朝に会い、夜中まで稼働ではルベール嬢が疲れてしまう。その結果、会うのはコルネ伯爵が食事中で、ルベール嬢が私的に動くことも可能になる昼休み、となった。


「すみません。ルベール嬢と約束をしているアルラーク……いや、ウォーデン男爵ですが」

「ウォーデン男爵……あ、はい。承っています。ご案内いたしますね」


 宮殿には応接室が多数あり、多くの訪問者がいる。ゆえに専門の受付があり、そこで名乗ると部屋に案内してもらえた。


「十一時五十五分か。五分前に到着できた。よし」


 応接室にはソファセットがあり、壁には本棚、そして大きな置時計があり、間もなく十二時だった。


「ゴーン、ゴーン、ゴーン……」


 鐘が鳴り、ルベール嬢に渡すギフトが入った紙袋をテーブルに置こうとした時。


 コン、コン、とノックの音がして「はい」と応じると、扉が勢いよく開く。


「アルラーク隊長!」


 アプリコット色のドレスの肩を上下させているルベール嬢を見て「え、何かありましたか!?」と慌ててソファから立ち上がると、彼女は「違います!」と首を大きく振る。


「ごめんなさい。驚かせてしまいました。でもアルラーク隊長にお会いできると思ったら、つい早歩きをしてしまったようで……」

「なるほど。事件でも起きたのかと思いましたが、何もなくてよかったです……ところでそのバスケットは?」

「……アルラーク隊長は昼食、まだですよね?」

「ええ。今日は昼にルベール嬢に会うので、その後にでも……あ」


 自分はルベール嬢と会った後、いくらでも食事ができる。だがルベール嬢は? ルベール嬢はこの時間が休憩時間であり、昼食をとる時間だった。


「申し訳ないです。よかったら食堂へ行きませんか? ルベール嬢は昼食をとる必要がありますよね?」

「はい! そこでランチボックスを用意したんです」

「!」

「コルネ伯爵は馬車で移動する時、よくこのランチボックスを用意されるんです。馬車の中でも食べやすいサンドイッチやフルーツをいれたもの。今朝、料理人の方に手伝ってもらいながら、用意したのですが……アルラーク隊長の分もあります。一緒にここで食べませんか?」


 この提案に驚くのと同時に、彼女の有能さを垣間見たと胸が熱くなる。


(こんな風に主体的に動けるところ。しかも自らサンドイッチを用意するなんて。侯爵令嬢だからとお高く留まることもない。なんて……なんて出来た女性(ひと)なのだろう)


「ルベール嬢」

「はい!」


 そっとその細い腰を抱き寄せ、血色のいい頬に手を添える。


「今日はチョコレートのイベントのお返しを渡しに来ました」

「嬉しいです。わざわざ宮殿まで来てくださり。せっかくのお休みの日なのに」

「今日が休みでよかったです。大切な婚約者に会えたのですから」

「アルラーク隊長……!」

「ルベール嬢に似合いそうなイヤリングを見つけました。それも渡します。ですがその前に、自分からの愛を受け取っていただけますか?」


 そこで「?」とルベール嬢が顔をあげた時。

 そのチェリーのように赤い唇に自分の唇をそっと重ねた。




お読みいただき、ありがとうございます!

安牌な二人です。

お幸せに♡

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