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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
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201/205

スコット筆頭補佐官編

 遂に3月14日を迎えた。


 ボルチモア医師の悩みに端を発し、まさかのレグルス王太子殿下の協力を経て、3月14日はチョコレートのイベントのお返しをする日という噂は、見事に広まっている。社交界で広がれば十分と考えていたのに、気が付けば街中でもこのお返しイベントで持ちきりになっている状態。しかも基本は感謝の気持ちを伝える――だが、御礼のギフトを贈ろうと、便乗したお店が謳っている。その結果、街には沢山のお返しのギフトが並ぶことになった。


 そうなると気持ちだけではなく、御礼のギフトを用意したくなる。


 では何にするか、だが――。


(ルイーザ嬢に何を贈るべきか。悩みに悩んだ。だが彼女に想いを告げることになったデビュタント。そこでストロベリーの果実水を口にした時のルイーザ嬢の表情は……)


 彼女は由緒正しき血筋の元公爵令嬢。決して彼女で破廉恥な想像などしてはいけない。そう頭では理解できるのだが……。


(ストロベリーの果実水を飲んだルイーザ嬢の表情は、とても官能的なものだった。唇もしっとりと潤い、上気した頬もなまめかしく……)


 好きな異性を想い、体が熱くなる――これは男としての正常な反応であると分かっている。だがあの気高きルイーザ嬢をそんな欲望の目で見てしまうのは、罪深くも感じられてしまう。


(深呼吸して、落ち着くんだ、スコット。これからそのルイーザ嬢に会うんだ!)


 昼食の時間はレグルス王太子殿下とコルネ嬢は食事となり、おつきの者たちは自由に動くことができる。この時間で自身も食事をして、私的な用事も済ませてしまう。


 ということで一か月前にルイーザ嬢からチョコレートを受け取った中庭。ここで今日も彼女と待ち合わせだった。今朝、手に入れたルイーザ嬢への御礼のギフトが入った籠の持ち手を握りしめ、僕は中庭へと向かった。


 ◇


 フォレストグリーンのセットアップに変なところがないか。中庭に出る手前のガラス窓を鏡代わりに点検。「よし、大丈夫」と確認できると中庭に出る。するとベンチにルイーザ嬢が既に座っているではないか!


「ルイーザ嬢!」

「スコット筆頭補佐官!」


 深みのあるワイン色のドレスを着たルイーザ嬢は、僕からすると女王様みたいだ。


「ルイーザ嬢、お忙しいのにお呼び立てしまい、申し訳ないです!」

「今はお昼時ですから、大丈夫ですよ」


 そう言って微笑むルイーザ嬢が、眩しくて仕方ない。


「先月のチョコレートのイベントのお返しを渡したかったのです」

「そうなのですね。わざわざありがとうございます」

「本当に、素敵な未来を夢見させてくれるチョコレートをありがとうございました」


 あの日を思い出すと、どうしたって涙腺が緩んでしまう。


(僕と結婚し、家族が増える未来を、ルイーザ嬢はチョコレートで表現してくれたのだ。そんな嬉し過ぎる未来を思うと……)


「スコット筆頭補佐官、受け取ってもいいのでしょうか?」

「あ、はい! どうぞ!」


 籠を差し出すと、ルイーザ嬢は「ありがとうございます」と言いながら上品に受け取り、掛けてある布をめくる。


「まあ……こんなに沢山のストロベリー、どうされたのですか!? まだ三月なのに! ストロベリーは五月にならないといただけないはずです」


 驚くルイーザ嬢が可愛らしく、このギフトにしてよかったと心底感じてしまう。その喜びの気持ちを込め、伝えることになる。


「その通りです! ですが王宮の温室ではストロベリーを栽培しており、レグルス王太子殿下経由で国王陛下に許可をいただき、いただくことができたのですよ!」

「国王陛下に許可をいただいて!? 恐れ多いですわ……!」

「温室まるまるひとつをストロベリーの栽培に当てているので、これはそのほんの一部。遠慮はいらないですよ。陛下も僕とルイーザ嬢を祝福する気持ちで許可してくださったのですから」


 僕の言葉を聞き、ルイーザ嬢は「貴重過ぎて、食べるのが勿体ないですわ……」と囁いたが「あ、でも侍女の皆さんと一緒にいただけば……」と瞳を輝かせる。


「それがよろしいかと! 量もたっぷりありますから」

「そうしますわ!」

「……実はこれは御礼の一部で、もう一つ、贈りたい物があるんです」

「え、そうなのですか!? これだけでも十分ですのに」


 慎ましやかなルイーザ嬢に、愛しい気持ちが込み上げる。


「どちらかというと贈ることで、僕が嬉しいといいますか……」

「……? そうなのですね。それでしたら受け取りますわ」

「で、では……その……目を……閉じていただいてもよろしいですか?」

「!」


 ルイーザ嬢の驚く様子が伝わり、僕の心臓は早鐘を打つ。


(もしルイーザ嬢が拒んだら諦めよう。絶対に無理強いはしたくない!)


「わかりましたわ……」


 ルイーザ嬢は周囲に目をやり、誰もいないとわかると、すっと瞼を閉じた――。


 ◇


 スコット筆頭補佐官から「……目を……閉じていただいてもよろしいですか?」と言われた時。


(これは……もしかしてキスをされるのでは?)


 そうピンと来ていた。


 未婚の男女のスキンシップは、例え婚約者同士でも禁じられている。平民であれば、そこまで厳しくはないが、貴族は別。とはいえ、貴族と言えど、人間なので、欲望がないわけではない。人目のつかない場所でキスをする貴族達が多いのは事実。


 さらにいえば「お互い様」で、見て見ぬ振りも当たり前だった。そして今日のような日は特に、ちょっとした男女のふれあいを見かけても、皆、許容してくれると思うのだけど――。


(でもまさかスコット筆頭補佐官が婚姻前にキスをしようとするなんて!)


 これまでキスはなかったので、結婚するまで我慢するのかと思ったら……。


(もっと早くにキスをしている方も多いでしょうから、スコット筆頭補佐官は我慢された方だと思いますわ)


 ということでわたくしは遂にと思い、瞼を閉じたのだけど――。


 柔らかい温かみを感じたのは、唇ではなく、額!


「ルイーザ嬢……! 大好きです。愛しています!」


 額への口づけをして、私をぎゅっと抱きしめるスコット筆頭補佐官は……。


(なんて真面目な方なのかしら! 本当は唇へのキスをしたかったのに、私が緊張していることに気づいて、額に変えてくれたのね……!)


 スコット筆頭補佐官の不器用で真っ直ぐなところに、ますます心惹かれるのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

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