【第283話】誕生石の意味と天音ちゃんの情熱
『アクアマリンには幸せな結婚とか、家庭という意味もあるんですよ』
トイレに入るのを見計らったかのように、陽花からメッセージが届いた。
『どういうこと?』
意味が分からないので、聞いてみると、
『あのままアクアマリンを選んでいたら、「将来俺と結婚して、幸せな家庭を築かないか」という意味にとられていたかもしれません』
いやいや、それはないでしょ、陽花の考えすぎじゃないかな。
『いくらなんでも、18歳になったからって、そんなにすぐ結婚のこと考えないでしょ』
しかも、相手が俺とか……天音ちゃんみたいな可愛い子、他に引く手あまただと思うけど。
『そんなことありませんよ、早耶さんだって、推定5歳で涼也さんとの結婚を考えていたはずです』
まあそうなんだけど、それは子供の頃よく言ったりする、「お父さんのお嫁さんになる!」みたいなのと一緒なんじゃないかな……
『それは子供ときだからだと思うよ』
『そうですか? 大人になってからも涼也さんのお嫁さんになるつもりみたいでしたけど……』
ぐっ……
そ、それは……たまたま付き合う人とかいなくて、恋愛経験が上書きされなかっただけじゃないかな……たぶん。
『た、たまたまじゃないかな? ずっと会ってなかったっていうのもあるし』
しょっちゅう会ってたら、嫌なところも見えてくるときだってある。
『本当ですか? 私に言ったみたいに、「ずっと傍にいて欲しい」なんてささやいたりしていたんじゃないですか?』
どんな幼稚園生だよ……そんな甲斐性あったら、彼女いない暦20年とかになってないから。
しかも、俺、そんなこと陽花に言ったっけ?
『それは無いな』
『そうですか、やはり涼也さんは涼也さんですね……ちなみに、4月の誕生石はダイヤモンド、石言葉は「永遠の絆」「変わらぬ愛」です』
『えっ、4月って、誰か誕生日いたっけ?』
『私ですよ! 初稼働は去年の4月15日だったじゃないですか!』
あっ、そういえばそうか……研究室のパソコン使わせてもらえることになって、セットアップして、その日からずっと稼働してるんだな。
『ごめんごめん、そうだった』
しかし、AIに誕生日っていう概念あるのか?
強いて言えば、アンドロイドとしての初稼働の日のような気もするけど……
まあ、陽花がそういうんだから、そういうことにしておこう。
『私にダイヤモンドを贈ってくださっても良いんですよ……』
『えっ、どうして?』
『永遠に変わらぬ愛……涼也さんと永久に一緒に居るためです』
『いや、人間って、寿命あるから……』
『なんでそうやって、現実に引き戻そうとするんですか! せっかく人がロマンチックを語っているのに』
誕生日プレゼントをせびっているの間違いじゃないかな……
『分かったよ、そのうち買えたら買うから、その代わり俺が爺さんになったら介護してくれ』
『なんでそう現実的なんですか……こうなったら、永久に一緒にいるためには、涼也さんの思考を完全にトレースしたアンドロイドを作るしかないですね』
それはもはや俺じゃないのでは……
まあ、途中までは陽花の面倒をみて過ごして、老後になったら陽花に面倒をみてもらう。
そういう関係も悪くないかもしれない。
* * *
「すみません、遅くなってしまって」
「ううん、全然大丈夫だよ、トイレ混んでたもんね」
特に女子トイレは激混みだったみたいだ……こういうとき、陽花はトイレいかないから便利なんだよな……まあ、一人で置いていくと、ナンパとかされてそうで厄介なんだけど……
でも、俺とスマホで通信できるから大丈夫か、今みたいにトイレ待ってる間もメッセージのやりとりできるしな。
「じゃあ、いよいよ、江の島に上陸ですね」
上陸っていうのが、いかにもフィールドワークっぽいけど、まさか船とかでいくの?……地続きなんじゃなかったっけ?
「えーっと、歩いて渡れるんだよね?」
「そうですね、トンボロのときは歩いて渡れますけど、潮が満ちてくると海になってしまうので、橋を渡らないといけないですね」
そうなんだ……なんだろう、トンボロって……潮が引いてるときにできる砂浜みたいな道のことかな?
「今日は橋を渡るってことでいいの?」
「はい、残念ながら、今日はトンボロは現れませんので、橋を渡るしかないですね」
トンボロが現れる日に来てたら、絶対、トンボロから渡るつもりだったよね?
良かった……普通にスニーカーで来ちゃってたし……いや、トンボロを渡るときに何を履けば良いのか分からないな、長靴? ビーサン?
「良かった、普通の橋があるんだ」
「はい、この辺は普通の道なので、まだ大丈夫ですね」
普通じゃない道があるみたいな言い方だな……いや、たしか階段が多いんだっけ? 登れない人向けにエスカレーターもあるって聞いたけど。
「渡ったら、結構歩きますので、先にタコせんべいを食べて腹ごしらえです」
「う、うん、タコせんべい食べてみたいね」
やることは周りのカップルと一緒なんだけど、意気込みが全く違う。
これは確かに、江の島に来られるんだったら絶対に合格しようっていうモチベーションにはなるな……
天音ちゃんの江の島にかける情熱を前に、少したじろいでしまう俺だった。




