【第326話】過保護は必要?
「俺って過保護なのかな……」
「えっ、どうしたの? 何かあったの?」
家に帰って三千花にそれとなく聞いてみると、それとなく心配された。
「いや、陽花を完全に元に戻そうと思ったけど、そこまで必要ないんじゃないかって……」
彩ちゃんと、その後戻ってきた悠二にも似たようなことを言われたことを説明すると……
「そうね、最初に研究室に行ったときは、『こんなに入れ込んで大丈夫かしら』って思ったけど」
「思ったんだ……」
まあ、バイト代も睡眠時間もつぎこんで陽花のことばっかり考えてたから当然か。
「でも、そこが良いところなんじゃない?」
「えーっと、それは過保護で良いっていうこと?」
「そうね、もし、そうじゃなかったら、本人かどうか疑うわ」
「…………」
三千花の中では”過保護=俺”みたいな図式が出来上がってるらしい。
「それに、二人ともやめて欲しくて言ってるわけじゃなくて、気持ちを楽にして欲しいから言ってるだけでしょ」
なるほど、彩ちゃんのあの口調だと、ダメ出しに聞こえたけど、実は心配してくれてたってことか……本当か?
まあ、それはそうだとして、もう一つ聞いておきたいことがあるんだった。
「あと、これも言われたんだけど、俺って、ボーッとしてること多い?」
「えっ、えーっと、それって考えごとしてるときのことでしょ?」
否定しないってことは、ボーッとしてることが多いってことだよな……
「ま、まあ、考え事してて、心ここにあらずみたいなときのこと」
「うん、それはよくあるけど……」
(よくあるんだ……)
陽花の感情を元に戻すっていう話から、どうやら俺自身が人としての感情を取り戻すっていう話になってきたな。
「それは、カッコイイから、そのままで良いわよ」
「……へっ!?」
思わず、変な声が出てしまった。
まさか、彩ちゃんにダメ出しされたところが、三千花のツボだったとは……
「ねえ三花姉、それって食事中にする話? 聞いてるこっちが恥ずかしいよ」
「そうだな、二人っきりのときにやってくれ」
穂乃花ちゃんと麗香さんから指摘されて、真っ赤になる三千花。
いや、俺も相当恥ずかしいんだけど……
「お二人が仲がいいのは嬉しいのですが、一緒に居づらくなりますね」
陽花が率直な感想を述べてくれる。
これは、恥ずかしいという感情が芽生えているということか。
「もー、せっかく夕花が作ったのに、みんなお兄ちゃんの話だけでお腹いっぱいになっちゃったみたいだよ」
せっかく夕花が作ってくれた回鍋肉なのに、みんな箸が進まないみたいだ。
しかし、お腹一杯になっちゃったのは、俺じゃなくて三千花のせいだと思うんだけど……
「ごめん、生卵もらっていい?」
「あっ、お兄さん、それいいかも! 夕花ちゃん、私にも生卵!」
「それしかないな、すまんが、生卵をもうひとつ」
「えーっと、夕花ちゃん、私にもお願い」
まあ、回鍋肉は生卵につけて食べるに限るな。
三千花は自分で言っといてっていう気もするけど……
* * *
「涼也さん、今日はだいぶ感情が戻りましたね」
パジャマ姿の陽花が布団の上で、嬉しそうにする。
「そうだな……でも、朝になったら、また無感情になってたりするかもしれないな」
「そうですね、それはあるかもしれません……でしたら、朝から感情が刺激されるようなことをして頂くというのはいかがでしょう? 先程のように……」
(朝っぱらから、イチャイチャしろってことかな……)
そもそも、俺もそんなに朝からテンション上げられないんだよな……それに、あの恥ずかしい話は三千花がしたのであって、俺じゃない。
「やっぱり、朝は静かにしてても良いのかも……今までがにぎやかすぎたんだ、きっと」
「がーん、ひどいです。今まで、そんなにうるさかったですか?……静かにしてれば美人なのにとか思ってたっていうことですよね?」
……いや、これもう、元に戻ってるだろ?
ここまでテンション上がってて、朝になったらまたゼロからとかあるのか?
「陽花ちゃんもう元に戻ったみたいね……このくらいで良いんじゃない?」
「俺もそんな気はするんだけど、でもやっぱり、朝テンションが低い陽花を見ると違和感があるんだよね」
「新しい私の需要を創出すれば良いのではないでしょうか? 窓辺に佇む、薄幸の美少女のように」
ベランダに行くサッシしかないけどね……佇める窓辺がある家って、どんな豪邸なんだよ。
「ベランダで佇んでてくれ……」
「ひどいです、厄介払いしようとしましたね……ベランダで佇んでいて、誰かに見られたらどうするんですか、求婚者が現れるかもしれませんよ」
まあ、見た目は良いから、あながち無いとは言い切れないが……
でも、本当に来たらどうするんだ? 「アンドロイドだから駄目です」って言うのか?
「やっぱり、駄目、却下で」
「そうですね、私は涼也さん一筋なので、なるべく外から見られないようにしますね」
そんな軽口をたたきあった。
まるで、明日の朝が来てほしくないみたいに……
それでも、朝はやってくるのだった。




