13.お前は誰だ?
今回は長めの話となっております。
~クロト&リーベル~
「私あんまりあなたのこと好きじゃないけどこのことについては話し合わなくてはと思うの。」
クロトがリーベルに話を切り出す。
カイトとリリーが出かけていったあとのタイミングを見計らってリーベルに会いに行ったのだ。
「あのふたりの力についてということでいいのか?」
今はお酒を飲まずに真面目バージョンのリーベルが答える。
「えぇ。あれは流石にこの世界のものとは思えないレベルの強力さを備えていると思うの。下手するとというかたぶん異世界から来る勇者を超えているのは確実かと。」
「うぅぅむ。」
クロトとリーベルは二人の扱いをどうすればいいのか分からず手持ち無沙汰な状態に陥っている。
「それならほかの神連中に伝えるのはどうなのだ?」
「それでもいいんだけどそうするとどうしてもほかの神様達に彼らの能力が伝わってしまうと思うの。」
「確かにそうだ。」
これらが不毛なやりとりと二人はわかっていた。だが、このような不毛なやりとりをしてでも何かしないとあのふたりがこれからどうなるか心配なのである。
お互いに何も発さない時間。
じーっとお互いの目を見つめながら何かいい案を出してくれと目で催促している。が。それでいい案が出てくるのであれば誰もこんなことで困らない。
「そう言えば最近この世界に新たな勇者が現れたと聞いたのだ。」
突如としてリーベルは一旦話の方向性を変える。
「そういえばそんな噂を聞いたような気がしますね。なんかとても強力な力を持っているとか。でも、神達がだれがその勇者に力をさずけたのか未だにわからないという不思議もはらんでいるらしいですよ。」
そう。
一般にはまだあまり噂が広まっていないが勇者が現れたことは今、神様たちの中でちょっとした話題となっている。それと、それに対抗できるような子を探すことにも躍起になっている節がある。
「それなら、一層の事国王にこのことを報告しに行けばいいのではないか?」
何気なくリーベルが言う。
「そうだわ、それがいい、そうしましょう!」
「え、マジでそんなことするの?」
思わず素の反応が漏れるリーベル。
なんの考えもなしに半分無意識な条件反射に近い形で答えたものだからそう返してしまうのも無理はない。
「なら明日にふたりを集めて国王様のところへ行きましょうか。そういう事でよろしくねリーベル!」
そう言いながらさっそうと去っていくクロト。
彼女の決めたことは相手のyes、noを聞かずに決定事項になってしまったのだ。
運命の女神ってそこら辺便利。
たまにの例外で痛い目を見ていることには目をつぶって気にしないでいくクロトクオリティー。
「あのアマーーー。私の意見を無視するんじゃないのだーーー!なんか偉そうですごいムカつく。見た目はこんなんだけど私の方が歳上なのにーーーーー。」
クロトが去って行ったあと、リーベルは先程までに蓄積されたクロトへの怒りが爆発した。
ただ、本人の目の前ではそういうことは言わない空気は読める神様でもあった。
……お酒を飲んでなければ。
そういう意味ではクロトには我慢という経験が少ないので、空気を読めないと誰もが口を揃えていうだろう。
そんなこんなで神様の密会(?)は終わる。
~カイト&リリー~
「戻ってきたよギルドーーーー!」
あの毒キノコと中身カオスなギルドさんにただ今戻ってきました。
俺たちは今日はこれからなにか依頼を受けてまず力試しと称した時分の力の確認をするつもりだ。
扉を開けてギルドに入るとそこにはこの前とはまた違った光景があった。
それもそのはず。
いまの時刻はお昼ご飯時より少し遅いくらい。
普通の冒険者ならば絶賛依頼遂行中。
だが、そんなことはお構い無しにカイトとリリーはギルドの掲示板へと向かっていく。
ギルド内にいる冒険者は少ないものの、やっぱりリリーの美貌にみんな目を奪われている。
ただ、近寄ってくるものはいないようだ。
この前のことが知られてるのか、逆に近づきにくいとかいったそんな所だろう。
「うーん。どんな依頼がいいかなー。」
リリーは目を輝かせながらたくさんの依頼が貼ってある掲示板の前にいる。
ただ、今ここに残っている依頼は殆どのものが期間制限なしの自由依頼と呼ばれるものだった。
期間指定されているものは時間制限があるため報酬が高めに設定されており、自由依頼に対してコストアンドパフォーマンスが素晴らしくなっているのだ。
「正直俺たちがここを見ててもわからないんだよな。」
「そうだねー。まだ力もらったばかりでどれくらい出来るかわかんないもんねー。」
「あ、あとリリーは未来予知使っちゃったからな。3日間使えないだろ。アクセス権だっけ?」
さっきまでの俺の惨劇を思い出すだけで体の震えが止まらなくなる。
詳しく話してくれって?
今回は遠慮しといてくれ。
「あ、それはなんか私の頭にあの時、情報が流れ込んできたんだけどあれはお試しみたいなやつらしくて強制発動させられたらしいの。だからまだアクセス権使えるらしいよー!」
おっ、それは好都合だな。何が出来るかわからないけど試せるのに越したことは無い。
ただお試しとやら、時と場合を考えてくれ。
結局俺たちはその後もう少し掲示板を眺めていたが、結局何もわからなかったので受付に行くことにした。
もちろん前回と同じリーフさんのところに。
「こんにちは」
「こんにちはー」
「こんにちは。今日はどうされましたか?」
今日も前回と変わらず美しい容姿でうっすらと微笑みながらこちらに問いかけてくるリーフさん。
「念願の力を手に入れることが出来たので、自分たちの力を試せる依頼がないかと思って今日は来たんですがどの依頼がいいのかわからなくて……」
「今回は本格的に依頼を受けるという認識でいいですか?」
「そうですー」
「ならもう一度ギルドについてをしっかりと説明をさせていただいてもいいですか?」
「「お願いします」」
前回に俺たちが来た時も説明はしてもらったが、まだ活動をするわけではなかったのでギルド証についての少しの説明とこのギルドについての説明だけで、依頼など冒険者としてするようなことについての説明はあまりされていなかった。
「では、説明させていただきますね。」
簡単にまとめるとこうだ。
仕事を受ける上でランクというものが存在する。
そのランクにはSSS~Gまで存在する。
普通の話であれば、依頼達成などのギルド貢献度によってランクが決まるだろうが、この世界は違う。
この世界ではレベルでランクが決まる。
表にするとこうだ。
SSS Lv.100
SS Lv.90~99
S Lv.80~89
A Lv.70~79
B Lv.60~69
C Lv.50~59
D Lv.40~49
E Lv.30~39
F Lv.20~29
G Lv.1~19
このようにレベルでもランクが決まるため基本的にレベルは公表される。
ただ、レベルだけではすべてが決まらないのがこの世界。
そう、神様からの力によって大きく強さが左右されるのもまた事実。
そのためランクはある程度の指標でありそれ以上でもそれ以下でもないらしい。
なので、受ける依頼にはおすすめランク的なものが書いてあるがそれは目安に過ぎないとのことだ。
とは言うもののギルド側も身の丈に合わない依頼を受けて帰らぬ人が出るのも寝覚めが悪いので自分の実力の証明という形で、任意の力のギルドへの公開を求めている。もちろん守秘義務は発生する。
ただ、この時に必ず一つはギルド側の実力把握のために全員教えなければならない。二つ目以降が任意という形になるらしい。
つまり、今からひとつ教えなくてはならないらしい。これは規則なのでしょうがない。これはギルドとの信頼関係設立のためにも必要なことだ。
冒険者になるために必要なことならと自分を納得させ、リーフさんに伝える。
「これです。」
「はーいこれだよー」
リリーは凪一閃を見せる。
俺は理想世界を見せる。
……
……
「あなた達ほんとに普通の平民さんですか?魔法は使えたりこんなに強力なスキルを使えるたりで少しレベルがおかしいです!もちろん異世界からの勇者じゃないですよね?」
「ちがいますよ」
答えを聞いて今度は考え込む素振りを見せるリーフさん。
「ではこの当たりなんてどうでしょうか。」
そこでリーフさんが提案してきたのはすべて自由依頼だが、F、E、Dランクのものが用意されていた。
「お2人なら魔の森での戦闘経験もおありのようですのでかなり高めのランクですけどいけると思います。」
それでは依頼内容を見てみようか。
えーっと。
°Fランク・・・月下草の採取
報酬:1本につき2万レイ(5本まで)
°Eランク・・・アクアウルフの牙と毛皮を3セット
報酬:漆黒剣
°Dランク・・・アサシンバットの討伐
場所:ヘリオスの洞窟
報酬が30万レイ
いや、普通に最初からこれはきつくないですかね
今日はなにか一つを受けるとして月下草は夜にしか取れないので却下だとして、この近くにアクアウルフもいないな。ってことはヘリオスの洞窟に行くしかないのか?
「もう一つ下のランクだと何になりますか?」
「ゴブリン討伐ですね」
村にいた時に腐るほど倒したな。ならもう洞窟に行くしかないか。
「カイト、この洞窟のにするー?」
「あぁ。」
そういうわけで俺たちはヘリオスの洞窟に行くこととなった。
ちなみに武器についてだが、俺は村で戦う時から使っていた何の変哲もないふた振りの剣、リリーは片手剣を使っていく。
「お気を付けて!」
ギルドを出て地図を頼りにヘリオスの洞窟を目指す。
~~~~~~~~~~~~~
歩くこと1時間。
都市を出て、森の中をまっすぐ進んでいくとひっそりとして入口の小さい割れ目ながらも強大な存在感を感じるヘリオスの洞窟の入口へとたどり着いた。
「よし、行くか。」
だが、そこでリリーは1度カイトをたしなめる。
「ねえ、カイトー私の一つ目のスキルのアクセス権解放を使ってみていいかなー?このスキルについてはここで把握しといた方が役に立つか役に立たないかもわかるんじゃない?」
確かに未知のスキルでもどのタイミングで発動かのうかがわかるだけでも大きいな。
「よし、使おうかリリー!」
もはや俺が何も言わなくても絶対始めてただろってくらいの様子でリリーはスキル名を唱える。
「″アクセス権解放″」
特になにか特別なエフェクトが出たりはしない。
一見何も変わってないように見える。
だがある一部が決定的に変化していた。
リリーの雰囲気。
目からは今までののほほんとした感じは消え去りとても強い芯が視線から感じとれるようになり、表情は今までの笑みを貼り付けていたのと対照的に今はキリッと引き締まった表情をしている。
「お前は誰だ?」
思わず俺がそう聞いてしまう。
それくらいの変貌をしているのだ。
「私はリリー・ゴールドです。正しくはリリーゴールドのスキルによるもう一つの人格と捉えていただければいいかと思われます。」
「もう一つの人格!?」
驚いては見たものの、今目の前で起きていることと照らし合わせてみればそれはごまかし用もない真実なのだろうと理解はしている。
納得したからと言って驚きが終わるかは別だが。
「はい。アクセス権解放中のリリー・ゴールドであると認識してもらえれば大丈夫です。ということで私からこのスキルについてあなたに伝えておいてもいいでしょうか。私のもう一つの人格─あなたのよく知るリリー・ゴールド─は今眠っているので。その変もろもろの引き継ぎを頼みます」
とてもよく分からないことになってきたけど、今後のリリーのために俺が話を聞くことがベストな選択だということくらいはわかる。
「では説明します。まずこのアクセス権というものは今はなき遺失した楽園を取り戻すためのスキルです。例として言えば、私のもう一つのスキル凪一閃に必要な古代魔法を検索可能になるのです。ただし、もちろんこのスキルにデメリットはあります。まずこのスキルにはフェーズという概念が存在します。このフェーズが上がるにつれて検索可能範囲も増大化していくという仕組みです。なので、今の状態ではまだ微々たるものしか検索できません。また、フェーズが上がるまでは二つの人格が共存することができません。そして、制限時間があるのでそろそろ私はもちろんもうひとりの私にもどりますね。最後に私から一つの魔法の検索結果を置いていきます。贈物、コレを口に出せばこれについての記憶は取り戻すようにしておきます。それでは……」
末恐ろしいスキルだな。というかこれはいくらでも強力なスキルが生み出せてしまう。それに加えて、さっきの別人格のリリーはなにか神々しさまであったな。
「カイトどうしたのー?私スキル発動失敗しちゃったー?」
また突如としてリリー(本人)が戻ってくる。
「いや、発動は成功してたよ。証拠に贈物。
これで何かピンとこないか?」
・・・・・・・・・
「あっ!この魔法について思い出したよ。その人の武器に武器所持者の持つ属性エンチャントを可能にするんだって!あと武器性能に自分ののアビリティ加算出来るらしいよ!ただ、加算されたぶんは自分のステータスが下がるおまけつきらしいねー。」
これで古代の低級支援魔法か。こんなのポンポン出されても困るよな。これが最初の『贈物』としてのスキルであると思っとくべきか。少なくとも低級じゃあ無さそうだ。
というかリリーの落差もやっぱりすごいな。
さっきまでは冷静で堅物系だったのにまたいつものほんわか天然系に戻ったな。
うっちのリリーにも会いたくなっちゃいそうだ。
「新しい魔法とかを使いながらこの洞窟を探検するとしますか。」
そうして俺たちは洞窟へと足を踏み入れた。
~探索中~
「リリー、そっちは任せたぞ!」
「はーい。カイトはそっち余裕なの?」
「こんなの魔の森のヤツらに比べたら全然ましだ。」
「やっぱりー?私もそう思ってたところだよー」
俺たちは奥へ向けてどんどん進んでいた。
この洞窟の構造は基本的に暗いのだがどこからかは分からないが微かな光が漏れてきているためになんとか進めるほどの明かりの確保は可能だった。
そして基本的に一本道でずっと奥へ奥へと続いており、時々分かれ道がある程度だ。天井の高さは約4から5mくらいとなっている。
壁にはツタが所々にはっていて、岩の壁はひんやりとした涼しさをカイトたちに提供している。
「夏にここ来たら涼しそうだね」
ここではこのリリーのコメントについてはノーコメントで行かせてもらいます。
カイトたちの様子といえば、基本的にスキルは使わなくても敵は倒せていた。
その証拠にリリーとカイトが歩いてきた洞窟のここまでの道には無残な姿となったダークウルフとエラーバッドがたくさん転がっていた。
いや、その素材が転がっていた。
ダークウルフはこの世界に存在する属性を持つウルフ種の闇属性版だ。
特徴としては初級魔法だがダークボールという闇属性魔法が使えることだ。
ダークボールは喰らうと自分の視界が数秒間奪われてしまうという地味な効果だが、最悪死に関わるレベルの恐ろしい魔法だ。
エラーバッドは今回の討伐依頼の出されているアサシンバッドの子分みたいなものだ。
特徴としては空中を飛び回り、方向を狂わせる超音波を放出することと突然急降下の突撃攻撃をしてくることだ。
そう、この洞窟は普通に危険な場所なのだ。
暗闇状態になり、方向を知るすべを失ってしまえばこの洞窟から出ることが出来ずに力尽きる人も出るほどだ。
そのためそこそこ高い推奨Dランクということで依頼が出されているのである。
「いやー、こんな調子で進んでボスみたいなの一匹倒せば30万レイも貰えるのか?」
「ホントだよね。私たちのあの村での生活はなんだったのか……」
冒険を進めたいのでここでは村での話はカットで後でにしとくよ!
当初はカイトはガンガンに理想世界を使って相手を倒していこうと考えていたのだが、そんなことする必要はなかった。
さすがに相手の防御力も高いのでリリーのエンチャント魔法を使ってみているのだがそれが強かった。ちなみに武器にアビリティ加算は使っていない。
カイトには水属性のエンチャント、リリーには光属性のエンチャントが施された双剣と片手剣を振り回して敵を倒しまくった。
カイトの前にダークウルフが現れれば、口を開いてダークボールを打つその一瞬のタメの瞬間に剣を振りかざし相手を再起不能に陥らせ、後ろから襲いかかってくる的には振り向きざまの回転蹴りで壁までぶっ飛ばす。
空中を飛んでるエラーバットには両手に握られている剣のうち片方を投げつけ攻撃し、それに慌てている所を壁を駆け上がりながら大ジャンプをし相手をしっかりと仕留めていく。
もちろん着地の瞬間にはカイトの右手には剣が戻ってきている。
水のエンチャントは剣への血の付着による切れ味の低下を水で洗い流し、さらに剣の表面に流れる水流によりさらに切れ味を底上げする。
リリーに関してはさすがにカイトほどの力によるゴリ押しができる訳では無いが、着実に敵を倒していく。力を補うセンスと技術でリリーは自分の間合いに敵を入れない。
ダークウルフによるダークボールは彼女の愛剣が瞬く光とともに無効化していく。
そのスキをついて後ろに回り込み、しっかりと剣を相手の急所に当てることで1体また一体とダークウルフを倒していく。
エラーバッドについては彼女のエンチャント属性が光であることが最大限に生きるところだ。
水が水流による剣のコーティングであるのならば、光属性は光の刃による刀身の長さを変幻自在に操ることができるのだ。(元の刀身の長さの半分から二倍まで)
その特性を利用して、空中に飛んでいるエラーバッドに向けて、刀身を伸ばしながら牽制をしながら攻撃を加えることで危機感を与え、突撃攻撃を誘発させる。
突撃攻撃に関しても、その伸びた刀身によるリーチを生かして相手をしっかりと捌いていった。
ざっとここまでのこのふたりの戦闘はこんな感じだ。
そもそも素の戦闘力がとても高い。この世界での素の戦闘力が神様にもらう前から最強の人で約Dランク程度までなら完成させることは出来ると言われている。
カイトとリリーの戦闘力に関しては元々Eくらいあるだろう。
今は魔法によるエンチャント、アビリティー加算により2人はさらに強くなっている。
「ねぇもうこの素材たち持てないけどどうするー?」
途中まではその処理もよかった。
基本死体は魔石となり、たまにドロップアイテムが落ちるレベルだ。
魔石に関していえば全て小石レベルの大きさなので心配することは無かった。
だが、たくさんの魔物を倒しすぎたためにそろそろドロップした素材が持てなくなりそうなのだ。
「しょうがないから置いてくしかないか……。」
そんなこんなでそれからはアイテムを拾う必要もなくなったためにさらに移動速度が上がり、ついにカイトとリリーは行き止まりのような場所に行き着いた。
そこは今までとは明らかに違う場所だった。
天井の高さは今までの場所とは明らかに違い約二倍ほど高い10mくらいと見受けられ、ここには明かりが一切なかった。大きいな広間となっており、このルームの向こう側がどこにあるのか今の状態では見えない。
カイトたちに関していえば、リリーの剣の光属性付与によりなんとか明かり代わりとして自分たちの視界の確保ができている。
「そろそろ討伐対象のアサシンバットのお出ましかな?」
そういった直後、突如として高速で何かが近づいてくる気配がした。
「後ろに跳べ、リリー!」
俺とリリーはなんとかそのナニカによる攻撃を間一髪で避けることに成功する。
目の前をブォンという音とともに、アサシンバッドと思われる物体が過ぎ去っていく。
一瞬だけ見えたその体はエラーバッドの大きさとは比べ物にならない。
エラーバッドが全長70センチほどだったのに対して、こいつは2メートル50センチくらいある。
加速も先ほどの雑魚とは段違いの早さを見せつける。
ファーストコンタクトからさっきまでとは違う強さの片鱗を見せていた。
だが、
それを見てもリリーの表情は変わることはなく、カイトの顔は何故か喜びに満ち溢れていた。
カイトとリリーの本来の戦い方は二人の連携があった上で成り立つのである。なので、最悪それを使えばたぶんこの程度の相手であれば倒せると2人は踏んだ。だから、
「これ、俺ひとりでやっていいか?」
カイトはリリーにそう尋ねる。
「元々そのつもりだったんでしょー?リリーはわかってたよー!」
そう、この洞窟で新たに獲得したスキルなどを試すために入ってきたのにまだカイトは使う機会もなかったのだ。
「ありがとうリリー。やっぱりお前は最高のパートナーだな。危ないから後ろに下がっててくれ。」
「頑張ってねー!」
最高のパートナーという言葉に少し反応しつつも、言われた通りに後ろに下がってカイト見守る体制にリリーは入る。
せめてものカイトの手助けとして、リリーは自分のの手元の剣を最大出力で光らせる。
部屋の全体とはいかないが、3分の2くらいは確認できるようになった。
「それじゃあ行くとしますか!」
カイトはその声とともに……何かをするわけではなかった。
アサシンバッドの出方をまずは伺う。
カイトの方が強かろうが、相手の方が強かろうと冷静にまずは相手の行動パターンを確認してからだ。
と思ったその矢先。
「キュキュューーー」
アサシンバッドは5mくらいの高さで浮遊していたかと思うと、突然翼をカイトの方に向けて振るった。
そこからはなんとカマイタチのような風の刃がカイト向けて襲いかかる。
だが、カイトは焦らない。
いや、逆に楽しさを抑えられない子供のような方向で冷静ではないのだが。
カイトは『理想世界』を発動する。
その瞬間、カイトの目の前に盾ほどの大きさのシールドが現れる。
「カキィィーーーン」
相手の放ったカマイタチはカイトの作り出したシールドに当たると180度方向を変えてアサシンバッドへと帰っていく。
「キュィーーー」
少し距離が遠かったようで直撃はしなかったようだが相手の腹部を軽く切り裂きダメージを与えることに成功した。
「これが、俺の力…………。」
カイトは改めて自分の力を実感する。
この戦いではリリーからのエンチャントは貰っていない。
自分自身のみの力を試したいのだ。
と、そこでカイトは不思議な感覚に襲われる。
何故か魔法を使えないはずのカイトに頭の中に魔法の知識が流れ込んできたのだ。
それに加えて、体が先程よりもさらに軽くなったような。
それに加えて、とにかく本能が右手を相手に向けて振れとうるさい。
なので今回は本能に従ってみることにした。
「オルァァァァーー」
その瞬間魔法の使えないはずのカイトの右手から魔法が生まれる。
それは″カマイタチ″だった。
それは真っ直ぐ相手に向かっていき、逃げようとする相手の翼をまるでケーキに入っていく包丁かというくらいに綺麗にすぱっとそれを切り裂く。
根元とは行かなかったが、真ん中くらいから先は失われていた。
キュィークゥーーー
もはや相手の鳴き声は小さくなってきている。
そろそろ本格的なやばさを悟ったらしいアサシンバッドはなんとか空中をかろうじて飛べている。
ただ、片方の翼の大部分を消失したダメージは大きくもう長く飛んでいることは叶わなさそうだ。
そうなってくればもう相手にはやることが限られてくる。
「キェーキューーーー」
エラーバッドの親玉というだけあってさすがに先ほどの雑魚とは比較にならない超音波を繰り出す。
これは普通の人が聞くと方向感覚を失うというだけではすまず、前後不覚に陥り膝から崩れ落ちるほどだ。
だが、カイトは動揺しない。
自分の力を信じるのみ。
今回は物理的に障壁をつくるイメージとは別に精神を守るものという曖昧だが確実な定義の元『理想世界』を展開した。
本来ならば、いや、普通の冒険者ならばもうこの時点で詰みだろう。
暗闇からのカマイタチにダメージを受け、超音波により立つことさえままならなくなれば後は死が待ち受けるのみという状態のはずだ。
だが、ガイドはそんな運命を自分の力というもので新たな「運命」に塗り替える。
カイトにはノーダメージ。
ただ、後ろにいたリリーにはこの超音波が届いてしまった。
リリーは耳を抑えてはいたもののそれを聞いてしまったがために少しフラフラしている。
その瞬間カイトのタダでさえ何を考えているかわからないその特徴的な銀眼は細められ、その姿は敵を狩るためだけに動く狩人へと様変わりしていた。
残念なからこの超音波の周波数は人間用に合わせているらしく『理想世界』で反射した超音波はアサシンバッドにはダメージを追わせることは出来なかった。
だが相手の方からしてみればもう戦いを続けるには限界であった。
カマイタチも超音波も効かない。
自分のやれることはもうほとんど無い。
ここで終わらせなければ自分は狩られてしまうことだけは感じていたのかアサシンバッドは最後の賭けに出る。
それは至ってシンプル。
加速を伴う突撃であった。
このルームの高さが許す限りに飛び上がり、そこからは限界を迎えている翼は折りたたみ、カイトに向けて一直線に滑降するのみという攻撃。
それでもその行動をとるのはやはりシンプルイズベストという言葉が存在するように、魔法などでちょこちょこ攻撃をしてダメージを与えるよりも単純だが必殺の威力を持つ己の中で最強の攻撃を最後の手段として取っておくのは至極当たり前のことだろう。
それに対抗するカイトは……
動かない。
カマイタチを撃てば相手にダメージを与えたり、突撃の起動をそらすことが出来るだろう。
もちろん時速100キロを超える早さで飛んでくる巨体のアサシンバッドの攻撃を受ければひとたまりもないのは自明だ。
それでもカイトは動かなかった。
そして何を思ったのか彼は武器さえも地面に捨てた。
そして最高速度に達した場合アサシンバッドの突撃攻撃がカイトにクリーンヒットするかと思われたその前に。
カイトは腕を後ろに振りかぶる。
後からなぜこうしたかと聞かれてもどうしてかなんてわからない。
なのに体が自分の制御下を離れたかと思うくらいに、でも自然にこの行動をとっていた。
そして彼の後ろへ振りかぶった腕がものすごい速さで突き出されると同時にアサシンバッドもそれに応えるように凄まじいスピードでカイトへの突撃を敢行する。
ドォォーーーン
何かが爆発するかのような音とともに決着の時はおとずれた。
そこに広がる光景は……。
アサシンバッドはカイトの迎撃と、その自身の早さゆえに元の様子とは似ても似つかないひどい有様となっていた。
翼はもげ、腹の部分は抉られている。
今は少しピクピクとは動いているがしばらくすると全く動くことはなくなりその姿は魔石とドロップアイテムを残し消えていく。
カイトはアサシンバッドの様子からもわかるように攻撃の力はゆうにアサシンバッドを超えて勝利を収めた。
だが、力とスピードはまた別問題。
カイトの攻撃は確かにアサシンバッドを仕留めるのに申し分ない威力をひめていたのだが、相手の勢いまですべて殺すことは流石に不可能だった。
自分のスキルの能力を使わずに戦った代償はここに現れ、カイトは壁際まで一直線に吹き飛ばされた。
だがカイトはそれでも笑顔だった。
これが彼の冒険者としての最初の成功。いや、そんな事じゃなくて″『理想世界』の効果を初めて正しく理解出来た瞬間″だったから。
リリーのもとへ駆け寄り彼女の無事を確かめる。
見た目だけならカイトの方が最後の攻撃の衝撃などによりボロボロなのに。
「大丈夫だったか?」
「自分の姿を見てから言ってよー。それよりも、冒険者としての初勝利本当におめでとうカイトー!」
そうして、超音波の効力はもう消えたらしくまっすぐと俺の胸に飛び込んでくるリリー。
カイトはそのリリーの頭を満足するまで撫で続ける。
そしてカイトとリリーは初めての以来の成功の証である拳大の魔石、ドロップアイテムの『アサシンバッドの牙』を回収する。
その後、俺たちは冒険者としての初仕事を終え、ギルドへと戻っていった。
面白いと思っていただければ評価、ブックマークの程をお願いします。
そろそろ勇者登場予定です。




