彼女の判断
私の持つ巾着袋を狙った強盗。
だが強盗はアルラーク隊長の迅速な行動により、あっさり制圧された。そして駆けつけた警備隊員により、すぐに連行される。
その際、アルラーク隊長は自身の部下である隊員にしっかり状況を説明。しかも自身が休みであるのにこうやって強盗逮捕のために動いたことよりも、部下の労をねぎらう言葉をかけている。
(彼が王都警備隊のエリート中のエリートになれた理由。それはこの気遣いができるところにもあると思う。こんな上官の下なら、頑張ろうと思えるもの)
強盗が連行されると、エスコートするため、アルラーク隊長が私の手をとる。
「すっかり冷えてしまいましたね。これから行くカフェにはホットチョコレートもありますから、それで体を温めましょう」
アクアグリーンの瞳を細め、気遣いを見せてくれるアルラーク隊長に、自然と胸が高鳴る。
(強くて気遣いも出来て、なんて優しいのかしら……)
確かに晩秋から初冬へ季節が進みつつある今、夜の寒さは厳しくなっている。でもなんだか私は心臓がトクトクして、寒さを感じない。
「こちらです」
「!」
夜のカフェといえば、文化人が集まり、一杯のコーヒーで政治から芸術まで熱く語る場でもある。ワイワイ、ガヤガヤ、議論を戦わせることも多いので、騒然としているイメージが強い。
しかしこのカフェは落ち着いたランプの照明、絨毯は濃い茶色で椅子のファブリックはアンティークグリーン。とても落ち着いた雰囲気の中、紳士淑女か密やかに語らっている。
(大人っぽく、シックな感じのお店で、素敵だわ)
野郎の行くようなお店しか知らない……なんて言っていたのに、こんなお店を知っているということは……。
若くエリートな王都警備隊の隊長。しかも独身で婚約者もいない。本人は否定するだろうが、やはりモテるのだろう。
トクトクした胸の高鳴りは、急速に鎮まっていく。
そんなことを思っていると、背もたれの高い椅子が置かれた奥まった席に案内された。
「ホットチョコレートを頼むなら……うーん、どうしたらいいのか。甘くない軽食だと、ピクルスやサンドイッチです。合いますかね?」
メニューブックを手に、整った顔に困った表情を浮かべるアルラーク隊長を見ると、自然と笑みがこぼれる。
「こういったカフェに慣れているのかと思ったのですが」
「! た、大変申し訳ありません! 本当は事前に足を運んでおくべきでした。実は部下に教えてもらったカフェでして……。そもそもこういう落ち着いた雰囲気のお店には、慣れていなのです。立ち飲みができるパブリック・ハウスで、コーヒーを飲むことはあります。ですがこちらのような、令嬢が大勢いらっしゃるお店は不慣れで……」
恐縮するアルラーク隊長を見て「そうなのね……!」と嬉しい気持ちが込み上げる。貴婦人とこの店で談笑する彼を想像し、気分が落ち込んだが、杞憂だった。
「ホットチョコレートは甘いですけど、軽めの甘さを合わせれば問題ありませんわ。シンプルなバタークッキー、蜂蜜で作られたマドレーヌ、この辺りを頼むと良いかと」
「……! さすがですね。自分、そういったところが疎いので、そのアドバイスは助かります!」
そう言って笑うアルラーク隊長の笑顔が、眩しくてならない。
「ルベール嬢」
ホットチョコレートとマドレーヌの注文を終え、グラスの水を一口飲んだアルラーク隊長が、改まった様子になる。
その様子を見ると、自然と私の背筋も伸びてしまう。
「どうしましたか?」
「実は自分、爵位を賜ることになりました」
「! そうなのですね! それは……おめでとうございます!」
この世界では成金男爵と言われる言葉があり、裕福な平民は商売の成功で爵位を手に入れることもある。だがアルラーク隊長は違う。王都警備隊という公的な機関での頑張りが認められ、爵位を得るのだ。これは大変な誉れだった。
「ぜひ、今度お祝いをさせてくださいませ」
「! ありがとうございます! 実はその爵位を受けるにあたり、いくつか困っていることがあるんです」
人生最大とも言える栄誉を前に、困っていること?と首を傾げたくなる。
「爵位を授与される者は数名おり、彼らと共に、授与式と王家主催の晩餐会に招待されています」
「まあ、そうなのですね! 王家主催の晩餐会、貴族なら誰でも招待されるわけではありません。これまた非常に名誉なことですわ!」
「そう、ですよね。そう、思います、自分も。ただ、その……」
そこで私は気がつく。
「もしやテーブルマナーがご不安ですか?」
「あっ……そうですね、それもありました……」
そこでバタークッキーが到着。
(それもありました、ということは、それ以外もまだあるのね。……何かしら?)
テーブルの上で手を組んだアルラーク隊長が、真摯な表情で私を見ると、こう切り出す。
「実はルベール嬢にお願いがあります」
「わかりました。お引き受けします」
「!? あの、自分、まだお願いの内容を話していませんが!?」
慌てた様子のアルラーク隊長に対し、私はどっしり落ち着いている。ゆえにゆっくりと口を開く。
「私、侯爵令嬢の割には、波瀾万丈な人生を送っています。婚約寸前で白紙撤回されたり、その相手から利用されそうになったり。アルラーク隊長の知っての通り、刃物で刺されたこともあります。そして王宮で侍女として勤めているのです。普通の侯爵令嬢では経験出来ないことを、重ねてきました。その中で、誰が信頼でき、誰を疑うべきか。自分なりに学習したつもりです。アルラーク隊長は信頼できる方。その隊長がこうやって真摯に私に頼みたいことがある。ならばその頼み、受けて立たなければ、私の名が廃りますわ」
私の言葉を聞いたアルラーク隊長は「ルベール嬢!」と瞳を輝かせた。
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