【第332話】喜怒哀楽
「先輩、ありがとうございました!」
あれから、美紀ちゃんと彩ちゃんが授業に戻ってきたので、勧誘に加わってもらうことになって、俺は帰ることになった。
まあ、下手に男がいないで、女の子3人の方が、聞きに来てくれる人も多いのではないかと思う。
「男女1名ずつボーリング参加っすか、中々の成績っすね……でもその記録塗り替えてやるっすよ」
彩ちゃんが、珍しくやる気だ。
「彩、どうしちゃったの? 変なものでも食べた?」
美紀ちゃんが心配してる……その気持は分からないでもないけど、さすがに変なもの食べてやる気が出る人っていないんじゃないかな?
「先輩はどうせ女の子を勧誘したんすよね……そうはさせませんよ、美形男子を揃えるんす」
いやいや、絵実ちゃんを勧誘したのは夏子ちゃんだし……
「俺は男の子の方だよ、2年生の……」
「なんと!……先輩がついに攻めに……」
「おいっ!」
なるほど、美形男子を勧誘して、BL妄想のネタにしようっていう魂胆か……まあ、動機は不純だが、結果は建設的なので、下手に否定できない。
「もしかしたら、彩にいい人ができるかも……頑張ろうね!」
夏子ちゃんはそっちの心配してくれるんだな……まあ、合コンに無理やり誘ったのもそういうことだったのかも……結果的には俺と二人であぶれるという残念な内容だったのだが……
「そうだね、彩ちゃんにも、いい人が見つかると良いね」
彼氏ができれば、趣味に没頭することもなくなるんじゃないかと思って、そう言うと、
「そういうのいらないっす……彼氏じゃお腹一杯にならないっすから」
いやいや、BLでもお腹一杯にはならないだろ……ならないよな?
「彩さんにはきっといい人が見つかりますよ」
陽花が珍しく、彩ちゃんに希望的観測を述べる……いや、叱咤激励?……美辞麗句?……よく分からんな、こういうの何ていうんだっけ……
「ありがとうございます陽花さん……でも、本当に今は大丈夫っす」
女の子3人なら、男子が説明聞きにきてくれる確率は上がるよな。
彩ちゃんに一抹の不安を抱えつつも、3人に任せてみることにした。
* * *
「そいういえば、さっき、絵実ちゃんに質問したのってなんで?」
帰りの電車の中で、陽花に聞いてみる。
「あれですか……あれは、他に好きな人がいれば安全ですので、確認してみました」
「他にって、どういうこと?」
「涼也さん以外の人を好きかどうかです……また女性の知り合いが増えることになっても、心配しなくて住みますので……」
またって何だよ、まるで俺が再現無く女の子の知り合いを増やしてるみたいじゃないか……男の知り合いだっているだろ……悠二、聡さん、五郎くん、御子神教授、三千花のお父さん、樹くん……いや、今日あったばかりの後輩を数に入れてる時点で駄目か……
「別に、女の子と知り合いになっても良いだろ……三千花と付き合ってるんだから、変な関係にはならないし……」
「そうですか……そうしましたら私の取り越し苦労でしたね……大変失礼いたしました」
いやいや、セリフ的には無感情っぽいけど、めちゃくちゃ感情込めてるよね……
「このくらいの時間になると、感情が戻ってくるんだな……」
「いえ、時間では無いと思います。涼也さん次第です」
「えっ、俺?」
「他にどの涼也さんがいるんですか……もう少し自覚してください」
なにそれ?……陽花の機嫌は俺次第ってこと?
「もしかして、俺が女の子と仲良くしてると、陽花の機嫌が悪くなるってこと?」
つまり、感情的になるってことか。
「とどのつまり、そういうことです」
「じゃあ、俺がたくさんの女の子と親密になれば、陽花の感情は戻るってこと?」
果たして、そんな解決法があるのか?
「先程、三千花さんと付き合っているので、そういう関係にはならないとおっしゃってましたが……」
「いや、陽花が感情を取り戻してくれる程度で良いんだよね」
どうせ、女の子と深い関係になったりするスキルは無いわけだし、いざとなったら三千花と付き合っていると言えばいいのだから、リスクも少ない……女の子と話す機会を少しでも増やせば良いだけだ。
「それで取り戻せる感情は『怒』だけですね……」
冷ややかな目で睨まれてしまった……そっか、喜怒哀楽の「怒」だけか……
「もしかして、4種類集めないと駄目なのか?」
「4種類集めても、願い事は叶えてあげられませんが……」
そうか? 陽花の感情が戻るのが、今一番の願い事なんだけど……
「何にせよ、解決の糸口が見つかったかもしれないってことか」
「一番最後にして欲しかった解決法ですが……」
4つの感情を取り戻せばいいのか……
今まで漠然としていた「感情を取り戻す」ということが、急に具体的になった気がする。
しかも「怒」を引き出す方法は分かった。
まあ、さすがに毎朝陽花を怒らせるわけにもいかないから、他の感情も見つけないとな。
陽花の思惑とは裏腹に、やる気の出てきた俺だった。




