彼女と彼
キリッとした一重のアクアグリーンの瞳。髪色はチョコレート色で、今日はその髪色に合わせたセットアップを着ている。いつも王都警備隊の隊服を着ている姿で会っていた。よって初めて見る私服姿のアルラーク隊長は、何だか新鮮だった。
「ルベール嬢、料理は大丈夫でしたか? お口に合ったでしょうか……?」
そのアルラーク隊長は、ロイヤルブルーのコートを着た私をエスコートして歩きながら、さっきまでの会食の件を振り返る。
「ええ、とても美味しかったですわ。アンのお母様の手料理。野菜がたっぷりのポトフで体がぽかぽかになりました。そのポトフに黒パンはとっても合っていて、感動しましたわ。それにアンが作ってくれたジンジャーブレッドも上手に焼けていて、味も良かったです」
「そうでしたか。それは良かったです」
「何より、アンとそのお母様も、元気そうだったので安心しました。ただ、再会した瞬間にアンが大泣きになってしまったのは……。本当に驚いていしまいましたが」
私の言葉にアルラーク隊長はその時のことを思い出したようで「ああ、あれはすごかったですね」と笑う。
「ただ、アンはずっとルベール嬢に申し訳ない気持ちで一杯だったのです。その想いが再会した瞬間に溢れてしまったのでしょうね。でもあれはあれでよかったと思います。たっぷり泣くことで、アンの中で溜まっていた感情は綺麗に吐き出すことができたはず。これからはもう過去の出来事として、前に向かって生きて行くことができると信じています。何より今晩は爆睡でしょうね。食事の最中から、ウトウトしていましたから」
確かにアンは大好物だというポトフを食べながら、寝落ちしそうになっていた。あれだけ泣いたのだから、眠くなるのも納得だった。
「……このまま馬車で宮殿までお送りするのがマナーではあるとわかっています。ただ、少しばかり嬉しい知らせを受け、またルベール嬢に相談があり……。もしよろしかったらコーヒーを一杯、お付き合いいただけないでしょうか?」
「! ちょうど、コーヒーを飲みたいと思っていました。ぜひ、行きましょう!」
コルネ伯爵とレグルス王太子殿下の婚約式で、奇しくも知り合うことになったアンとその母親。恐ろしい事件に巻き込まれてしまったが、過去と決別し、前に進むために。アンとは一度会った方がいいと思っていた。アンが良心の呵責に苦しんでいるなら「もう大丈夫よ。私は生きているし、終わったことだから」と慰めたい気持ちもあったのだ。そしてそれが今日、実現した。アルラーク隊長の仲介で、私はアンとその母親と再会し、二人の自宅で夕食をご馳走になったのだ。それはそれで大きな目的を果たすことができ、私は満足していた。
その一方で、王都警備隊の中央部隊の隊長であるアルラークは、多忙を極める。これまで何度か彼の仕事終わりや夜勤前に食事をしたり、お茶をしたが、それはいつも慌ただしいものだった。でもアルラーク隊長は今日、仕事が休み。余裕をもってアンとその母親の家で会い、四人で食事をして、至る現在だった。
(私自身、もう少しアルラーク隊長と一緒にいたいという気持ちがあった。だからこのコーヒー一杯の申し出はとても嬉しいわ……!)
「では表通りを一本入ったところにあるのですが、庶民向けにしては実に美味しい一杯を出すコーヒーのお店へご案内します……少し歩きますが、大丈夫ですか?」
「それは楽しみですわ! そして歩くのは慣れていますので、大丈夫です。侍女というのは存外動き回っていることが多くて……。お気遣いありがとうございます」
こうしてアルラーク隊長の案内でカフェに向かい歩いている時のことだった。
「……つけられていますね」
「!」
「王太子殿下と伯爵の婚約式が終わった直後までは、まだ治安がよかったのですが……。婚約式に合わせ、王都から逃げ出していた悪党が戻ってきているんですよ。もちろん、王都警備隊は引き続き警戒を続けています。ですが婚約式の前後に比べたら……」
しっかり私をエスコートして、アルラーク隊長は歩いてくれている。だが誰かにつけられているという事実に心臓がドクドクしてしまう。
(まさかフェリクスに関係する人物だったりしないわよね……? 私が裏切った後、復讐しようとしているのでは……)
私の不安を察知したのか、アルラーク隊長は静かに告げる。
「ルベール嬢。あなたのことは自分が必ず守ります。……信じてください」
「……!」
そこで私は思い出す。彼は精鋭が揃う王都警備隊の中央部隊の隊長なのだ。
(アルラーク隊長は、この王都で五本の指に入る強さのはずよ! その彼が私を守ると言ってくれているのよ。大丈夫。冷静に対処しましょう)
心の中でまさにそう言い聞かせた時。
ドンと誰かがぶつかって来た。
体がよろめくが、アルラーク隊長によって支えられていると思ったら、手にしている巾着袋を掴もうとする手が伸びてくる。
悲鳴をあげそうになるが、私の声が出る前に、アルラーク隊長が動いた。
「うぐっ」
「ぐわっ」
「かはっ!」
あまりにも鮮やかなアルラーク隊長の動きに、私は声も出ない。だが私の巾着袋を狙った強盗は、アルラーク隊長からキックとパンチを連続で食らい、あっという間にその場で膝から崩れ落ちた。
さらに「ピーッ」「ピーッ」と笛の音が聞こえる。
アルラーク隊長は今日、仕事が休みだった。だが警備隊が持つ笛は、ちゃんと持参していたようで、応援呼ぶために警笛を吹き鳴らした。
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