【第297話】桜の樹の願い
「すまん、遅くなって」
御子神先生がやってきた。サマンサ先生も一緒だ。
「ニホンのサクラこんなにキレイなんデスネ、カンムリョウです!」
流暢とは言い難いが、それでも「感無量」なんて言葉が出てくるところをみると、結構、日本語を勉強してるんだなってことが分かる。俺も少しは英語勉強しなきゃな……
御子神先生は、Yシャツとネクタイ、グレーのパンツという仕事帰りの姿だ。学会とかでもあったのかな?
対するサマンサ先生は手首が隠れるくらいの大きめサイズのセーターと、パンツはデニムというラフな格好だ。そして、全く隠すことのない双丘が存在感を主張している……なるほど、胸のサイズに合わせると、このサイズのセーターになってしまうんだな……ってそんな訳ないか。
「ジーッ」
三千花の視線を感じる……俺の視線の先を詮索するのはやめて欲しい。いや、俺じゃなくても誰だって見ちゃうでしょ、こんなの。
今回は天音ちゃんの視線は俺じゃなくて、御子神先生を見ている。
ハッキリ言って目がハート状態なんだけど……この様子を見る限り、プリクラのアレは「涼也先生も好きです。でも御子神先生の方がもっと好きですけど」みたいな感じなのかな。
いや、それだと、頬にキスされた説明がつかない……もしかすると、今どきの女の子は、自分の行きたいところに付き合ってくれたお礼に、そのくらい普通にするとか?
……そんな訳ないな、御子神先生がフィールドワークに連れてってくれたら、お礼としてほっぺにチューするとか、そんなの想像つかない。見てみたい気はするけど……
「御子神先生! 地球科学科合格しました!」
「おお、本当か、おめでとう! オリエンテーションも同行することになったから、よろしく頼む」
「はい、お手伝いしますので、何でも言ってください!」
オリエンテーションに同行するってことは、学科の担任か副担任だな。
オリエンは、4年生とかが面倒見てくれるから、1年生がお手伝いすることはあんまり無いと思うけど、まあ、接点持ちたいなら少しくらいなにかあるだろう。
「今日は、これを持ってきたから、みんなで飲んでくれ」
といって、御子神先生が袋から取り出したのは日本酒の一升瓶だった。
うっ、なんで岬さんが欲しいと思うお酒は向こうからやって来てしまうのだろう。
もしかして、お酒の神様に愛されてるとか?……あながち、無いとも言い切れないのが怖いな。
「ワタシはコレです!」
サマンサ先生は、スコッチウイスキー……これは岬さんのウイスキーとかぶったかと思ったが、そっちはもう空っぽなので、ナイスタイミングというところか――
「先生どうぞ!」
天音ちゃんが、御子神先生に日本酒をお酌している……いや、しかし、御子神先生に日本酒似合いすぎるな……そして当然のようにご相伴に預かる岬さん……絶対その二人の間には座りたくない……天音ちゃんがお酒飲めなくて良かった。
「はい、涼くん、これ」
夕花が作ったチンジャオロースとエビチリに舌鼓を打ってたら、早耶ちゃんが杏露酒の水割りを作ってくれた……しかも、ロックアイスが解けた水で割ってるので、キンキンに冷えてて飲みやすい。
飲みたいタイミングでちょうどお酒が出てくるのって、まるでスナックみたいだな……行ったこと無いけど……
「先輩、なんでそんなに平然としてられるんすか?」
果敢に悠二のところに行って話をしてた彩ちゃんだが、あまりの悠二のデレっぷりに、今度は俺を標的にしにきたみたいだ。
「いや、もう、これはこういうものだと思うしかないというか……」
幼馴染ってすごいなと感心するしかないというか、かくいう俺も何となく早耶ちゃんの考えが分かったり、倒れたとき、すぐ看病できちゃったりするから、お互い様だ。
「彩ちゃんは幼馴染とか居ないの?」
「普通、いないっすよ、そんな、なんでも思ったことしゃべれる幼馴染とか……」
いやいや、彩ちゃん、結構俺になんでもズケズケしゃべってくると思うんだけど、去年会ったばっかりだよね?
そう考えると、幼馴染だから考えてることが分かるんじゃなくて、たまたま波長が合う子が近くにいたから、小さい頃から仲良かったとかなんじゃないかな?
「出会ってからの時間っていうのもあるかもしれないけど、それだけじゃない気がするんだよね」
三千花や穂乃花ちゃんと楽しそうに話している早耶ちゃんを見ると、前世から繋がりがあったんじゃないかとすら、思えてしまう……三千花が第一夫人で、早耶ちゃんが第二夫人、穂乃花ちゃんが義理の妹で……って、いつの時代だよ。
「なんすか、男と女の相性っすか?」
「なんでそこで男と女に限定する!?」
「先輩の周り女の子だらけじゃないっすか、まあ、ワタシは先輩とは永遠に相容れない関係だから良いっすけど」
ひどい言われようだな……しかし、彩ちゃんとの関係は全否定か……まあ、デレがあった記憶はないんだが。
「健斗から見るとどうなの?」
おそらく、彩ちゃんの愚痴を聞かされまくっていると思われる健斗に聞いてみると。
『はい、彩さんがこんなに楽しそうにお話されるのを聞いていると、うらやましいです』
えっ、どこが楽しそうなの?……まあ、俺との会話でストレス発散できているとすれば、意外と楽しいのかもしれないけど。
「な、な、何を言うんすか健斗! こ、これは、先輩には言いたいこと言っても、全然堪えないから……そう、ストレス発散っす!」
やっぱりそうなのか、まあ、それなら分かるな。
『彩さんのその反応が聞けて、感無量です』
うーん、サマンサ先生の方が、正しい日本語になっているような気がするのは、気のせいだろうか……
もはや、みんな桜そっちのけで、話し込んじゃってるもんな。
まあ、もしかすると桜の木も、色んな人が自分の周りに集まって楽しそうにするのが好きで、こうやって毎年花を咲かせてるのかもしれない。
そんなことを考えながら桜を見ると、なんだか桜の花も嬉しそうに見えてくるのだった。




