おねだりの仕方があざとい
光が止み、静けさが室内へと広がる。
耳に響いた声の名残に、エマはほんの少しだけ唇をとがらせながら「お礼ぐらい、顔見せていいなさいよ」と声には出さず胸の内で呟く。なんだかちょっと照れくさい。
一方、照れ隠しにあえて表情に力をこめるエマと反対にレオンたちからは力が抜けるのがわかった。どうしても無意識に緊張を拭えなかったのだろう。
「お帰りに……なられたんだな」
「そのようですね」
天井を見つめレオンが呟き、ハリソンが小さく頷いた。
書面はすでに片されているが、署名を施した机、その上に置かれたペン立てを眺め、じっと自分の両手を見下ろす。
「長きにわたり断絶されていた種族の友好……神の前で誓いを果たしたのだ。必ず守り抜かねば……」
決意を込めたレオンの声にグリオンが「ああ」と声をあげた。
「すぐに……とはいかぬだろう。いまだ過去の憎しみや偏見を抱く者たちも多いはずだ。道は険しく、困難も多いだろうが共に歩んで行こう」
グリオンが手を差し出し、それをレオンが握る。
緊張モードとシリアスモードが終わり、エマはめっちゃ責められた。
「心臓が止まると思った」とか「せめて事前に教えてくれ」とか、あとは主に態度とか。
お小言をもらいながら、またしてもエマは唇を尖らす。
「えー、でもエアリスは特に気にしてなさそうですよ。むしろトートくんとかクルトみたいに、普通に話してくれる方が畏まれるより嬉しそうだったじゃないですか」
「「そ、それは……」」
「ぼ、僕はトートがエアくん様に話しかけるたび、背筋が凍る思いでした……」
ちょっぴり泣きそうなのはトートくんの良きお兄ちゃん・キールくんだ。
トートが「ねー、エアくん」とエアくんの裾を掴んだときなんて小さく悲鳴をあげていた。現在、トートくんは満腹でお昼寝中。
キールが淹れてくれたお茶を飲みつつ、エマは「大丈夫だって」と手を振る。
「エアリスそんぐらいで怒ったりしないって。なんせ私が平気なんだから」
軽ーく言い放ったエマだが、その場の過半数に「お前はちょっと自重しろ」の意を込めて名を呼ばれた。
「それにしても……」
カップをソーサーへと戻し、ふと室内を見渡す。
もはや見慣れた魔王城の内部に、見知った面々。
「お役目が終わったし、私たちも帰還かぁ~。嬉しいけどちょっと寂しいかも。複雑な気分」
「私もですわ」
エマの言葉にミレーヌも寂し気に顔を伏せる。
旅の目的はひとまず完了。
さっきグリオンが口にしていたように、同盟を成したからといって人々の意識がそう簡単に変わるわけではない。
少しずつ交流を増やし、絆を深め、外交を交えていくことが必要となるだろう。
だけどそれは“勇者パーティ”であるエマたちの管轄ではなく、レオンたちのような政治を担う国のトップの仕事だ。
長い道筋を得てたどり着いた旅路だが、帰りは転移魔法でグリオンが送ってくれるので一瞬。
今日は同盟やお好み焼きパーティーなど色々あったので、もう一泊させてもらい、明日帰還の予定だ。
椅子を引いて席を立ったグリオンがとことこと近寄ってきた。
なにかを言い淀むようにちょこん、と袖を引くのに「なぁに?」と首を傾げる。
「今日の夜はエマのオムライスが食べたい」
「いいですよ。グリオンさま大好物ですもんね、オムライス」
上目づかいのあざといおねだりに快くOKをだした。
レシピは教えたし、いまでは城の料理人さんたちも作れるのに「エマのが一番おいしい」と言ってくれるのは素直にうれしい。
おねだりには応えたのに、さらに袖をちょんちょんと引かれた。
「グリオンさま?」
「…………人の国に……会いに行ってもよいか……?」
不安そうに紡がれた言葉にぱちぱちとまたたく。
「ダメ……か?」




