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【第271話】プリクラの行方

「ただいまー」


「おかえりなさい、天音、改めて卒業おめでとう」


「ありがとうママ!」


 友達との卒業パーティーを終え、帰宅した私を出迎えてくれたのは、謝恩会から戻ってきたママだった。


 今日一日、いろんなことがあった。


 卒業式、友達との時間――そして、なにより先輩とのプリクラ。


 なんだか、胸の奥がまだ落ち着かない。


「三年間、毎日お弁当作ってくれてありがとう」


「ふふ、その言葉が聞けて嬉しいわ、天音もお母さんになったら分かると思うわよ」


 えっ、私がお母さんに!?……でもそれって、先に結婚しないといけないよね。


「えーっ、高校を卒業したけど、まだ結婚するわけでもないのに?」


「そうね、そのうちね……でも、ママもパパと知り合ったのは大学生の時なのよ」


「そ、そうなの?……もしかして、学生結婚?」


「それがね、その頃パパは別の女性とお付き合いしてたのよ。ママはその後入学したから、その時はどうしようもなかったわ」


「えっ、そ、そんな話初めて聞くけど……それで、どうなったの?」


「大学で同じサークルに入って、パパとも仲良くなったんだけど、その時は普通に先輩と後輩だったわね」


「そうなんだ……それでどうしたの? 告白しなかったの?」


「そうね、それとなく好きだってことは分かるようにしたわね……でも、お付き合いしている人がいるから告白はしなかったわね」


「そ、そっか……」


 好きって分かるようにはした。


 その言葉を聞いて、今日、プリクラに書いたメッセージを思い出す。


 ――『大好きな先生と』


 先輩の反応は……なんていうか生徒から好きって言われたときの先生の反応みたいだったけど。


 ……でも、気持ちは伝わったよね?


「――だけど、結婚したんだから、その後、お付き合いしたんでしょ?」


「そうよ、そのお付き合いしていた先輩とは、卒業するときに別れちゃったみたいで、その後もずっとママがアタックしてたら、お付き合いすることになったわ」


「そうなんだ、ママも一途だったんだね」


 そう言うと、ママは少し意味深に微笑む。


「あら、”ママも”ってことは天音も一途ってこと?」


「えっ、そ、それは良いでしょ別に……」


 一途っていうか、先輩のことしか考えられないけど……そっか、そういうのってママ譲りなのかも……


「あせらず頑張るのよ、応援してるわ」


「な、なに、急に……でも、ありがとう……」


 ママはいつも味方だ。


 数学を教えてもらう話をしたときも、塾にも行かせてもらってるのに、「家庭教師してもらったら良いわよ」って言ってくれた。


 ……でも凄いな、そんなに長い間ずっとパパのこと好きでアタックしてたなんて。


 私も、頑張ろう。


 先輩が私のこと、一人の女の子として見てくれるようになるまで……


* * *


『とくに、やましいことは無かったですね』


「なんだよ、やましいことって、もしかして変なことしたら三千花に報告する手筈になってたとか?」


 陽花が聞いてなくても、変なことするつもりはないけど。


 なんか監視されてるみたいで、落ち着かない。


『別に、三千花さんに報告することになっていた訳ではありあませんが、私が確認したかっただけですね……もし、やましいことがあったら、ポロッと三千花さんにしゃべってしまうかもしれませんが……』


 AIだからな……知識として知ってることがあったら、回答としてしゃべってしまうのは正常な機能なのかもしれない。


 陽花には見られてないんだけど、このプリクラどうしようかな……


 見せてないだけで分けてもらったことは知ってるわけだし、財布の奥にしまっておくのがベストだな。


『そういえば、撮影したプリクラはどうだったんですか?』


 そんなこと考えていたからか、陽花がプリクラの話をしてきた。


「えっ、あー、よく撮れてたよ」


 どうだったかっていう聞かれ方だったから、そう答えた。


 天音ちゃんはプリクラ慣れしてるのか、超絶可愛く撮れてたので、嘘ではない。


『涼也さんがですか!?』


「天音ちゃんがだよ!」


 なにその、俺が写真写り良かったらおかしいみたいな言い方……


 どうせ、昔から「直立不動」とか「ぎこちない笑顔」とか言われてましたよ。


『そのプリクラは宝物にしてくださいね、一生に一度しかもらえないものだと思いますので』


「なにその予測、未来視でもできるようになった?」


 AIに未来を当てられてたまるか……


 いや、しかし、受験生の家庭教師をやるわけじゃないから、この先どう考えても同じようなイベントが起こる可能性はほぼゼロだ。


『予測するまでもありませんよ、当然の帰結です』


 予測ですらないとは……


 どうも、最近、俺の行動に対する読みが鋭くなってる気がする。


 もしかして、行動パターンを学習されてる!?


 あながち、ありえない話でもない現実に、俺はそっと蓋をした。


* * *


「ただいまー」


「おかえりなさい、早かったわね」


 家に帰ると、三千花が出迎えてくれた。


「うん、写真撮ったら、友達と卒パに行くって」


「そうなのね……そっちが優先だったことね」


「そうそう、俺と居るより、友達との卒パが優先だったってこと」


 まあ、当然だ。

 

 あのまま天音ちゃんを独り占めしても、どうなるものでもない。


 友達と過ごす時間の方が大事に決まってる。


「違うわよ、友達とパーティーにいく約束があるのに、先に涼也と写真を撮る方を優先したってことでしょ」


「えっ、そうなの?」


「でも、その様子じゃ、何もなかったみたいね……”先生”お疲れ様でした」


 うーん、三千花も陽花以上に俺のこと分かってるな……


 でも、天音ちゃん、友達より俺のことを優先して、写真撮りに抜けて来てくれてたってことか……


 頭の中にプリクラに書かれメッセージが浮かぶ。


 ――『大好きな先生と』


 ……このプリクラ。


 永久に保管庫行きだな。


「ねーねー、撮った写真見せて」


 無邪気にそういうことを言う夕花……


 えーっと、これは拒否すると怪しまれるよな。


「はい、これ」


 スマホで撮った方の写真を見せる。


「ふーん、お兄ちゃんはいつもの顔だね」


 悪かったな! そんな急にいつもと違う顔できるか!


「これって、どこで撮ったの?」


 うっ、それを追求されるのか……どうしよう……


「プリクラの中ですよ」


 これは詰んだな……「プリクラのシール見せて」→「何これ、大好きって書いてあるよ」の二手詰みです。


「えっ、プリクラ! 夕花も撮りたい!」


「じゃあ、今度みんなで攝りに行こっか」


 三千花がそう提案してくれる。


「私も一緒に行って良いんですか?」


「うん、もちろん、みんなで一緒に撮ろ」


 ……これは。


 何となく、うやむやになったのか?


「もちろん、涼也の奢りでね」


 そう言って、三千花がウインクする。


 ……これって、天音ちゃんとの思い出は俺だけで取っておいて、三千花たちとの思い出は別に作ろうってことかな?


「はい、奢ります」


 まあ、このプリクラを見せるのに比べたら安いもんだ。


 しかし、三千花には頭が上がらない。


 助けられてるのか。


 手のひらの上で踊らされてるのか。


 でも、それも良いかなと、三千花の横顔を見ながら思うのだった。

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