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【第296話】それぞれの宴会

「陽花先輩は食べないんですか? 夕花ちゃんも?」


 宿直くんが、全然料理に手を付けない陽花と夕花を心配してくれる。


 しまった、これ、絶対聞かれるやつだよな……


 彩ちゃん以外の2年生は陽花と夕花がアンドロイドだって知らないし、まして、今日は岬さんもいる。


「夕花はアレルギーで色々食べられないものがあって、私もいくつか食べられないものがあるので、一緒に食べてきちゃったんです」


 おおっ、無難な答えだな、夕花が給食を回避するのに使ってる言い訳を拡張したか。


 まあ、全く関連性のない言い訳をするより、既にある話を基にするほうが得意だからな。


「えっ、食べられないのにこんなに美味しい料理作ってきてくれたんですか?」


「そうですね、自分たちが食べられない分、皆さんが美味しそうに食べてくれるのを見るのが嬉しくて」


「そ、そんな事情があったんですね、それなのに皆のために……まるで、女神さまみたいです!」


 宿直くん、純真だな……バレないのは良いんだけど、ここまで信じられちゃうと、逆に罪悪感が湧いてくるな。


「全然、そんなことないですよ、どんどん召し上がって、感想をいただけると嬉しいです」


「どれも絶妙な味付けで、めちゃくちゃ美味しいです!」


「味見できない分、分量をきっちり量るからですかね」


 顎に人差し指を当てて、少し首をかしげるポーズをする陽花……もともと美人なのに、その仕草って……夏子ちゃんという彼女がいるのに、宿直くんを落とそうとしてどうする。


 ちょっと目がトロンとしている宿直くんを、肘でつつく夏子ちゃん……その一撃で我に返ったように冷静さを取り戻す宿直くん。なんだかんだ夏子ちゃんに主導権握られてるみたいだから大丈夫かな。


「ねえねえ、お酒は飲めないの?」


 岬さんが聞いてくる……いや、アルコールなんて飲んだら壊れちゃうだろ。


「はい、飲み物も水筒に入れてきてありますので、こちらだけしか……」


 中身は水だけどな……しかも、麗香さんが持ってきてくれたRO膜という99.9%不純物を除去できるフィルターを使って浄水した水を入れてる。


 普通の水道水でも大丈夫なんだけど、こっちの水の方が、冷却装置に汚れがつかなくて良いらしい。

 半導体を生産するときにも使われるクリーンな水だ。


「えーっ、そうなんだ。美味しいのそれ?」


「美味しいですよ、これじゃないと駄目なんです……それに、今日は満開の桜の下ですから、いつもより美味しく感じます」


「そーなんだ、そこはお酒と一緒だね、お花見しながら飲むと格別だもんね」


 同じことを言ってるのに、岬さんの話には素直に同意できないのはどうしてだろう……


 あー、あれか、どうせ酔っ払って味は分からないんじゃないかという先入観があるからかな。


「桜の樹の下で食べる料理もいつもより美味しいっしょ」


 悠二が茜ちゃんの作った粉もん料理を食べながら言う……いや、なんかちょっと違う気もするんだけど、花見のときにたこ焼きとかお好み焼きとか食べたくなっちゃう気持ちは分かる……その意見にはめちゃくちゃ同意するな。


 茜ちゃんも幸せそうに食べる悠二を見て嬉しそうだ……この二人はもう盤石だな。


 卒業式ぶりに会った天音ちゃんと茜ちゃんは最初仲良く話してたけど、この二人の空気に耐えられず、どこかに移動したくてキョロキョロしている……岬さんが手招きをしてるけど、行っちゃだめだ!……隣に居るだけで酔っ払いそうな気がする。


 俺はと言うと、穂乃花ちゃんの作った(具を皮に入れて巻くところしかやってない)春巻きかじりつつ、早耶ちゃんが取り分けてくれる料理を食べてる。

 なぜ、俺が食べたい料理を絶妙なタイミングで取り分けてくれるんだろう……100%嗜好がバレてる。


「しかし、本当に桜が綺麗だな……その下に、これだけの美少女が集まってるなんて、創作意欲が湧いてきてしょうがないな、写真撮って良いか?」


「えっ、写真撮っていただけるんですか? ありがとうございます!」


 夏子ちゃんが、ノリノリだけど、あんまり気安く麗香さんに写真撮らせると、明日にはフィギュア化されてるかもしれないから、気をつけた方が良いんじゃないかな。

 まあ、夏子ちゃんだったら、けっこう喜びそうだけど……まあ、そうなったら宿直くんちに送りつけよう。


「お兄ちゃん、夕花の作ったのも食べてよ」


 そう言って、シュウマイにたっぷりカラシを付けて、俺の皿に載せる夕花……


 シュウマイが大きめのサイズだから、カラシもそれに合わせて結構付いてる。


 さすがに一口でいくと、とんでもないことになりそうなので、半分だけ齧ってみる……が、鼻を抜ける辛さ!……これは駄目なやつだ!


 ゴホゴホと盛大にむせるが、一向に辛さは抜けない……いけない、涙出てきた。


「ほら、涼くん、ウーロン茶だよ」


 早耶ちゃんがくれたウーロン茶で流し込むと、何とかおさまった。


 しかし、そのコップ、早耶ちゃんが飲んでたやつじゃないの?


 まあ、間接キスとか今更すぎるから良いんだけど……


「「ジーッ」」


 三千花と天音ちゃんから視線を感じる……あまりにも自然な流れだったから、見逃して……は、くれないみたいだ。


「もう、しょうがないなー、ちょっと減らしてあげるよ」


 夕花が渋々、カラシをどけてくれる……そしてカラシの減った残り半分を食べるが、これでも結構辛いんだけど……


「うわー、これ辛いけど美味しい!」


「ホントだ、美味しいね」


 夏子ちゃんと美紀ちゃんは麻婆豆腐を食べてるけど、痺れるような辛さが美味しいらしい……それにしても、美紀ちゃん平然と食べてるな。このシュウマイも美紀ちゃんならいけるんじゃない?


「岬さん、おいひいですねー、このお酒ー」


 牧くんは、早くも岬さんにつぶされかかってる。


 ラムコークか……お酒っぽい感じが一切しなくて、ジュースみたいにガブガブ飲めちゃうんだけど、その分、危険なお酒だ。

 なんといっても、ラム酒はアルコール度数が40度もあるからな……

 しかも、そろそろ一本空きそうなので、相当なペースで飲んでることになる。


 まあ、たくさん飲んでるのは岬さんの方なんだけど、どう見ても潰れるのは牧くんの方だ。


 ――あっ、牧くんの目が閉じた。


 岬さんは、すかさず立ち上がると、美紀ちゃんを呼んで、牧くんの隣に座らせた……そして、美紀ちゃんのひざ枕でスヤスヤと眠る牧くん。


 ちょっと羨ましそうに見てたら、三千花と天音ちゃんの視線が……


 これは、迂闊に観察することも出来ないな。


 しかし、目を離すと、岬さんのターゲットになりそうで怖い。


 ……一瞬、酔いが覚めるような寒気に襲われるのだった。

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