“なんでも”ったらなんでもです
自分たちの有利を悟って犯人たちはノッてきたようだ。
取り出した刃物をぺろりと舐める。
「そっちが要求を飲まねぇなら、オラたちにも考えがある。食料の代わりに……こいつらを食うしかねぇだな」
「あんま食いではなさそだがな」
ゲラゲラと笑う大男たち。
その手がミレーヌたちに伸ばされる。
巨人族である男の手は華奢なミレーヌの胴体など簡単にわし掴んでしまえそうだ。
「やめて……」
漏れた声は決して大きくはなかった。
ガックリと首を垂れ、俯いたエマの唇から漏れた声。
「どいて……クルト、グリオンさまたちも……」
ふら、とよろめくように力なく、腕でクルトたちを押しやる。
魔法の鞄に手を入れたエマは…………取り出したモノを振るった。
ザンッ!!
「「「へっ??」」」
音を立て、消滅した結界に大男たちが言葉にならない声を漏らした。
慌ただしく視線が行き交うのはエマの手元と足元。
右手に握られたこの場に不釣り合いなモノ。そして決して踏み入れなかったはずのこちら側に一歩踏み出された足。
「なっ……この結界は絶対に破れないはず……っ」
「知らないわよ、そんなこと」
エマの右手に握られたそれは……なんでも切れる万能包丁。
物理だろうとなかろうと、“なんでも”切れるといったら切れるのだ。
そんな物騒な凶器を片手に、ゆらりと再度踏み出したエマは緩慢に顔をあげる。
ゆっくりと上げられた顔は静かな、だけど隠せない怒りに染まっている。
温度を宿さない瞳が……大男たちを捉えた。
「ねぇ……食べたいなら自分たちの足でも食べれば?そのご立派な腕や足なら1本でも充分、食いでがあるわよ。なんなら私、手伝ってあげる。料理は得意なの。切って、刻んで……美味しく調理してあげるわ。骨だってスープのガラとしてちゃんと有効活用してあげる」
可憐な唇から淡々と漏れる可愛らしい声。
だけど……内容が恐ろしすぎるそれに「ひっ……」といくつもの声が漏れた。
なお、声は敵側だけでなく後ろからも発生しております。
怯えた巨人の1人が盾にしようとミレーヌたちに手を伸ばしたところで……。
「触らないで!」
刃よりも鋭利なその声に動きを止める。
「もしその子たちになんかしたら……絶対に許さないから」
「「「ひぃぃぃ!!」」」
ゆらっと顔をあげ、無表情で告げる声は本気と書いて「マジ」だった。
あまりの迫力に大男たちはずざざざざっとエマから、ついでにミレーヌたちからも距離を取って抱き合う。
「……レオン、ハリソンさんっ。とりあえずミレーヌたちの確保と安全確認!お前らは絶対、何もすんな!これ以上キレさせたらヤバい。死にたくなかったらそのままでいろ!あとエマは……お願いだから落ち着いて。怖いから、マジで!!お願いだから凶器しまってっ!」
盛大に引きつった表情のクルトがなんとか指示をだす。
まずはミレーヌたちの安全確保が第一とレオンたちが駆け寄り、大男たちは怯えながらコクコクとうなづき、クルトはだいぶ引き腰でエマをなだめる。
その後ろではグリオンとソルトがふるふると抱き合い、アストは硬直、ラウムが尻尾を股に挟んでやっぱり怯えていた。
見たところミレーヌたちに怪我はなく、気を失わせるのも薬で意識を奪ったようだ。
「……良かったぁ」
ぎゅっとミレーヌを抱きしめるエマの瞳に涙がにじむ。
他の面々も「本当によかった」と心底安堵に胸をなでおろす。
ミレーヌたちの無事はもちろんのこと、外傷でもあった日には「鬼神、再び!」だ。あのときのエマは控えめにいってそれだけの迫力があった。
すっかり大人しくなった犯人たちは全面自供。
もはや逆らう気力もないらしい。




