16.入学試験(1)
まだ太陽がのぼりかけのころ。
王立学園の校庭にはたくさんの人々が集まっていた。その数およそ300。
「おはよう諸君。今日はこんなにも大勢のものが我が学園の入学試験に来てくれて嬉しく思う。
ただ、この学園への入学の枠は60しかない。その少ない枠を自分の力を出し切って掴み取ってくれ。」
そう、俺たちは今日は王立学園の入学試験に来ている。
王様にあってからの2日はギルドで依頼をこなしてお金を貯めながら過ごしていた。
これで学費も大丈夫だろうと思っていたら、この学園は学費が不要らしいのでお金は自分たちのものとなり少し嬉しかったのは余談だ。
「始まるねーカイト!」
「あぁ、それにしても俺たちの同年代の人たちがこんなにいるとは俺たちの故郷とは180度違ってもはや感動モノだな。」
「なんかすごーい!光る鎧とか、どう見ても体に不釣り合いな大剣持ってる人いたりして面白いところだねー」
まだ何も始まっていないのだが回りを見渡すだけでそれぞれの個性がその武器や防具、立ち振る舞いなどからにじみ出ていてとてもワクワクしてくる。
「それでは試験内容を説明しよう。」
先程のヒラの教員ぽい人とは全く違うオーラをまとった多分校長?っぽい人が出てきた。
校長と思ったのはオーラではなくその鼻の下のヒゲでした。はい。ぽいでしょ?笑
「今回君たちにやってもらうことはこの学園の奥の森で魔物を倒してもらう。」
えーー
うわーー
うぉぉーーーー
いやーーーーーー
所々でそれぞれ様々な歓声や阿鼻叫喚があがる。
それとともに受験者全員に聖なる光が降りそそぐ。
「今君たちにかけたのは『紙流し』。1度の死亡は無効してくれる。ただ、死んだらその瞬間で強制的にここに飛ばされるんだ。」
隣にいた神が今使った魔法についての説明をしてくれる。最初からパフォーマンスとはなかなかサービス精神が旺盛だ。
そうして説明の主導権はまた校長に戻る。
「今回の結果は何で測るのかというと倒した魔物の魔石の大きさだ。数はどれだけ積んでもらってもこの試験では意味が無い。各個人ごとの力でどれだけ強い獲物を倒せたかで測らせてもらう。もちろん今回の試験中の行動はすべて見させてもらっている。ここに強制転移された場合はそれまでに獲得した魔石は評価対象になるから安心してくれ。他人に危害を加えたり、魔石の持ち込みなどが見つかった場合は即終了かつこれ以降の学園の入学試験受験資格も失う。わかっただろうか?」
そこでおずおずと隣でリリーが手を上げた。
「そこの青髪のお嬢さんなにか質問かな?」
校長がリリーを当てた瞬間みんなの視線はリリーに向く。
その瞬間大半の男子は心が奪われた。
多分この瞬間にファンクラブができたとでも言っておこうか。あとあと登場するぞ。
「これって支援系の魔法しかないものはどうやって測るんですかー?」
「おお、それは言い忘れていたよ、ありがとう。支援·治癒魔法を使えるものはだれかと二人1組を組んでくれ。その中でしっかりと私達の目で確かめさせてもらう。あと、どうしても戦闘では使えないような魔法持ちの場合は個別面接をしようとしているからその旨を私たちに伝えてくれ。これで話は以上だ。」
結局戦闘ができないような力を持つものはそもそもこの学園の入学試験を受けることはほぼ無いのでリリーが逆に異端であった。
そのため個別面接をするようなものは現れなかった。
「それでは試験開始だ。制限時間は太陽が真上に昇るまでだ。」
今からだと残り約3、4時間といったところだ。
とそんなことを考えているうちに、みんな誰が最初にスタートするか牽制しあっているのを見つける。正直誰が行っても変わらないとは思う。
そんな中。
「イヤッホーーー!私が一番だー!試験の成績も一番だー!」
黒に赤みがかったとんがり帽子を被っていて、全身は黒いローブを身にまとっている女の子。片目が彼女の感情の高ぶりに合わせて怪しげだが、硬玉のように美しく煌めく。その色が彼女の髪色と重なりぐっと魅力を増大させる。
出るところは出ていてナイスバディーのお姉さんという感じだ。それに加えて、全身黒づくめの装備となっているために所々見えるその柔肌がさらに妖艶さと可愛さ増してみせる。
今話した特徴だけだと美人さんっぽいけどものすごくかわいい系よりの人です。
ただ少し頭があれっぽい。
武器は何も持っていないようだがすごい速度で森へ向かって走っていく。
それを見て、ポカーンとしていた一同も慌てて走り出すこととなった。
「リリー、俺と組むか?」
「カイト以外に選択肢がないのにそんなこと聞かないでよ。むぅーー、、、」
「ごめんごめんそれじゃあ行こうか。」
そうして歩きだそうとしたときにヤバイやつ第二号が現れていた。
「おったからおったからランランラン!」
ゴキゲンにスキップしていく人物の影がカイトとリリーの横を通り過ぎていく。
その娘はカイトたちが小さい頃から親に聞かせてもらったお淑やかなエルフ像とはかけ離れていたエルフの女の子だった。美人というところに関しては一致していたが。
エルフ全般にも言えることだが彼女も例にも漏れずとても美しい。美しい銀髪は彼女をさらに気高い存在だと知らしめる。それなのになぜか表情には遊び心が満載で美しいという印象よりもリーベルに近い感覚を感じる。身長が低めという共通点がそう思わせているのか?
とにかく残念そうなエルフだった。
と他の人ばかりをみているが俺たちもそろそろ出発しないとそこらへんにいる魔物の数が減ってしまって開始早々不利になってしまう。
周りを見渡してももうほぼ全員が出発している。
残っている人といえば共闘を持ちかけ作戦を立てている人、自分の防具と武器を最善の状態にもっていくための努力をしているもの、魔法付与により効果を上げているもの、それに加えてとてもだるそう顔をしながら片手に剣を持つものとその周りにいる数名の女子の受験者のみだった。
最後の一団だけはやたらと余裕を醸し出しており他とは様子が違うようであったが。
「そろそろ行こうよーカイトー!」
「それなら行きますか。」
と、行動を開始しようとした時。
「やあ、始めまして。君たちは随分余裕そうだね。僕達もそうであるんだけどね。」
さっきの気だるげな男の集団が近づいてきた。
近づいてきてわかったことだが取り巻きの中には王城で見かけたのノアもいた。
それを見てカイトとリリーはこいつが異世界から来た勇者だろうとあたりをつけた。
あのあと2人は神様たち(クロトとリーベル)から勇者についての噂を聞かされた。
まず第1に、今までの中でいちばん強力な力を持っていることは間違いないらしい。ただ俺たちの方が強いだろうとも言っていたけど。勇者の中では過去最強らしい。
2つめにこいつの力の授け神が不明ということだ。この世界の神でないのならさらなる危険なスキルなどを持っていたり、発現してもおかしくないとの事。
最後にただただ勇者は外道だ。いろんな人を自分のモノにしてきたようだが嫌がる人、夫のいる人までを強引にものにしてきたらしい。
そんなやつがリリーに近づいたらどうなるかなんて分かりきってるわな。
「ねぇ、その青髪でオッドアイの女の子自分にくれないかな?悪いようにはしないよ。この試験でも最高クラスに入れるように便宜を図ることも出来るよ。」
表面上はニコニコとした表情の仮面を張りつけながら言ってくる。予想通りのクズっぷりだ。
この世界の人間関係は、どうしてもサクヤのもといた世界と比べると希薄である傾向になる。
四方八方に配慮をするなんて必要はここではないのだ。
そんな環境で外面を取り繕いながら生きていくことなんてサクヤには朝飯前だ。
「胡散臭いの一言につきるねー。」
「俺の人を見る目も間違っていないんだろうな。こいつはどう考えても地雷臭しかしないぞ。」
サクヤのことなんてそもそもカイトとリリーは気にかけてもいなかった。
彼らの方針は至って簡単。
来たら拒絶。来なければ無視。その他も無視。
実力行使は返り討ち。
これだけだ。
サクヤの口角がひくついてるのは見なかったことにしてそのまま森へ入ろうとする。
「俺に逆らったことを後で後悔すればいいんだよ。後でな……。」
何やら意味深な言葉だがどうせこれも後から権力を行使するだけの話だろう。今は無視して試験に挑むか。
カイトの予想通りサクヤは
…………国王に頼めば1発だからな
小声でつぶやきながら彼らの背中を見送った。
でもサクヤは考えた。
すべてを与えられるの人生なんてほんとにつまらない。女もメシもすべてを好きなようにできたところで、飽きというものがサクヤを埋めていくのは時間の問題かもしれないとも思われた。
そこで今回会ったあの『傾国の美女級の女』は誰にも頼まずに彼自身で落とそうと心に決めるのである。
合格ができなかったとしても強制的に自分の近くに来るようにしようとするくらいの権力を使うことなら問題は無いであろうから……。
この森は奥から手前に向けて7つの特色のあるステージに分かれている。
手前から
1ステージ ゴブリンの草原
2ステージ オークとオーガの里
3ステージ スライム屋敷
4ステージ ウルフと愉快な仲間達
5ステージ 昆虫パラダイス
6ステージ ワイバーンアイスバーン
7ステージ 山頂の古龍群
一部の受験生を除きこんなことを知る由もないがこんな構造をこの森はしていた。ステージと呼んでいるのはこの森の管理をしているものが勝手につけた便宜上の名前だ。
この入学試験で今までの受験生が入った最高のステージは6である。ただ、それはステージ5に挑もうとした結果ステージ4までと敵の強さが乖離していたことに気づき逃げるためであった。何とか6ステージへ逃げたらその瞬間にやられるというオチもついている。
つまりしっかりと挑めている最高は4と5の間くらいといったところだ。
だからどうしてもこの試験では実力以外のものが必要となってくる。
まず一つ目に言えるのは運だ。
この森には各ステージにはレアモンスターと呼ばれるものが潜んでいる。それらは大して強いわけではないが魔石は大きい。この試験にもってこいの獲物だ。それに出会えたものは受かる可能性はぐんと上がるだろう。はっきり言ってしまえば成長途中のユニーク個体だ。ただ、5ステージ以降は完全なユニーク個体が出現するらしい。
それだけでもなく単純に大きな個体、小さな個体どれに当たるかなどの運が最後の運命を分けることも多々あるので、運はやはり重要なファクターとなってくる。
二つ目に知識だ。
この入学試験では座学のテストというものは存在しない。だがそれは完全に受験生の賢さを測らないというポーズでは決してない。むしろ学園側は″実践の中での知識″を見ているのだ。
この魔物は強さの割に魔石が小さい、あっちの魔物はここが弱点だから簡単に倒せるから数うちゃ当たる戦法が可能だとかこんな状態の敵は魔力保有量が多くなっているから魔石の大きさに期待出来るとか。
さらに突っ込んでいえばレアな魔物の出現場所、出現条件を知っていればそれだけで大きなアドバンテージが取れる。
最後に試されるのは度胸だ。
この試験では神の加護がかかっているため致命傷を受けてもほんとに死ぬ訳では無い。そんな状況であるわけなのでほんとに魔物に立ち向かえるものとそうでないものの差が歴然とする。
死なないとわかっていてもしに晒される感覚はどうしても忌避感が出る。
そんな中でそれを乗り越え己を賭して魔物との命を削る戦いを出来るものは決まっていい結果を持ってくるのだ。
と、そんなこんな説明してみたが準備体操の感覚ででステージ4を横断中のカイトとリリーには縁のない話かもしれない。
というのもここまでのステージをスルーしてきた理由はひとえに「ただ人が多かったから」である。
やっとステージ4に入ったのだが結局ここで戦うのはつい先日腐るほど倒したウルフの仲間であるからさらに奥へ奥へと移動していく。
ここにいるのはアイスウルフとファイヤーウルフの2種だった。
リリーはめんどくさいのでとにかく避ける。エンチャントで光属性を付与した剣で弾きながら奥へ奥へと進んでいく。飛んでくるアイスボールとファイヤーボールは一撃もリリーにダメージを与えることも出来ていない。
そこでリリーは考えついた。
(氷と炎って混ぜたら多分溶けるよねー。やばい私の発想って天才かも!)
カイトは無表情ではびこるウルフたちの攻撃はすべて『理想世界』による反射で相手に返していた。リリーの企みに気づくことはなく……。
リリーは準備の段階に入った。スピード少し落として、先程までよりも多くの魔法を弾いていく。
そしてリリーの目がぎらりと輝くとともにリリーは剣をしまい一時撤退した。
そう、炎と氷がぶつかるであろう射線上から。
リリーの予想ではここで氷と炎がぶつかって何事もなくわあ綺麗ーじゃーさよならーって感じで次のステージへ急ぐつもりだった。が、そこに飛んできたのはファイヤーボールが3個に対しアイスボールは1個。
皆さんおわかりだろうか。
ファイヤーボールとアイスボールが1個ずつなら互いに威力を相殺して終わったことだろう。
また、アイスボールが多かった場合は溶けきらなくてそのまま奥へと流れていっただけで済んだであろう。木が少し大変なことになったかもしれないが。
だが、不幸なことにも今回はファイヤーボールが多かったのだ。
何とかカイトの元まで退避するリリー。
その瞬間にアイスボールとファイヤーボールは激突する。
そして火炎の花が咲く。
氷が液化してできた水とファイヤーボールが一瞬のうちに反応し爆発を引き起こしたのだ。
ドォーーン
カイトはできる限りの大きさで自分の目の前にリリーも一緒に庇うように『反射』を展開する。
リフレクターの最大展開でも体の半分ほどしか隠せないためどうしても余波が来てしまうものの、逆に爆発自体を自らに反射することで耐性を得ることに成功し、リリーを何とか守りきった。
カイトは少しのダメージを背負ったがそれはまだ誤差の範囲と言えるものだ。
それに対して今まで魔法を浴びせまくって来ていた不特定多数のウルフたちは今の爆発で絶命したもの多数に加えて、その他も吹き飛ばされて重傷を負うか今の光景を見てか敵対の意思を失ったようだ。
他の受験者がここを通った時に魔石だけ持っていかれても癪なのでしっかりと魔石を回収していくとそれらは30個以上にのぼりなかなかな数をいなしていたことに改めて気付かされた。
「ごめんねカイト。私の遊び心のせいで迷惑かけちゃって……。」
「短時間で敵も掃討出来たし結果オーライだな。でもな、リリーにかけれれる迷惑なら俺は大歓迎だから。」
カイト!と嬉しそうに呼びながら横から抱きついてくるリリー。その顔が緩んでいることをカイトを使って隠す。
「そろそろ大物刈りでも目指すとしますか。」
抱きついてきているリリーの頭を撫でながら言う
腰のあたりから小さな動きを感じたのでリリーも頷いているのだろう。
そうして5ステージ、通称昆虫パラダイスに突入する。
気持ち、周りには特徴的な植物が増え始めた。
今までのステージにあった木はそこら辺の裏山にでも生息していそうなものばかりだったがここでは蔦類が木に絡まっていたり、木の背の高さも一定ではなく種によって個性を持ち始めた。
と、前から新たな魔物が現れる。
その姿はカマキリを大きくした感じだが、胴の部分がカマキリよりしっかりしているために安定感は欠いていない。
突然かまを振るってきた。
なんかどこかでこんなものを見たことがというデジャブ感に苛まれながらも飛び出してきた風の刃を反射で弾く。
それが相手にそっくりそのままはね返っていき深手のキズを与える。
そしてその隙を逃すことなくリリーは相手を一閃する。
「なかなか厄介そうなところだな。さっきまでの魔物と強さが違いすぎる。」
そう、このステージからは強さがまるっきり変わるのだ。今の1戦でそれを感じるカイトもなかなかのものだが。
「なんで分かるのー?」
「今の変なカマキリみたいな魔物の攻撃力は今の魔法で反射して自分に投影した。その際に下手するとアサシンバットに近いくらいの強化を感じた。それに加えてさっきの反射で1発で死なない時点でおかしいんだ。」
「確かにそうだねー。私も気を引き締めていくよ。じゃあ『贈物』使ってここからは少し本気出していくよー!エンチャント。」
そこからもたくさんの魔物がいた。
蜂の魔物は魔法を使ってくることは無かったが空中を飛びこちらを撹乱させながら効果的なタイミングで毒針を飛ばしてくるせいでとっても鬱陶しかった。
次には地面から巨大ミミズのようなものが現れる。口をあんぐり開けながらこっちに迫ってくる。残念ながらカイトの双剣では刃渡りが足りないせいでこいつには致命傷が入れられないようだったのでリリーの伸びた刀身を持つ片手剣でカイトが囮となり注意をひきつけているうちに一刀両断という運びとなった。
その後もたくさんの昆虫型モンスターを倒してカイトたちは疲れていた。
何よりも魔物自体の見た目と死に様がグロテスクなのは本当にやめて欲しかった。
一体一体もなかなかの強さを誇っていたために少し苦戦はしたものの何とか次のステージへと言ったところだった。
が、幸運かはたまた不幸かそこにたどり着いた。
そこはほかの部分と違い木が生い茂っていなかった。一箇所だけ場違いのように草原部分が存在していた。
「あれって行かないべきだよね。なんだかとってもよくない感じ化するんだけどなー。」
「まあさすがに勝てないことは無いだろうし行ってみるのもいいんじゃないか!」
「うーん。。。」
その時。何もいないと思っていたが周りに気配を感じた。
「カイト、どうしたの?」
「周りを見てなにかいないか見てくれ。」
「何もいなさそう………………あっ!上を見てカイトー!」
そこには全長三mといったところといった大きな魔物が飛行していた。そして俺たちを見下ろしていた。
「これは流石に逃がしてくれなさそうだな……。」
しょうがないので戦いにくい木々の中よりも草原に出る。
するとその魔物は降りてくる。
それは言うのであればカブトムシをめっちゃ強そうにしたものだった。
漆黒に輝いている甲羅は今の自分たちの刃では届かないことは一目瞭然。目の前には先が二股にわかれたような角が今にもこちらに伸びてきそう。
背中には羽も生えており最初に空中にいたことからお察しの通りに空中での小回りが効く。
「じゃあやるかリリー。」
「むぅ。ここは私にやらせてよー。この前のアサシンバットだって結局カイトが倒しちゃったし私も戦いたいの!」
「あぁそうか。なら危なくなったら俺が助ける。それでいいか?」
「うん!!!」
そうしてリリーとカブトムシ……正式名称ヘラクレス(レアモンスター)との戦闘の幕が上がった。
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