【第329話】サークル勧誘
「先輩、お疲れ様でーす!」
「ああ、夏子ちゃんお疲れ様、どう? 新入生来てる?」
今週は新入生歓迎週間……中庭に机を出して、色んなサークルがところ狭しと勧誘を行っている。
夏子ちゃんが勧誘を行ってくれてるけど、どんな手応えだろう。
「えーっと、1年生は女の子が2名来てくれました……って、天音ちゃんとそのお友達ですけど」
あっ、もう天音ちゃん来てくれてたんだ。いなくて申し訳なかったな。
「天音ちゃん来てくれたんだ。そっか、じゃあ新歓ボーリングは来れるって?」
「はい、二人とも参加です! これで新入生ゼロは回避できました!」
部長のプレッシャーがあるんだろうな……まあ、部員増やしていかないと、せっかく作ったサークル存続できないから、その気持ちは分かるが……
「あーっ! すみません、陽花さん! ご挨拶が遅れて……お久しぶりです!」
「いえ……気づいていただいてありがとうございます。新入生たくさん来てくれると良いですね」
陽花は、俺の影なんじゃないかっていうくらい、気配を消して俺の背後に張り付いていた。
しかし、普段は人目を引くのに、感情が無いくらいでこんなに気配消せるもんなのか?
まあ、話しかければ普通に返してくれるようにはなったから、徐々にではあるけど、無感情状態からは脱却してるみたいだな。
「他のみんなは?」
「えーっと、哲学科の二人はゼミに行ってて、美紀と彩は同じ授業受けてます」
「そうなんだ……夏子ちゃんは同じ授業取らなかったの?」
いつも、3人で同じ授業受けてる印象があったけど。
「それが……私は2年のときに取っちゃったんで……」
申し訳なさそうにそういう夏子ちゃん……でもそれって、夏子ちゃんだけ単位取れて、美紀ちゃんと彩ちゃんは落としたってことだよね……
まあ、彩ちゃんはサマースクール受けてたくらいだから想像つくけど、美紀ちゃんもなのか……成績良いほうがみんなと時間が合わなくなるっていう、大学あるあるだけど……
「それは、ちゃんと単位取ってる夏子ちゃんの方が偉いんだけど、それにしても美紀ちゃんは以外だな」
「それが……初めて彼氏が出来たって喜んじゃってて……」
あっ、なるほど、恋愛によって学業に支障がでるパターンか……尽くす女の子にはありがちな傾向だけど、それだと俺からはなんとも言えないな……
まあ、彩ちゃんもいるから、一緒に頑張ってもらおう。
ちなみに、彩ちゃんは、趣味に没頭しすぎて……ということだろう、多分。
「まあ、みんな授業じゃ二人でやるしかないな……三千花も企業説明会があるらしくて、来れないから……」
悠二にはスキルシート書くように伝えたから、今頃書いてるだろうし……まあ、基本的に4年生はがっつりは参加出来ないんだけどね。
「いえ、先輩が来てくれたら百人力です。どんどん女の子引っ掛けてください」
人聞きが悪いな……確かに天音ちゃんと結衣ちゃんは俺が連れてきたけど、そんなに初対面の女の子とフレンドリーに会話できるスキルは無いんだが……
「い、いや、そう言われると自信ないけど……」
「まあ、先輩は天音ちゃんたちの勧誘で運を使い果たしてるかもしれませんけど、うちのサークルには、頼れる相棒がいるのでっ!」
といって、スマホを取り出す夏子ちゃん……その画面には……
『こんにちは、AI研究会のオリジナルAI健斗です。僕と楽しくおしゃべりをしながら、大学生活をエンジョイしましょう!』
当然のように健斗がいた……しかし、新入生の勧誘をAIに任せるのってどうなんだ?……まあ、AI研究会だからありって言えばありなのかもしれないけど……
「ごめん、健斗……そのフレーズだとちょっと厳しいかも……」
普段通り真面目にいくか、思いっきりフレンドリーにいくかどっちかだと思うんだけど、これだと滑ってる感が半端ない。
「そうなんですか……すみません、涼也さん……やったことがないので、どういうセリフが新入生の心を掴むのか分からなくて」
うーん、確かにサークルの新歓という特定の環境でのやりとりって、学習データも少ないはずだから、難しいのかもな。
「えっとね、そしたら、みんなのハードルを下げる情報を最初に伝えようか……うちは2年生から入るのもOKなのと、AIだけどコンピュータの知識は無くても良いのと、去年出来たばっかりのサークルだから、やりたいことがあったら積極的に行事に組み込めますみたいな感じで……」
「なるほど、さすが先輩! そうやってハードルを下げて、説明を聞きに来たところを捕まえるんですね?」
いや、言い方……夏子ちゃんの中で俺のイメージってどうなってるんだ?
「いや、説明を聞きに来てくれたら、うちの活動内容とかを誇張せずに伝えたほうが良いよ、そうすれば、本当にうちのサークルに興味ありそうな人だけ入ってくれるから」
どんなに人数が増えても、自分たちが作りたいサークルの方向性がぶれちゃったら意味がない。それだったら、少人数でも、今のやり方に共感してくれる人を入れたほうが良いに決まってる。
バイト先でも、新人に調子いいことばかり言ってても、現実とのギャップですぐに辞めちゃうから、楽しいこともつらいことも、ありのまま伝えないと駄目だっていうのは身にしみて分かるんだよね……
「わ、分かりました! すみません、私、新入生たくさん入れたいってことばかり考えちゃって……」
「まあ、初動はあってると思うよ、説明はたくさんの人に聞きに来てもらいたいし……その中で、うちのサークルが良いと思う人が入ってくれれば良いんだから、そこだけ気をつければ大丈夫だよ」
部長になって初の大仕事だからな……気負っちゃうのは分かるけど、こればっかりは巡り合わせだからしょうがないんだよね。
「ありがとうございます! そのアドバイス聞けただけでも今日は大収穫です! 頑張ってみますので、フォローお願いします!」
「私も、丁寧にサークルのことを説明できるように頑張ります。アドバイスありがとうございます」
うーん、これだけ理解してもらえたら、もうこのまま任せられそうだな。
あとは、夏子ちゃんと健斗がちゃんとやってくれれば、みんなが戻ってきたときも、その流れになるだろう。
「……涼也さん、さすがですね、感服しました」
陽花も少し感情が戻ったみたいだ。
まあ、ちょっとまだ言葉選びが硬いけど……
「いや、まだ方向性を伝えただけだから、これからなんだけどね」
俺も、陽花の感情を戻すことにばっかり気が向いてたな。
それだけに固執してると、手元しか見てないから、逆に方向性が分からなくなって、その場だけの対応になっちゃうのか。
人に教えていると、自分の行動が見えるときがあるみたいだ。
(ちゃんと、やることやらなきゃな……)
陽花のことも考えつつ、現実にやるべきことをやっていこう。
それが、陽花の感情を戻すことにもつながるのではないか。
そんな、方向性が見えてきたのだった。




