18.入学試験(3)
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サクヤが去ったあと、カイトたちはその場をすぐに退散しスタート地点へと戻ることを決めた。
その理由は至って単純。
ヤバイからである。
「カイト!なんであのタイミングであのスキル使っちゃうのかなー。」
「しょうがないだろリリー。あれは使おうとして使うものじゃなくて一定条件満たすと強制発動型のスキルなんだよ。たぶん。」
ワイバーン戦でのカイトに集まった謎の光。
その正体は簡単に言えば『道化師の舞台』の効果が発動したのである。
そしてもう一度あのスキルについて考えてみてほしい。
▪道化師の舞台
・一定のラインを感情が超えた時、能力値極大補正
・感情の高まりによりさらに上昇
このスキルは感情の高ぶりに合わせてスキル使用者本人に極大補正がかかる。
では極大補正が何にかかるのかを考えてみよう。
そこで行き着く答えは理想世界によって自分に反射したアビリティーとなる。
今回の場面でいうとカイトはワイバーンという人間と比較にならないものと肩を並べるレベルまでパワーアップをしていた。そして、そこに加えて極大補正がかかったのだ。
つまり圧倒的強者としてそこに存在してしまった
大抵の魔物はそんな相手に勝てるはずはないと生存本能に囁きかけられ一目散に逃げていくのだろう。
事実上他のワイバーンでさえそうだった。
だが、ワイバーンはそうだったのであるがその奥から尋常でない気配を二人は感じ取った。
普通に考えてみてもこの世界にワイバーンより強い魔物はそこまで多くない。
それに加えてワイバーンの数倍強化されたであろうカイトの存在を感じて逃げないバケモノなんて古龍種くらいだろうと当たりをつけるのは当然の帰結であった。
幸いなことにこの森は出るモンスターの領分がしっかり分けられているようなのでここに来ることはないかとは思うが、念には念を入れて逃げるが勝ちというやつだ。
ということでカイトたちは帰り道を進んでいく。
というか大急ぎで走っていった。
ちなみに言わせてもらえばその時には理想世界の効果は切れていたため既に奥に潜んでいた者達は既に興味を無くしていたが。
帰り道もモンスター達に沢山たかられることを覚悟して歩いていた両名であったが全くそんなことは無かった。
5ステージの昆虫たちはここのボスとも言える存在のヘラクレスが撃たれてしまったことにより手を出してはならない存在とカイトとリリーを判断した。
4ステージでもリリーのうっかり爆発攻撃がしっかりと周辺のウルフ種の皆さんにしっかりとトラウマを与えたようだ。
そこらにいるモンスターは戦わなくてはという本能はあるようだが、思ったように体を動かせなくなっているように見受けられる。
「流石にもう大丈夫だよな。ここまでくれば」
「そうだねー。強化したカイトよりも強い存在感を与えてきてちょっとチビッちゃいそうなくらい怖かったよー」
流石にここまでくればという安堵感に包まれながらカイトとリリーは一旦休憩をとることにした。
周りに一応ウルフたちが取り囲んでいるがこちらに手を出してくるそぶりは全くない。
ここで水分をとり、今日の朝クロト様が早起きで作ってくれたサンドウィッチをいただいた。
リリーはその端くれをアクアウルフ、ファイヤーウルフたちに少しずつだが投げ与えて餌付けを始めていた。
それが功を奏したのかリリーの周りにはたくさんのウルフたちが好意的な様子で集まり始める。
リリーは目を輝かせながら周りのウルフたちをモフモフして自分の欲望を満たす。
と思いきやファイヤーウルフは熱すぎて、アイスウルフは冷たすぎてそんなこと出来ないと気づくや否や俺に抱きついてくるのはとってもナイスだ。柔らかい感触がもう。。。
周りのウルフたちは餌をくれないとわかるとすぐに散り散りになっていった。
ゆっくりとした時間が流れていたがそれは突如終わりを迎える。
「いやぁぁぁぁーーーーー!!!」
カイトのいる奥の茂みから女の子が1人なかなかのスピードで飛び出してくる。
ドンッ
そしてその射線上にいたカイトにぶつかる。
「うぉ、ど、どうしたんだ?」
聞いているカイトの方まで不安にさせるほどキョドり方をしていた。
「一旦落ち着いてねー!」
リリーもすかさず横からフォローを飛ばす。
そしてしばらく時間を置くとその女の子は少しだけ冷静になったのか、ぶつかった状態のままでカイトの上に乗っている格好では負担をかけてしまうと思い出しその場からどく。
だが、カイトの上から離れた後もリリーとカイトの裾部分を掴んで話そうとせず、また体はずっと細かく震えていた。
その女の子はこの試験で一番最初にかけて行っていたあの娘だ。
とんがり帽子に黒いローブという格好をしているかわいい系の美人さんだが頭がアレそうなあの子だ。
試験の最初ではその紅玉のような瞳が煌めいていたのに対し、今の状態ではそれは常人のそれとさほど変わることは無い。
「あ、あっちから……あっちの方に!!!」
そして彼女がこっちに来る時に飛び出してきた茂みの方を指さす。
そちらを見るが今のところ何ら変わった様子はないが何かが来るのだろうか。
「ウルフの親玉が、、、フェンリル、フェンリルが来ます!!!!」
おっと。
思っていたよりもかなり大物のようだ。
「か、カイト。フェンリルだってよ。絶対あのユニーク個体って呼ばれてるやつじゃんー!」
「あー。そうっぽいな。どうしようかねー。」
「私、私、私ーーーー!!!」
いつも通りの調子のリリーやカイトに対して未だパニックの渦中にいるその女の子の態度はとてもどころじゃない温度差を感じさせるものだった。
そんな中、草むらの中からとてつもないオーラと足音を立てながら向かってくるものがいた。
その足どりはゆっくりとしたものでこちらが逃げようと思えば逃げることも可能かもしれない速度だ。
だが、体が金縛りにあったかのよう動いてくれない女の子が1人カイトの後ろで未だに震えている。
「しょうがないからいっちょやりますかリリーさん。」
「ならこれを準備しとこー!」
そう言いながらさっき倒したヘラクレスからのドロップアイテム『ヘラクレスの双角』を取り出した。
そうしてすぐそこに近づいてきているフェンリルを迎え撃つ準備を完了しようとしていた。
バサッガサガサ
そうしてゆっくりながら風格を感じさせる足並みでフェンリルがこっちに近づいてきた。
«我の眠りを邪魔したものは誰じゃ»
突然三人の頭の中にはどこからとなく声が響いてきた。その声の主がフェンリルであるのは疑いようはない。
「それを答えたところでどうするんだ?」
«われの眠りを妨げたものには厳正な罰を下すしかなかろう。死をもって償ってもらうのじゃ»
そういえば思ったけどこの試験って一回死んでも生き返るんだよな?
一回死んでみるのも楽しいかもしれない。
「なぁリリー、俺たち一回″死ぬ″っていう体験するのも楽しいと思うんだけどどう思う?」
「確かにそんなことここじゃないと経験できないねー」
えっちょっ、ほ、ほんとに助けてぇー
そんな声が後ろからは聞こえ続けている。
「でもなんかこのフェンリル悪いやつには見えないんだよなー。空気感が。」
「私も仲良くできそうだと思うのにー」
まぁ向こうがやる気ならしょうがないか。
「じゃあリリー、魔法よろしく!」
もちろんエンチャントをかけてもらいながら戦うつもりだ。
えぃ!
そんな掛け声とともに辺りに静寂が訪れる。
「リリーお前何してるんだ?」
«我を馬鹿にしておるのか?»
「あれっ?魔法が発動しないよ〜。ってそうかー!ライトニングはアクセス権解放時しか無理だったよー。」
えっ?リリー。ライトニングで先手必勝的な感じで考えていたのか?お、おう。なかなか好戦的で結構。
後ろにいる女の子は未だに怯えが去ってくれない。
だがそこで意外な展開が訪れる。
«むっ、お主らヘラクレスを倒したのか?この森で古龍種を除けば我の次に強かったのじゃがな。これはちと分が悪いかもしれないのじゃ»
へっぽこリリー、ミラクルを起こす。
今までよりもフェンリルによる圧がかなり下がり始めた。後ろで震えていた子がそこそこ復活する程度には。
「そう言えばなんであなたは追ってきたんですか?」
«我はすべては知らん。そこの娘に聞くのが一番早いと思うのじゃ»
そう言ってフェンリルのそのどこまでも透き通るような翡翠色の瞳をした双眸が後ろの女の子を見つめる。
「そういえばまず名前を聞いてもいいか?」
「ナギ、ナギだよ!」
そうして俺たちも彼女に自己紹介をした後話を聞いた。
「私は最初、ここでウルフ種を倒して大きな魔石を狙っていたんだ!だけど普通種のウルフ種じゃ結局石ころのような大きさのものしか出てこなかったんだよね。だから強敵を探しながら森の奥の方まで行くとなんと!そこらに生えてる草がより集まって洞窟のような空間を作ってるところを見つけちゃったんだよ!」
ナギは話している間に、目の前のフェンリルも、今まで怖がっていたことも嘘のように本調子というか、能天気さというかとにかく元気になって言った。
「そこからはもう、そんな場所を見つけたら行くっきゃないでしょ!ってことでそこを入っていったんだ。大体の敵は私のビーム魔法で一撃だったんだから!」
魔法まで教えていただきました。ごちそうさまです。
「そうして奥の方の部屋にたどり着くとそこにはなんと2体のコマンドウルフがいたんだ。そいつらは普通のウルフ種よりもひと回りで力も拮抗したからなかなかの接戦になったんだ。結局なんとか私が勝てたから15~20cm大の大きさの魔石が手に入って合格を確信してたんだよ。でもなかなかに私もダメージを受けたから回復魔法を使って私も回復してたんだ。」
やばい、この子のなんちゃって魔導師みたいな身なりと比べて中身すごい優秀なんですけど。
「そうしたらその瞬間空気が変わったんだ。するとご想像通りだと思うけど、さらに奥の方からこ、このフェンリル様が出てきたのです。わたくしは何度も魔法を打ってフェンリル様の足止めをしようと致しましたが全くの無駄でございました。それに対して逆にフェンリル様は火炎放射の攻撃をしておられ、私の頬あたりをかすめていきました。そこで私はパニック状態に陥りここに来たわけであります。」
フェンリルが現れたあたりからは言葉が突然変わったのは置いとくとして……。
「ねぇ、それって自業自得だよねー」
「そうだな。」
«我に近づくならそれ相応の覚悟が欲しいものじゃな»
ナギは愕然とした顔をしたあとにもう一度考え出す。
うーん。うーん。
「あっ、私好奇心だけで動いてたからこんなことになっちゃったのか!そうかー。今度からはしっかりと本能に従って動くよ!」
((«こいつ、反省する気がないな»))
フェンリルにはナギが全く使えそうにないので代わりに俺たちの方からお詫びをしておく。
最後に挨拶をして住処へと帰って行った。
そうすると先程までとは打って変わった更なる残念さを持った人がそこには存在していた。
「いやーありがとうありがとう!助かっちゃったよ!これで私に怖いものは無いさ!あっはっはっ!」
フェンリルがいなくなった瞬間にまた調子に乗り始める。
カイトもリリーも呆れ顔だ。
「おーい。フェンリルいるかー?戻ってきてくれると嬉しいんだけど。。。」
「ヘラクレスの話でもしようかー?」
「すみません嘘ですフェンリル様めっちゃ怖い。ついでにカイト君とリリーちゃんも恐ろしいです。」
少し引っかかるものを感じるがここは流してあげるとしましょうかね。
「ここからの戦闘は私におまかせを!怪我をしても回復魔法で治しますよ!」
そういえばリリーはヘラクレスとの戦いで腕に怪我を負ってたよな。それに、ナギがどれ位使えるのかも見ておきたいところ。
「なら私のこれ治してもらえないかなー?」
「うけたまわり!」
そうすると彼女は手を、子供が銃を撃つ真似のように突き出した。
するとその手の先には段々と柔らかな、日光浴でもしているかのような優しい光が溜まり始めた。
しばらく魔力を溜めたところで唱える。
「『回復砲』」
その瞬間指の先から光は放たれ、リリーの怪我の患部へ向けて飛んでいく。
着弾した瞬間、そこは目くらましかと錯覚するレベルで発光し、その光が収まる頃には彼女の怪我は跡形もなく治っていた。
「これくらいの怪我なら余裕のよっちゃんですよ!はっはっはっ!」
「言動はロクでも無さそうだが実力は確かみたいだな。」
「そうだねー。可愛いし、スタイルいいのに……。残念ー。」
おいおい。リリーがそんなこと言うとイヤミにしか聞こえ……
「私が可愛いだって!ありがとう!初めてそんなこと言ってもらえたよ!私の故郷だと私は人間とも見てもらえなかったからね!」
お、oh......。そっちに傾いちゃってたのね。
何かかわいそうに見えてきた。
「じゃあ戻りましょう!もうこんなところに長居したくないんで!さぁさぁレッツゴー!」
ペースをなんだか握られてきた気がするが今回は目をつぶっておくとしよう。
そうして俺たちは楽しく歩きながら、訂正。ナギに振り回されながらスタート地点を目指し歩いていた。
そうして第3ステージ(スライムエリア)に入ったその時。
第二の事件は起きた。
ドッカーン!!!!ドスドスッ、ポロポロポロ
隣にあったはずの岩が消失した。
いや、爆散した。
それだけならまだ良かったが、なんと中から人が飛び出してきたのだ。
「あれっ?こいつは最初にあった残念エルフのようだな。」
彼らの隣には気絶した状態の1人のエルフが横たわっていた。




