【第280話】フィールドワーク?それとも……
「お兄ちゃん! 起きて! 朝だよ!」
「えっ、もう朝!? もしかして寝坊した?」
……時計を見ると、まだ6時だった。
「早すぎるだろ、せめて6時半までは寝たかったんだけど」
「えーっ、デートなんでしょ? 早く行かないと駄目だよ」
どんだけ早く行かせるつもりだよ……後、お願いだから三千花の前で”デート”っていう言葉は使わないで欲しい。
「お兄さん、三花姉と付き合ってるのに、他の女の子とデート行くの?」
穂乃花ちゃんに、真顔で質問された。
……出かける前からメンタル削られまくりなんだけど。
「えーっと、家庭教師で教えてた子が、合格したら江の島に連れて行って欲しいって言うから、約束で……」
「そうなんだ。でも、女の子と二人っきりで行くんでしょ? それって……」
「デートですね」
「デートだね」
「デートね」
陽花と夕花、そして三千花にまで追い打ちをかけられる。
いや、三千花さん、あなたが行ったほうが良いって言ってたと思うんだけど……
「え、えーっと、それは……」
「冗談よ、私が行くように言ったの」
「えっ、三花姉、良いの?」
「良いわよ、絶対なにも起こらないから……」
すごい自信だな。
それって、信頼されてるってこと?
それとも、俺がそんなにモテるわけないから安心だってこと?
「すごいね、三花姉……まあ、確かに、なにも起こらなそうだけど……」
穂乃花ちゃんからそう言われると、ちょっと傷つく……
朝からすでにメンタルが残り僅かなんだけど……
「そうですね、私がついてますから、なにか起こりそうになったら止めますね」
陽花、お前ついて来る気なの?
……って、スマホから聞いてるってことか。
「大丈夫よ陽花ちゃん、任せましょう」
……うーん、そこまで信頼されてると、しっかりしないといけないな。
まあ、恋愛的な要素は全く無くて、単に地学的探究心から江の島に行きたいだけかもしれないし、もし、俺の思い過ごしだったら、それはそれで恥ずかしいことこの上ない。
結局、何も起こらないんじゃないかと思いつつ、三千花に選んでもらった服を着て、駅に向かうのだった。
* * *
「おはようございます! 先輩!」
「え、えーっと、おはよう……あれっ、待ち合わせって8時じゃなかったっけ?」
「そうですね、8時って言ってましたけど、早く着いちゃいました」
いや、まだ7時半にもなってないよな……
一瞬、俺が時間を間違えたのかと思って焦ったけど、単純に天音ちゃんが早く来ただけらしい。
「早すぎない?」
「何言ってるんですか、先輩だってこんなに早く来てるくせに」
まあ、そうなんだけどな。
歩いて駅まで行くだけなんだから、着く時間なんて、おのずと分かるだろ……
つまり、どんだけ楽しみにしてたんだよって話だな。
いや、それより早く来てる天音ちゃんは、もっと楽しみにしてたってことか……
しかも――
「か、可愛いね、その服」
白のフワフワしたセーターに、ベージュのプリーツミニスカート。
そして、何より、そこから伸びる健康的な脚。
制服のときもこのくらいのスカート丈だったと思うけど、私服でこれだと……短すぎない?って思ってしまう。
かろうじて、小さなリュックを背負ってるのが、フィールドワークに行くんだということをアピールしているが――
いや、これ、どう考えてもデートだろ。
「せ、先輩も……その……かっこ良いですよ」
そんな殊勝なことを言ってくれる天音ちゃんだが、生まれてこの方、かっこ良いいと言ってくれるのは天音ちゃんくらいじゃないかな?
綾花ちゃんに、初対面で「かっこよくない方」と言われたのを未だに少し根に持っているセコい男だ。
どうせ、悠二の方が、かっこいいんだ……ううっ。
「あ、ありがとう」
きっと、三千花の選んでくれた服が良かったんだと思い直して、なんとかお礼を言う。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
ちょうど来た電車に乗り、俺達は一路、江の島を目指した。
* * *
片瀬江ノ島駅に着くと、そこは竜宮城だった……
「すごい駅ですね」
「ホントだね、まさか、竜宮城になってるとは思わなかったね」
だが、駅から江の島に向かう人たちをみると――
カップル、家族連れ、カップル、カップル、家族連れ。
……異様にカップル率が高い。
しかも、例外無く、手を繋いだり、腕を組んだり、腰に手を回したりしている。
まあ、俺たちも、傍から見たらカップルの中の一組なんだろうけど……
「先輩! 水族館がオープンしちゃいますよ! 急がないと!」
そう言って、俺の手を掴んで、急ぎ足になる天音ちゃん。
いや、オープンする前に並ばなくて良くない?
「ちょっ、待って天音ちゃん、ほら、あそこ」
「うわーっ! 海ですよ、先輩! やっぱり地球は広かったんですよ!」
感想が天音ちゃんらしいな……
このまま地球の果てまで連れて行かれそうだけど、それにしても、なんていい天気なんだ。
天音ちゃんの普段の行いが良いんだろうな。
青い空と、キラキラ輝く海……そして、天使のような天音ちゃん。
これ、陽花にバレないよな……まあ、さすがに思考を読み取る回路とかはないから、口に出さなきゃ大丈夫か。
天音ちゃんの合格祝い。
地学好きの天音ちゃんの心をくすぐる江の島。
もっと地味なフィールドワークかと思ったけど――
これはどこからどうみても……
完全にデートそのものだった。




