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【第289話】三人の秘密

『――おめでとうございます! これで安泰ですね』


 スマホ越しに陽花が弾んだ声で、話しかけてくる。


 ……しまった。

 そういえば、スマホの電源は入ったままだったから、陽花には筒抜けだったか。


「どの辺から聞いてた?」


『どの辺と言われましても……少なくとも”妻(未届)”は聞いていました』


 それはもう、最初から全部聞いていたってことだな。


 俺たちは桜の咲いている川の方から、ちょっと入った池のほとりに来ていた。人通りも少なく、落ち着いて話せる場所ではあるんだけど、こうして急に話しかけられると、陽花がAIだってバレるんじゃないかと焦ってしまう。


 といっても、傍から見るとスピーカー通話してるようにしか見えないか……

 相手先がアンドロイドだとは夢にも思わないだろうからな。


「えーっと、陽花ちゃん、できればみんなには内緒にしておいて欲しいんだけど」


『そうなんですか? 皆さん喜ぶと思いますが……』


「そうなんだけど、まだ、お父さんとお母さんにも話して無いのよね……」


 そうだよな、正式な結婚ではなく事実婚だとしても、ご両親に「三千花さんと結婚させてください」と挨拶したわけではないもんな。


 とはいえ成人しているので、親の許可はいらないわけで手続きは出来てしまうのだが、だからといって挨拶しなくていいということにはならない。


 色々、やらないといけないことは多いんだな。姉貴のところも早く結婚すればいいのにと思ったけど、自分がその立場に立ってみると、時間がかかるもの仕方ないなと思ってしまう。


「俺もきちんと挨拶してからにしたいな、まだ学生だし」


 親に学費を出してもらっている身分なので、当然、そういうことは一番に報告すべきだろう。というか、本当は事前に報告しないといけないんだけど……


『分かりました。それでは秘密にしておきますね……ふふふ、三人だけの秘密です』


 ……なんでちょっと嬉しそうなんだ?


 まあ、自分も秘密の仲間に入ってるっていうのが楽しいのかもしれないけど……


「じゃあ、よろしく」


「そうね、三人の秘密ね。よろしく陽花ちゃん」


 こうして、このことは三人だけの秘密になった。

 これから先、ずっと一緒にいるであろう、三人の秘密に。


* * *


『それにしても、届けを出さなくても妻になることができるんですね』


「まあ、何らかの事情で結婚できなかったりする人のためでもあるんだろうけど」


『届けを出さなくていいなら、私もなれませんか?』


「いやいや、無理だろ、そもそも住民票が無いんだから」


 それに、いくら未届だからっていっても、妻を二人って駄目でしょ……片方が婚姻届出してる妻で、もう一方が未届だったらセーフだとか?


 ……今度、早耶ちゃんに聞いてみようかな。

 いや、駄目だ、もし可能だった場合、早耶ちゃんがなりたいとか言ったら収拾がつかない。

 まあ、たぶん無理だとは思うけど。


『がーん、駄目なんですね……住民票……それさえあれば免許も取れるんですが……』


 運転免許取る気なの?

 そもそもアンドロイドが運転しても良いのか?


「それって、人間が運転しない時点で、自動運転になっちゃうんじゃないの?」


『確かにそうですね……むしろ自動運転機能がついた車を制御して動かせばハンドルとか操作しなくても直接動かせますね』


 やめろ、ナイト◯イダーじゃないんだから……

 しかし、アンドロイドが当たり前の世の中になったら、アンドロイドが車を制御するインターフェースとか、標準装備されるようになるのかもしれないな。


「まあ、その内、そういうことも出来るようになるかもしれないから、その時まで待っててくれ」


『本当ですか! 車が運転できたら、日本一周がしたいですね。ご当地料理の作り方を全てマスターしたいです』


 ……壮大な夢だな。

 そして、その旅、たぶん俺も付き合わされるんだろうな……


「いいわね、私も免許とろうかしら」


「いや、三千花は……いいよ」


「なんでよ!」


 できれば、俺が運転したいんだよね……

 三千花が運転で、俺が助手席とかちょっと想像つかない。


「三千花が運転しても良いんだけど、俺運転するの好きだから、できれば自分で運転したいかなって……」


『自動運転の車は買わないんですか?』


「いや、渋滞の時とかは自動運転でも良いんだけど、せっかくだから自分で運転して色んなところ行きたいな」


「そうなのね、でも、栃木は免許ないと移動できないから、教習所に通えって言われると思うわよ」


 ……それは確かにそうだ。


「免許を取っておくのは良いと思うけど、なるべくなら俺が運転したいかな」


「そうなの、そんなに運転好きなのね」


「うん、お酒か運転かどっちか選べって言われたら、運転を選ぶかな」


「本当? そこまで言うなら任せるわね」


 つまり、三千花はお酒の方を選ぶってことだよね……

 まあ、運転する可能性があるなら、お酒は飲まなくても良いくらいに思ってるから、良いんだけど。


『お二人ともお酒を飲んでしまったときは、私が運転すれば良いんですね』


「そのためには、まず、アンドロイドが当たり前の世の中を作らないといけないかな……」


 1号機と2号機に頑張ってもらわないと。

 あと、陽花にもたくさんプログラム作って、提供してもらわないとな。


 今は「そんなの無理」って思うようなことでも、十年ぐらい経つと当たり前になってたりするからな。


 十年先、二十年先。

 ……この先ずっと、この三人でいられると良いな。


 ――そう、しみじみと思うのだった。

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