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【第270話】天音ちゃんの卒業

『先輩、卒業式が終わったら会っていただけませんか? 一緒に写真が撮りたいので』


 という、メッセージが来た。


 どうしよう?


「行ってくれば? 先生と生徒っていう関係は今日までだから、制服で写真が撮りたいんじゃない?」


 三千花はそう言ってくれる。


 だが、もしかしてこれは、卒業式後の告白というやつではないだろうか……


 いや、さすがにそれは自意識過剰か……そのつもりで、「実は三千花と付き合ってて」とか断り文句を考えて行ったら、全然そんなこと無かったとかだったら、恥ずかしすぎて立ち直れない。


 彩ちゃんが変なこというから意識しちゃってるだけで、よくよく考えたら俺がそんなにモテるわけない。


 三千花の言う通り、先生と生徒という関係の最後の日だから――ただ、写真が撮りたいだけだろう。


 メッセージにも写真が撮りたいと書いてあるんだから、そのままの意味に決まってる。


「何を考え込んでるのお兄ちゃん? 行きたくないの?」


 まさか、天音ちゃんの最後の制服姿なんだから行かないわけがない。


「いや、行ってくるよ」


「ふーん、変なのー」


「涼也さんは、卒業式の日に今まで伝えられなかった想いを、思い切って告白するというシチュエーションに憧れているんですよね……高校のとき、男子クラスだったから」


 陽花が的確に古傷と、ささやかな妄想をえぐってくる。


 あれ? 男子クラスのこと、陽花に話したっけ?


「何、お姉ちゃんその男子クラスって?」


「高校生の時、理系を選択すると男子の比率が高くなって、男子しかいないクラスができてしまうんですよね、静華お姉さんが言ってました」


 あー……姉貴が泊まったときバラしてたっけ。


「へーっ、でも、男子クラスでもカッコ良かったら、卒業式の日に告白とかされることはあるんじゃないの? 学校に女子は居るんでしょ?」


 ……全くその通りで、何も言えない。


 なんだ、今日は二人して俺の古傷えぐってくる日なのか?


「そ、それは、余程学内で目立つ男子に限られるのでは……そうです、涼也さんはかっこいいですが、クラスの中でひっそりと生活していたので、そのイベントは発生しないのです」


 フォローなのか、トドメなのか、どっちなんだ?


「それに、今日に限って言えば、卒業するのは天音さんなので、天音さんが誰かに告白されることはあっても、これから同じ大学に通うことになる涼也さんに天音さんが告白する可能性は、限りなくゼロに近いと思われます。安心してください」


 ……ああ、俺が変な心配をしたのが馬鹿でしたね。


 はいはい、写真だけ撮られに行ってきますよ。


「お兄ちゃん、どんまい!」


これ以上メンタルを削られる前に、早々に天音ちゃんにメッセージを返して、待ち合わせ場所に行くのだった。


* * *


「ちょっと、早く来すぎたかな」


 待ち合わせのターミナル駅に着いたのはいいけど、天音ちゃんにメッセージ入れてからすぐに出たので、時間までだいぶある。


『そうですよ、学校で告白されたり、友達とおしゃべりしたりするんですから、そんなにすぐ来るわけ無いじゃないですか』


 そうだよなー、文化祭に行ったときも、結構な人気者だった天音ちゃん。


 卒業しちゃったら会えなくなる友達とかと積もる話もあるだろうから、そんなすぐには来ないよな。


「どっかで暇つぶしでもしてるか」


『そうですね、ゲームセンターにでも行ってましょうか』


「えっ、なんで?」


 陽花と通話してる風に、スマホで話してたんだけど、思わず変な声を出してしまった。


『卒業式なので、プリクラを撮るのかと……』


 なるほど、それはあるかもしれないな……って、そういう情報ってどこから仕入れてくるんだ?


「今って、そういうもんなんだ」


『だいぶ前からそうだと思いますけど、涼也さんの卒業したときは無かったですか?』


「だから、そういうイベントは無いに決まってるだろ」


『大変失礼いたしました。悠二さんとどこか行ったんですか?』


「あー、確か、秋葉原に行ったかな」


『プリクラたくさんありますね』


「いや、だから、男同士で撮ってもしょうがないから」


 女子だったら、みんなで撮るとかあるかもしれないけど、男同士は無いんだよね。


 ――と、そんなどうでもいい話をしてると、


「あっ、先輩! すみません、遅くなっちゃって」


 天音ちゃんが駆け寄ってきた。


 いやいや、全然遅くないから。


「いや、むしろ早いんじゃないかな?」


「そうですか?……あっ、お電話大丈夫ですか?」


「あっ、これ? 電話じゃなくて陽花だから大丈夫だよ」


「あー、なるほど、スマホのアプリで話せるんですよね、すごいです」


 まあ、アプリ作ったのは悠二だけど……


 それにしても、天音ちゃんの制服姿は見納めか……ポニーテールはいつも通りだけど、胸のリボンが、いつになく眩しいな。


「えーっと、写真って、どこで撮るの?」


「写真はですね……こっちです」


 腕を引っ張られて、導かれるままについていく。


 ……この強引さは、いつも通りの天音ちゃんだな。


* * *


「ここです!」


 連れてこられたのは――ゲームセンターだった。


「もしかして、プリクラ?」


「当たりです! さすが先輩!」


 陽花の受け売りだけど……


「スマホで撮るのかと思った」


「あー、そうですね、スマホでも撮りますけど、自撮りだと顔のアップになっちゃうので」


 なるほど、プリクラでちゃんと撮りたいのか。


「それに、プリクラで撮った写真をスマホで見られるサービスもありますし」


「へー……」


 そんなのあるんだ。


 やったことないから全然わかんないな。


「こっちですよ」


 また手を引っ張られる……今日は積極的だな。


 有無を言わさぬ感じがするけど、まあ、卒業式の日は今日一日しかないからか。


 言われるままについていくと、プリクラ機があった。


「ちょっと待ってください」


 スマホを取り出して、なにやら操作する天音ちゃん。


 うーん、機械には強いと思ってたけど、こういうのはやったことがないから任せるしかないな。


「はい、終わりました。入りましょう!」


 今度は背中を押されて狭いブースの中へ……引っ張られたり、押されたり、なすがままだ。


「えーっと、これとこれを……」


 手提げ袋から、卒業証書と花束を取り出す。


「ほら、先輩、卒業しましたよ! 先輩のおかげです!」


 そういって、卒業証書と書いてある証書入れをパカッと開いて見せてくれる。俺のときは筒に入れるタイプだったけど、今はこんな感じなんだ。


 うーん、しかし、百歩譲って、大学に合格したのは俺の家庭教師が影響してるかもしれないけど、卒業は違うんじゃない?


「はい、撮りますよ! 先輩、画面の方向いてください」


 そう言うと、天音ちゃんが画面の方を見ながら俺にくっついてくる……制服の女子高校生とこんな密室で、この距離感って……


 もはや男子クラスの暗い過去は完全に上書きされたな。


 家庭教師やって良かったー。


「撮りますよー」


 画面の方を見ていると、ちょっとニヤけた感じの冴えない男と、卒業証書と花束を持った天使のような女子高生のツーショットが映っていた。


 もしかして、これ、俺が居ないほうが良いんじゃない?


「バッチリですねー、待ってる人居ないから自撮りもしちゃいましょうか」


 そういって、スマホを取り出して、自撮りを開始する天音ちゃん……


 さらに体を密着させるので、正直、どうしたら良いのか分からない。


 女の子同士で撮るときはこういう感じなんだろう。それと同じことを俺にもされてるだけで、深い意味はないはず……そう念仏のように言い聞かせた。


 ――隣の加工部屋?で、撮れた写真を加工する天音ちゃん。


「顔はいじりたくないんですよね、手書きメッセージだけで良いですね」


 そう言って、天音ちゃんの書いたメッセージは、


 『2026.3.5 大好きな先生と!』


 だった――


* * *


「明日から、涼也先生って、呼べなくなっちゃうんですよね……」


「そ、そうだね、もう、高校卒業しちゃったから、先生と生徒じゃなくなるね」


 そうか、三千花の言った通りだったな。最後に先生と生徒として写真が撮りたかったのか。


 きっと、この「大好き」も、先生としてだよね……切り取られたプリクラを持って、そんなことを考えてしまう。


「でも、4月からは、同じ大学の先輩と後輩ですよ! ”先輩”は継続です!」


 まあ、バイトでも先輩のままだしな。


「その前に、江の島も行かなきゃですね、空いてる日ありますか?」


「えーっと、今度の日曜日とか?」


「はい、大丈夫です。行きましょう!」


 約束だからな、頑張ったご褒美だ。


「楽しみですねー、関東ローム層、三浦層、葉山層……」


 えっ、なにそれ? 関東ローム層は聞いたことあるな……たしか富士山の火山灰が積もって出来た地層だっけ?


「えーっと、それって……」


「江の島は有数な地学スポットなんですよ、大学合格したら行きたいなってずっと思ってたんです」


 ……あれっ?


 もしかして、純粋に、地学のフィールドワークに行きたかっただけ?


 ……俺とデートに行きたいとかじゃ無かったんだ……良かったー勘違いして変なこと言わなくて。


「そ、そうだね、楽しみだね」


「はい、これから大学でも一杯勉強できるんですよ、そして、絶対、御子神先生のゼミに入るんです!」


 そっか、卒業したら大好きなことが待ってるってことか……こんなに楽しそうなのも、それがあったからなのか……


「卒業おめでとう……そして、改めて――大学合格おめでとう。よく頑張ったね」


「ありがとうございます! 先生のおかげです!」


「じゃあ、これからもよろしく」


「はい! よろしくお願いします、先輩!」


 こうして、天音ちゃんの高校生活最後日に、ほんの少しだけ――


 その思い出の中に、一緒の時間を残すことができたのだった。

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