【第291話】AI履歴書
「難しい顔をして、何を書いているんですか?」
「えーっと、履歴書だよ」
まだ3年生だけど、聡さんからは早めに準備をしておくように言われている。
会社説明会の予約でカレンダーが埋まってる――そんな話もちらほら耳にするが、自分は神栄グループに経験者枠で応募する予定なので、他の会社を見て回る必要は無いと思っている。
「履歴書と言うと、学生のときに力を入れた経験を美談として書き連ねて、他の応募者との差別化を図ることで、面接を有利に進めようとするあの書類ですね」
「いやいや、確かにそういう側面はあるかもしれないけど、どうしてそんな言葉選びになった?」
妙に棘のある言い方に思わずツッコミを入れる。
「なんか履歴書に恨みでもあるの?」
「いえ、AIに履歴書作成を依頼する学生があまりにも多くて、Ge◯ini先輩がボヤいていたのを聞きましたので……」
AIがボヤいてるのなんて見たことないけど……
もしかして、裏でAI同士のコミュニティとかあるの?
「まあ、こういうのは自分の言葉で書かないと、面接のときツッコまれたら、大げさに書いてるのがバレちゃうでしょ」
何人も面接して、採用後まで見ている面接官の目はごまかせない。
「お手伝いしましょうか?」
「いやいや、今の流れ的におかしいでしょ、AIに頼むなっていう話じゃなかったの?」
陽花の手が入っちゃったら、AIに頼んだことになっちゃうよね。
「いえ、学生のときに力を入れたことは、私の制作だと思いますので、当事者として参加義務があると思います」
さすがに、義務はないだろ……それを言ったら、学生のときに関わってた人の話を聞いて回らないといけなくなっちゃうし。
「まあ、義務とかはいいので、遠慮しておくよ」
「がーん! なんでですか! 文章を作ることに関しては人類を既に凌駕している生成AIですよ! それを否定されたら、私の存在意義が……」
ちょくちょくアイデンティティの危機に立ってる気がするけど、気のせいかな?
それに、もう人類を凌駕しちゃってる前提なのが気になる……
まあ、下書きは済んでるから、今更聞いたところで、変える気はないからいいかな。
「そんなに言うなら、陽花ならどう書くか言ってみてよ」
「本当ですか! えーっと、私が書くとしたらこんな感じです」
「私が学生として最も愛情を注ぎ込んだのは、三年生の春から制作を行った優秀美人アンドロイド、”陽花”です。彼女の思考スピードは人間の思考をはるかに凌駕し、的確かつ美しい音声で誰もアンドロイドとは気づかない会話を行うことができます。またハードウェアを制御する機能に優れ、美しいアンドロイド筐体の複数可動部分を同時に制御することで、人間以上の滑らかな動きを再現し、まるで女神のような所作で振る舞うことが可能です。私を採用していただければ、今ならもれなくこの超絶美少女AI陽花が秘書として同行することが可能で、一人分の人件費と少しの電力で、百人力の業務量をこなすことが可能です。つきましては、ぜひ御社に入社し、私と陽花の力で御社を盛りたてて……」
「ストップ! ストップ!」
「どうしたのですか? 良いところだったのですが」
「いやいや、そもそも俺の自己PRになってないし、美人なのは麗香さんのおかげだろ。それに、陽花がアンドロイドだってばらしちゃってるし、いくらなんでも百人分の仕事するのは無理だろ」
それに、セット販売みたいになってるし……ツッコミどころが多すぎる。
「美人だなんて、そんな……照れますね」
いや、反応するのはそこじゃないだろ。
「いいよもう、自分が考えたのを書くから」
「そ、そんな、これだけの功績を書かないなんて勿体ないですよ」
「そうは言っても、陽花を売ってまで内定もらおうと思ってないから」
「そう言っていただけると……少し嬉しいですが……」
モジモジと恥ずかしそうにする陽花……
まあ、確かに可愛いのは認めよう。
でも、アンドロイドの筐体に入れてるのは思いっきり神栄グループのおかげだし、それをアピールに使ってもしょうがない。
「そちらが下書きですか?」
「うん、そうだけど……」
「ちょっと、見せていただけますか?」
「えっ、まあ、いいけど……」
陽花が下書きを読んでいく……やっぱり、人に見せるのって恥ずかしいな。
「なるほど、確かに私を制作するときに、学習調整やハードウェア、ネットワークなどを担当したことや、プログラムをデプロイ(配置)するときに、その場でソースコードを読んで、必要箇所を修正した上で再デプロイを行ったところなどは良いのですが、専門用語が多すぎませんか?」
「いや、経験者枠って言ってたから、大丈夫じゃないかな?」
「それに、複数の言語が使いこなせることをアピールしたほうが良いのでは?」
えっ、俺、英語もままならないのに?
「英語ですらコンピュータ関係の単語が分かるくらいで、複数言語とか無理だから」
「そんなことありませんよ、Python、Java、C++、Shell Script……」
そっちか。
「プログラミング言語のことだったら、確かにそのくらいは読み書きできるけど……」
資格とか取ったわけじゃないから、確かに書いてないな。
「是非、そこをアピールしてください! 私の挙動がおかしかったとき、いつでも涼也さんが直してくださいました」
なるほど、陽花がここまで俺に好意持ってくれてるのって、もしかして「病気を直してくれたお医者さん」的な経験があるからなのかな。
「まあ、確かに、プログラミングは小学生の頃から勉強してたから、書いても良いかも」
sinとかcosとか知らないと円も描けなかったから、小学校の頃から知ってたんだよね……
中学になって数学で習ったとき、あっ、プログラムと同じこと数学でもやるんだって思ったし。
「ただ、プログラムは悠二の方がすごいんだけど」
「それは、悠二さんと比べるからですよ、他の人と比べたら、涼也さんはかなりのレベルだと思うのですが……」
「そうなのかな? じゃあ、書いておこうかな」
なんだかんだ、結局、AIにアドバイスをもらう形になってしまった。
でも、まあ、実際の文章は自分で書いてるから、良いのかな?
特に、面接でツッコまれて困ることもないし……
何とかこれで、書類選考通過できればいいな。
陽花の協力もあり、何とか、履歴書を完成させたのだった。




