狙うは主演女優賞!
きっと「貴族生活はもっと素晴らしい」とでも続くはずだった言葉を遮り、エマが放った「ではあなたが平民となってくださいますの?」の一言に伯爵子息はポカンと固まった。
「へ?」
間抜けな声を漏らす子息に、エマは先ほどとは一転、にっこりと笑いかける。
「愛があれば身分や境遇なんて問題ないのですよね?」
無邪気な少女のふりをして、それはもうにっこりと可憐な笑顔炸裂です。
「私、将来は父の店を継ぐのが夢なんです!だから旦那さんは婿養子希望で……。私を愛してくださるあなたは身分を捨ててくださるの?」
「え……?いや、僕は家を継ぐ役目が……」
混乱しすぎて一人称まで変わってしまった子息へ小首を傾げてさらに追撃。
「でもたしか……伯爵家には弟君がいらっしゃいますよね?」
「だ、だから……」
「頭もよく、とても優秀な弟君だとか……剣の腕前もお見事なんですよね?」
「う、うるさい!!家を継ぐのは長男である僕だ!!!」
ついにはキレた。
ダンッ!!と音を立てて足を踏み鳴らし、エマを睨みつけながら指を突きつけ怒鳴りつける。
「だいたいっ、なんだお前は!!なにが店を継ぐ……だ。あんな大したこともない小さな店。そんなことより貴族だぞ?!貴族になれるんだぞ?!ありがとうございますと頭を下げて素直に求婚を受ければいいんだ!」
「残念ながらやはり身分の差は大きいですね。価値観がまるで違うようです」
静かに応じるエマの声が若干低い。
エマの狙いがわらかず、唖然とこのやりとりを見守っていたクルトやレオンが一歩前に出た。
確実にいまの一言は地雷だ。
伯爵子息をいっそ力づくで黙らせようかと迷っていると、その前に子息の叫びが響いた。
「平民は貴族の言うことを聞けばいいんだ!だいいち、エアリス神だってお前らが世界に、国に貢献することを望んでいるはずだ!」
その叫びに……僅かに俯いていたエマの口角があがるのを、クルトたちは確かに見た。
『勝手に僕の心中を代弁するのはやめてくれるかな?』
どこからともなく響いた澄んだ美しい声。
広間中を神々しい光が包んだ。
「ああ……エアリス神様……」
呟き、エマは膝を折る。
どよめいた人々が次々と膝を折り、首を垂れる。
王や王妃まで膝を折るのを見て、呆然としていた人々も次々と続く。
神殿関係者や信仰深い老人に至っては涙を流し感激している者までいた。
エアリスの姿はなく、光の中、脳に直接響くような澄んだ声だけが響く。
『そもそも僕は命に上下をつけた覚えはないよ?国という体系の中で指揮を執るものが必要だっていうのは理解できるけどね……。だからって貴族に生まれただけの君が偉いわけではないし、ましてや僕の名を騙ってエマを従わせようなんて勘違いも甚だしい』
地に額を擦り付けた子息はガタガタと震えている。
『ああ、今日は祝いの場だったね。エマ、クルト、ミレーヌ。それからレオンとハリソン。僕からも改めてお礼を言わせてもらうよ。我が愛し子たち、君たちには感謝をしてもしきれない。この度の神託に関わったことで、これ以上君たちが不自由を強いられないよう僕も出来る限り力になろう』
「……もったいないお言葉です」
感極まったように胸の前で手を組み、声を震わせるエマ。
普段を知っているクルトたちの目が痛いけど、ここは全力でスルーします。
今日のパーティーの間は女優に徹するって決めてるので。
『人の国の王よ』
「は……。なんでございましょう」
『彼女たちを守るために僕も力になるが、神である僕が介入すれば大事になりかねない。エマが望んだように王家でも彼女たちの力になってあげてほしい』
「もちろんでございます」
『さて、祝いの場の僕も少し華を添えようか。願わくば、世界が末永く平和たらんことを』
そうして雪のように光が舞った。
幻想的に舞う黄金の光の粒に誰もがそっと手を伸ばす。
祝福のように降り注ぐ美しい奇跡は、広間だけでなく王都中を包んだ。




