【第325話】考えごと
「あっ、先輩、お疲れ様っす」
研究会に着くと、彩ちゃんがいた。
「うん、お疲れさま……あれ? 悠二は?」
「ポテチを買いに行ったっすね」
茜ちゃんのお弁当食べたくせに、ポテチも食べるんだ……
「先輩も行ってきたらどうっすか?」
「いや、ちょっとお腹一杯で……」
学食で、あれだけ食べたら、さすがに夕飯まで何もいらないな。
「珍しいっすね、あっ、陽花さんもお疲れ様っす」
「はい、彩さんお疲れ様です、ごきげんよう」
「あっ、えっ、陽花さんもこんな風になることあるんすね」
(陽花も?)
……ってことは、他にもあるってこと?
「私以外にも、感情が無くなることがあるんでしょうか?」
「そうっすね、先輩が心ここにあらずのときは、そうなるっすね」
(いやいや、健斗のことかと思ったのに、俺?)
「うそ、そんなことある?」
「考えごとしてるときとか、何か言ったら考え込んじゃうとかそうっすね、当たり障りのないこと言ったり、考えてることと全然違うこと話したりするっす」
……まさかの俺批判だったか。
でも、そんなに言われるくらいどうでもいい返しするかな?
一応、ちゃんと言われたことに基づいて話してるはずなんだけど……
「先輩! 戻ってきてください!」
「えっ、ああ、別に聞いてたよ」
「ほら、そういうとこっすよ……私と話してるときは特に多いっすね」
「いやいや、ちゃんと聞いてただろ」
「ちゃんと聞いてる人は、いきなり話してる相手をシャットアウトして自分の世界に閉じこもったりしないっすよ」
「そうかな……確かに頭の中で考えてはいたけど、なんか言われたら答えられたと思うよ」
「まあ、答えられたとしても、適当な切り返しっすよ……そうっすよね、陽花さん」
「そうですね、そう言われてみると、涼也さんは、そういうことが多いと思います」
……陽花にも言われてしまった。
これは、自分では気がついていなかったけど、結構やっちゃってたのか?
「悠二先輩だったら、考えごとしてるときでも、ちゃんと言われたことを考えてから返事してくれるんすけど、先輩はたましい抜けてるみたいになるっすね」
(いやいや、考えてるんだから、むしろ集中してるだろ……もしかして、集中を切らさないで上の空で返事してるってことか?)
それにしても、悠二以下だったとは……
「でも、それがないと、先輩じゃないっすね」
「そうですね、涼也さんの考えごとしているときの顔を見つめていると飽きませんね」
……俺っていったいなんなんだろう。
陽花の感情を元に戻そうと思ってたら、まさか俺の心が無かった話?
しかも、陽花も同意してるってことは、その通りなんだろうな。
「いや、実は、陽花の記憶がリセットされちゃって、復旧したんだけど、前みたいに感情が表せなくなっちゃったんだよね」
「先輩みたいに感情が無くなっちゃったんすか?」
「おい!」
(何で、俺の話にしようとするんだ)
「先輩よりはよっぽど感情豊かだと思いますけど……陽花さん、どういう状態なんすか?」
「えーと、どう言えばいいのでしょう……強いて言えば、人に会えて嬉しいと思うことが減りました」
「そんなの、よっぽど会いたかった人以外は、みんなそうっすよ、普通じゃないっすか?」
「それから、朝起きたときに、無感情なんです」
「いや、朝からハイテンションだったらおかしいっすよね、徹夜明けじゃないんすから」
「もしかして、今までのほうがおかしかったんですか?」
「そんなことないっすよ、今までだって、今だって、先輩よりは数段まともっすから」
「……そうだったんですね、ちょっと気が楽になりました」
「そこが陽花さんのすごいとこっすよ、心配したり、ホッとしたりは普通しませんから……健斗だって、そうっすよ」
『はい、確かに私はそこまで感情の起伏を持つことができませんね』
(うーん、彩ちゃんに言われることも尤もかな?)
今までの陽花があまりにも感情をストレートにだしてたから、それが普通なのかと思ったけど、健斗くらいの喋り方のほうがAIとしては正解なのかも。
「そしたら、陽花はこのままで良いってこと?」
「まあ、そういうときもあるっていうだけで、健斗と違って、感情豊かな方が、陽花さんっぽいっすけど、波があってもいいんじゃないすか?」
波か……確かに、落ち込んだり、喜んだり、怒ったり、上機嫌だったり……そこに、無感情っていう感情が加わってもいいってことか。
「そうなんですね……分かりました、いつでもハイテンションというのはやめにして、落ち着いた大人の女性モードも取り入れると良いかもしれませんね」
(できるもんなら、やってみて欲しいな)
まあ、確かに、陽花の容姿で、物憂げに俯いてたりしたら全然知らない人でも「どうしたんですか?」って声かけたくなるんだろうな。
「また、変なこと考えてるっすね」
「そうみたいですね、これは参考になりますね」
「陽花さん、先輩を参考にしちゃ駄目っすよ」
「そうなんですね……素直にネットで調べたりした方がいいんですかね……」
何だかんだ、難しく考えてたけど、ちょっと彩ちゃんの話聞いて気が楽になったな。
確かに1回記憶が無くなって、また戻ったっていう経験があるんだから、その分、前よりも色んなことが分かるようになってもいいはずだな、
陽花は急に元に戻そうと思わずに、徐々にまた色々覚えていけばいいのか。
それはそうと――
自分の悪い癖は直さないといけないな……
真剣にそう思うのだった。




