旅行
荷物の準備をしていた。
「ジョー、航空券私にくれない?自分のものは自分で管理したくて。」
航空券を渡して、ラウラに返事をした。
「良いよ。ラウラは日本も韓国もはじめてなのか。どっちも俺が誇れる良い場所だ。俺のルーツの国でもあるからな。」
「こんなこと言っちゃ駄目だけど、誇れるルーツがあるの羨ましいな。今まで差別とかヘイトクライムに巻き込まれて良いこと無かったかもしれないけど、誇れるルーツがあるの良いわ。」
日本と韓国の旗を見ながら、彼女は俺のことを羨ましがる。
「誇れるルーツがあるからって、他の誰かより優位に立てるわけじゃないけど、俺の中で誇り思いたいものの一つなんだ。ラウラだってぬいぐるみ作るの誇りに思うだろ?誇れるものは本当は誰にだってあるんだ。」
俺は彼女の作ったぬいぐるみをトランクの中に入れた。とてもふわふわした感触が手に広がる。
「確かにそうね。私の作品は完璧とは言えないし、地球の人間全てが興味持つわけではないね。でも私のぬいぐるみを大事にしてくれたりする人がいると感謝と誇りに思うわ。ジョーと出会うまで誇りに思うものに気づけなかった。ジョーはそれに気づかせてくれる素敵な人ね。」
俺は彼女の口にそっとキスをした。ラウラとのキスは喜びと快感そのものだ。ほのかにランプが強く光って見える。
「ありがとう。才能の塊の君には負けるよ。」
彼女は手を合わせて軽く口にキスをした。これも会話の一つだけど、俺達だけの会話だ。
「いつまでもこうしてられないわね。まだ骸骨に使う洗顔料をトランクに入れてなかったわ。」
「まだ待ってくれ。」
「洗顔料取らせてよ。」
彼女に抱きつきながらふざけあった。そんなことをしていたらあっという間に準備は終わった。
次の日いよいよ空港に向かうことになった。アレックスは前日にマリアに預けた。彼女はかなりの愛犬家だ。犬の好きなおもちゃは何でも揃っている。
「おい、お前達急に大荷物でどこ行くんだ?」
ジョンが俺達に聞く。
「これから日本と韓国を旅行するんだよ。」
俺は車に荷物を乗せながら答える。
「旅行とか良いな。俺もついでに連れてってくれよ。」
「何で俺がお前を連れて行く前提になっているんだよ。可笑しいだろ。お前を連れて行く義理なんて1ミリ足りともないからな。ばか!」
「撮影協力しただろ。」
俺は呆れて笑ったが、ジョンの相変わらずな雰囲気を少し楽しんでいた。
「二人とも面白いね。」
ラウラも俺達を見て笑う。
「旅行楽しめよ!お土産とか楽しみにしてるからな!」
「言われなくてもお土産買うから。」
車で空港に向かう。
「日本語はありがとうとおはようとこんにちはしか分からない。韓国語も挨拶しか分からない。私からしたら未知の言語だわ。ジョーはこんなに言葉話せてすごいな。」
運転する俺の隣でラウラは話す。いつも彼女は俺のことを褒める。
「君が良ければいつでも教えるよ。君が求めたいレベルまで僕が教えるよ。」
「ありがとう。」
彼女はにこりと笑った。
「日本語と韓国語はまず語順が違うよね。文の構造が違うから、なれるまで時間かかりそう。文字もそうだし、英語よりもっとボキャブラリーがあるから習得にかなり時間かかりそうだわ。」
空港は骨の世界になってからもそこそこ賑わっていた。
「痛いわね。早くどいてくれる?」
ある女性が俺にぶつかってにらんでくる。
「自分からぶつかって謝らないのかよ。クズだな。骨とか折れたら洒落にならないぞ。」
「うるさいわね。急いでんのよ。」
残念ながら、骨になっても欠点が治らない人もいる。
「ジョー大丈夫?骨折れなかった?」
ラウラは心配そうにこっちを見る。
「大丈夫だ。急いでるのか知らんけど、こっちに当たり散らさないでほしいな。」
俺達は搭乗前に手荷物検査に行った。もちろん金属探知機での検査は骨になってもある。
「この検査、骨にも対応してるのか?」
「そうだと思うけど。そうじゃなかったらこんなことしないと思う。」
「そうだよな。」
俺は問題なくゲートをくぐれた。次はラウラの番だ。
「次、入ってください。」
ラウラがゲートをくぐると金属が反応してしまった。
「そんな…アクセサリーとかしてないのに。何でなんだろう。」
「ベルトとかはしていませんか?見る限り、ブレスレットやネックレスとかもしていないですね。」
何故反応したのか分からず、その場が戸惑っていた。
「少し服の下を見て良いですか?」
「はい。」
女性のスタッフがラウラの服の下を確認した。
「すみません。少し触りますね。」
服の下をごそごそと触る。
「取れました!」
「何が反応してたんですか?」
「イヤリングが挟まってました。」
「あの時買ったのだった…」
ラウラは恥ずかしがった。逆に確認した女性は笑っていた。
「もう一度通ってください。」
「また通ると何も反応せずに無事に通れた。」
ようやく通れて彼女は一安心した。
「次、入ってください。」
手荷物なども何も問題なかった。
「あんなの見られたら恥ずかしいわ。骨になってそんなことが怒るなんてあの時までは予想してなかった。」
「イヤリング壊れてなくて良かったな。」
「そうね。会ったことないけど、素敵な作家さんのアクセサリーだから大切にしたいね。まさかあんなことになるとは思ってもいなかったわ。」
少し彼女は落ち込んでいた。
「そんな落ち込まないで。これから俺と楽しい旅だろ。忘れて存分に楽しめ。」
「そうよね。」
手続きが終わって、フライトを待っていた。
「機内食もあるし、ここでは少しだけ食べよう。」
お菓子などを買って食べた。
飛行機が来ると機内に搭乗した。
「やっと乗れるよ。」
席を探すとチケットに書いてある番号に違う人が座っていた。
「すみません、ここ俺の席なので、チケット確認してくれませんか?」
「えっ?俺の席だけど。」
60代の男性は反論する。
「あのチケット確認してくれますか?」
「あってるからここに座ってるんだ。」
たまにこういったトラブルには出くわすことがある。ラウラ同様、今回は色々と思わぬトラブルに巻き込まれそうな旅になる。
「ジョー、どうしたの?あの人何と言ってるの?」
「あの男性が俺の席に頑なに座ってるんだ。何度も説得してるだけど。」
男性にチケットを見せる。
「これ、確かに俺のチケットの席番号です。E43です。」
男性もチケットを見せる。
「俺この席だから、そこ座ってくれ。窓辺に座りたかったんだよ。」
エコノミークラスとは言え、中々どいてくれない男性だ。
「そんなこと言われても。」
しばらく二人でじっと男性を見つめる。
「何見てんだよ。俺の席に座れよ。」
「えっ?それってどこですか?席まで案内してくれたら移動しますよ。僕達飛行機乗るのはじめてでここの席やっと見つけたんです。だから教えてくれませんか?」
俺は嘘をつく。こんな嘘バレても大したことない。
「は?何でだよ。お前らが大人しく俺の言うこと聞いてれば良いだろ。」
「大人しく言うことは聞いてますよ。ただ僕達が言ってるのは言われた席が分からないから案内して欲しいんですよ。あれ?もしかして座席番号分からないからここに座ってるんですか?それは困りましたね。」
ポケットから免税店で買った香水を取り出す。それを男性の顔に数発もかける。
「テメー、何すんだよ!クソ野郎!」
男性は大きな声で怒鳴ったその様子を何人か携帯で撮影する。怒りと同時に男性は立ち上がり席を離れ、俺を追いかけようとする。
「ジョー、危ない!その人から逃げて。」
ラウラは悲鳴をあげると同時に男性が座っていた席に座る。あまりの事態に客室乗務員が数名来た。
「何事なんですか!」
「あの人が追いかけて来るんです。」
数名で男性を抑える。俺達はそれぞれ事情を説明した。
「それではお客様、航空券を拝見します。」
じっくりとチケットを確認してくれた。男性に対して乗務員は言う。
「F20はこちらじゃないですね。ご案内しますね。」
「何勝手に座ってるんだ。そもそもあの女カップルだからって違う席座ってるんだ。それはどうなんだ!ルール違反だろ。」
ラウラのチケットもスタッフが確認する。
「あちらのお客様の座席番号はE43です。」
周りの客が男性を見てひそひそ笑う。男はキレてどこかに行ってしまった。
「ジョー、その香水どうしたの?」
「フライト前に免税店で買ったんだ。中々良い匂いだから、あの男に使うのにはもったいなすぎたな。」
その後大きなトラブルなく日本に到着した。




