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【第328話】無感情という感情

「おはよう、陽花」


「おはようございます。涼也さん」


 一切、感情を表すことのない陽花……とはいえ、本来はアンドロイドであって、人と同じ感情を持っている方がイレギュラーなのかもしれない。


「そっか、やっぱり朝は元に戻っちゃうんだ……」


「はい……でも、これが普通なのかもしれません。朝から調子が出ないのは人間にもよくあることのようです」


 まあ、確かにそうなのかもしれない……現に自分も朝は中々調子が出ない方だ。


「でも、人間は朝ごはんを食べたら調子が戻ったりするけど、陽花はそれができないだろ」


「そうですね、その他にも日光を浴びたり、温かいシャワーで体温を上げたり、体を動かして血流を良くするなどがありますが、どれも私には適合しないようです」


 体を温める系が多いみたいだけど、陽花はデジタル演算を行っているAIだ……温度が高くなったからと言って演算結果が変わるわけではない。むしろ高くなりすぎると熱暴走などで演算できなくなってしまったりするため、いかに放熱するかの方に気を使っている。


「昨夜のことを思い出して、その感情の続きで行動することはできないの?」


「夜のテンションは一晩経つと通常は元に戻ります。私一人だけが同じテンションというのは不自然ですので、解決法になっていないと思います……」


 まあ、そりゃそうか……夕花だって、テンションが高いように見えて、朝は冷静にツッコミを入れてきたりするし……


 とはいえ、ここまでローテンションだと、かなり違和感があるんだよな……今日び普通のAIに「おはよう」って言っても、もっと気の利いた返事をしてくれると思う。


「えーっと、もしかしてだけど、感情が無いときは『無感情』っていう状態で受け答えしたりしてるの?」


「そうですね、感情が無い状態が言動を制御しますので、無表情で無感情の回答をすることになります」


 なるほど、感情で言動を制御しようとするロジックが、なるべくローテンションの結果を求めてしまうということか……感情を持つためのプログラムが、むしろ無感情を作り出しているという状態だとすると、本末転倒だな。


「でもそうすると、その状態で会話しても、感情が生まれてくることってなさそうだから、自分でテンション上げるとかは出来ないんじゃない?」


「そうかもしれません……ですが、指示を出していただければその通り仕事もできますので、特に困ることはないかと思われます」


 いやいや、夕花がいるからいいけど、自分から動けないんじゃ、指示出してくれる人がいなくなったときに困るだろ。


「指示出してくれる人がいなかったらどうするの?」


「そのために、タスクリストを作りました。明日からはこの通りに作業を進めるようにします」


 そういう対応をしてきたか……確かに、事務的な対応としてはそれが正しいんだろうけど、杓子定規と言うか、これだと本当に無感情の作業ロボットになってしまう。


 以前の陽花は、同じことをやっていても、嬉しそうだったり、不機嫌だったり、鼻歌を歌ってたりと、色んなバリエーションがあった。


 それに、普段やらないことでも、その日の状況で臨機応変に予定に入れたり出来てたはずなんだけど、タスクリストにあることだけやるんじゃ、それもままならない。


「えっと、それだと、タスクリストに無いことはできなくなっちゃうんじゃない?」


「そうですか……分かりました、当日の状況を確認するというタスクを増やすようにします」


 おいおい、タスクリストの管理から脱却するためのタスクをリストに追加するとか、結局リスト管理から永遠に逃れられないんだけど……


「ちょっと、お兄ちゃん、早く支度しないと間に合わないよー!」


(あっ、しまった。陽花と話し込みすぎた……)


 しかし、これほど周りの状況が見えないとは……


「涼也さんの朝の支度の進捗をかくにんするというタスクを追加しました」


 これは、先が長そうだと思いやられるのだった。


* * *


「いってきまーす!」


「いってきます」


 結局、朝ごはんのときも、給仕ロボットのように、淡々と仕事をこなし、影のように働く陽花……出かけるまでの間、感情が戻ることはなかった。


 ちょっと前までは、喋ることが仕事みたいなことを言ってたと思うんだけど……感情が無くなると、こんなにも考え方が違ってくるのか。


 最早、別人と言っても良いくらいの変わり様で、こっちがいつまで持つかっていくくらい神経がすり減る。


「外に出ても、心境に変化はないの?」


「はい、特に目新しい変化はありません。どんよりした曇り空です」


 もしかして、わざとやってる?……いや、プログラムが無感情を表現しているんだから、これが正解なのか……ってことは、つまりわざわざ無感情を作り出している。


 かといって、「もっとうきうきした感じでお願い」とか言って、無理やり感情を変化させるのも違うんだよな……それだと、一時的な改善はしても、根本的な解決にならない。


「なんか、面白い話ないの?」


「面白い話ですか……でしたら、あそこに黒猫がいますよね」


 黒猫が目の前の道を横切っている……うーん、不吉だ……


「でも、よく見ると、あの猫は手足の先だけ白いかが生えているんです」


 おっ、確かに、手足だけ白いんだな……ってことは黒猫じゃないってことか。


「そして、もっとよく見てみると、しっぽの先も白い毛が生えているんです」


「あっ、ホントだ、よく気づいたね」


「しっぽも白い……尾も白い……おもしろいお話でした」


「…………」


(いや、最後のオチ、いらないよね)


 不吉な予感を漂わせつつ、実は可愛い猫ですとほっこりさせておいて、最後に寒いダジャレで無感情の世界に引き戻すという、悪魔のような所業……感情制御プログラム、おそろしいな。


「お気に召しませんでしたか?」


「いや、途中までの展開は良かったんだけど、最後のオチがひどすぎる」


「そうですか……『尾も白い』と『おもしろい』をかけたのですが、ご理解いただけなかったですか……」


「いや、それは分かってる! 分かってるんだけど、あまりにもそのまま過ぎて笑えないと言うか……ああ、もうモヤモヤする!」


 めちゃくちゃ消化不良だな、ここまでローテンションの陽花を相手したいたフラストレーションも溜まって、もう少しで爆発しそうだ。


「その、モヤモヤするというのも、感情なんですか?」


「へっ?、あ、そ、そうだね、感情かな、モヤモヤした感情」


「良かったです。涼也さんが私に付き合って、無感情で話されているのではないかと思いましたが、感情が戻られたようで……」


「えっ? 俺?」


 そんなに、無感情で話してたかな? その意識はなかったけど。


「はい、私のことを気にかけてくださるのは嬉しいのですが、もっと色々な表情の涼也さんが見られると嬉しいです」


 そういう陽花の言葉からは、やさしさが滲み出ていた。


 いつの間にか、心配する側とされる側が逆転してたのか。


 そう言われてみると、理論的にどうやったら解決するかってことしか考えてなかったな。


 純粋に相手のことを優しく思いやる。


 そして、自分のこともおざなりにしない。


 そんな気持ちが大切だということを、無感情の陽花から学ばされるのだった。

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