【第286話】それぞれの想い
「私、普通に話せてたよね……」
――あんなことをした後で、先輩にどんな顔をして会えば良いのか分からない。
幸い、アルバイト先だったこともあって、平静を装って話をしてしまった。
でも……先輩どう思っただろう。
プリクラのときも、意を決して「大好き」って書いたのに、先輩はまるで生徒から「先生の授業が一番好きです」って言われたときみたいな反応で、さらっと流されてしまった。
「今度は伝わったかな……」
どんなに先輩が奥手でも、さすがにキスをされたら分かると思ったんだけど……
どう見ても、全然わかって無かったみたいな態度だった。
「もしかして、キスだって分からなかった?」
そう思ってしまうくらい、関係は進展しなかった。
「お花見に誘ってくれたのは嬉しかった」
でも、二人っきりで行くわけじゃない。
このままだと、私は”その他大勢”になってしまう。
それに――陽花さんも来るんだ……
「ママがお付き合いしている女の人と歩いているのを見たって言うけど」
それはきっと陽花さんのことだ……
お付き合いしている? 先輩が?
ママには、陽花さんがアンドロイドだってことを伝えてないから、そういう言い方をしたのかもしれない。
だけど、もし、本当に恋愛感情があるんだとしたら。
「私が、先輩を正しい道に進ませてあげないと……」
でも、今、告白して付き合って欲しいと言っても、きっと断られてしまう。
だから、告白はしない。
――どれだけ私が先輩のことを好きなのかをアピールし続けなきゃ。
そして、陽花さんではなく、生身の女の子を好きになって欲しい。
「絶対に先輩のことを振り向かせるんだ」
やるべきことは間違っていない――はずなのに。
盛大に勘違いをしている天音だった。
* * *
「なにか様子がおかしいのよね」
天音ちゃんと何かあった?
でも、陽花ちゃんも何もなかったって言ってた。
それに、涼也が何かするなんて考えられない……それだけは信じてる。
――嫉妬?
誕生日のプレゼントを見え見えの嘘をついてまで用意しようとしてくれた涼也。
何をあげたかじゃなくて、そのやさしさを、天音ちゃんへのプレゼントにも込めたから?
――独占欲?
いつも本当にたくさんの女性に囲まれている涼也。
でも、その中で私を選んでくれた。
付き合ってるし、一緒に住んでるっていう安心感。
でも、むしろそれが崩れてしまうのではないかって、不安になる。
私以外の女性と出かけるなんて、今までもあったはず。
何も無いって分かってるはずなのに。
自分への想いが削られていくような――そんな喪失感。
――劣等感?
涼也は私のどこを好きになったんだろう?
天音ちゃんは元気で、若くて、可愛くて、前向きで、自分がやりたいことを目指して頑張ってる。
私には何があるの?
毎日、私の作った料理を美味しいって食べてくれるけど……それは、陽花ちゃんにだってできる。
一緒に住んでいても、全然、恋人らしいことをしてあげられていないし。
デートに行っても、歴史の話ばっかりしちゃって、涼也の好きなこと聞いてあげられてない。
もう、愛想を尽かされてもおかしくないかも……
心理学を勉強すれば、色んな人の考え方が分かるんじゃないかと思った。
嫉妬、独占欲、劣等感――
授業で習ったときは、自分とは無縁だと思ってた。
もし、そんな立場になったときでも、もっと寛大に振る舞えるんじゃないかって楽観視していた。
心理学なんて勉強するんじゃなかったのかな。
知識として知っていればいるほど、自分のこととなると冷静ではいられない。
いっそ、大好きな歴史を専攻していれば、天音ちゃんみたいに一途に自分の道を進めたのかな?
「私って、魅力ないのかも……」
頭の中で、そんな考えがぐるぐる回り続ける三千花だった。
* * *
「涼也さんがつれないです!」
夕花の面倒を見たり、早耶さんと会ったり、天音さんと出掛けたり……
私もスマホ越しに、一緒に居るようなものですが、二人っきりでお出かけしたいです!
麗香さんの助手としてコスプレをすると、涼也さんが見に来てくれたりします。
でも、それはあくまでお手伝いの一環ですから……
私が故障したとき、心配して実験室まで付き添ってくれましたけど、私の体からは目を逸らしていました。
もしかすると、私の見た目には興味がないのかもしれません。
研究室のモニターの中にいた頃は、三千花さんがうらやましくて、私にも体があったら、お料理を作ったり、一緒にお出かけしたり、三千花さんに追いつけるのではないかと思いました。
でも、今の私じゃ駄目なんでしょうか。
麗香さんに作っていただいたこの体を見たときは、まさに涼也さんの理想そのものだと思いました。
これで、涼也さんは私にメロメロだと、そう思っていたのですが……
古い言葉も満遍なく学習してしまっていますので、こういう古典的表現が出てきてしまうのが、いけないのでしょうか。
「もっと私を見て欲しいです!」
三千花さんのお料理している姿、食事をしている姿、掃除をしている姿……一挙手一投足を目で追っています。
その半分でも。
四分の一でも。
八分の一でもいいから――私に向けて欲しい。
……いえ、八分の一くらいは向けてくれてるかもしれません。
でもそれは、女の子に対する視線ではありませんね。
やっぱり、もっと、スキンシップが必要でしょうか。
三千花さんの次でも良いので、私を女の子として見て欲しいです。
……もしかして、そのためには、もっと三千花さんと仲良くしていただく必要があるのでは?
涼也さんと三千花さんのスキンシップが足りていないのが原因かもしれませんね。
これは、早急に二人を仲良くさせなくては……
インプットが無くても、常に思考を続けている能動的AIであるがゆえに――余計なことばかり考えてしまう陽花だった。




