【第266話】部屋割り
「穂乃花ちゃん、新しい部屋見に行く?」
「えっ、すぐ見られるの! 行きたーい!」
めちゃくちゃ乗り気だ。
まあ、新しい部屋を見るのって楽しいからな。
「同じ階の一番端っこの部屋だから上着とか着なくても大丈夫だよ、鍵は預かってるからいつでも見られるし」
「じゃあ、今から見ていいの?」
「うん、着いて早々だけど、一休みしなくていいなら」
「全然大丈夫だよ! 電車の中でも結構寝てたし……」
こうして、新しい部屋を見に行くことになった。
* * *
ガチャガチャ……カチッ
鍵が開いた。
昨日預かったんだけど、みんなで見ようと思って、まだ入ってなかった。
入口は自分の部屋と同じ作りのはずなんだけど、なぜか新鮮だ。
ドアを開けると、陽の光が差し込んだ部屋が目に入る。
「うわー、広ーい!」
荷物がない部屋って広く感じるんだよね。
それに、今までの部屋より部屋数も多いので、三千花のアパートよりも実質広い。
「結構、日が差すのね」
「そうだね、端の部屋だから窓も多いし、まだカーテンも付けてないから良く日が入ってくるね」
三千花も日当たりが良いのが嬉しいみたいだ。
「台所が広いですね、これなら色んな料理が作れそうです」
「ホントだー、オーブンレンジとか置けるかな? お菓子もたくさん作れるかも」
陽花と夕花は台所が気に入ったみたいだ。
確かに、うちの台所より、だいぶ広い。
「ダイニングも広いわね……むしろリビングくらいあるかしら」
「そうだね、小さいダイニングテーブルにしたらソファーが置けちゃうかも」
「ほらっ、三花姉、トイレに水がでるやつが付いてるよ!」
「本当ね、最初から付いてるのかしら」
温水洗浄器付きトイレだな……実家とか、聡さんの家とかには付いてるけど……もしかして前の人が置いていってくれたのかな? 新しく住むところにも付いてたとかで。
「お風呂も広いよー! 足伸ばして入れそう!」
といって、空の湯船に入る穂乃花ちゃん……短いスカートでそれはやめたほうが良いんじゃないかな、まあ、確かに足は伸ばせてるみたいだけど……
「香菜ちゃんちと同じ作りだね、一階の香菜ちゃんの部屋はここだよ」
そこがサービスルームか……窓もあるし、意外と広いな。
子供部屋に丁度いい感じではあるかな。
「あー、私そこの部屋使って良い? 夕花ちゃんと一緒でも良いよ」
陽花と夕花は、今俺の住んでる部屋を借りることに体面上はなってるんだけど、どうせこっちの部屋に入り浸るだろうからな。
寝るとき穂乃花ちゃんと一緒で良いなら多分帰らないだろう。
「和室が一部屋あるね、三千花はこの部屋が良い?」
「そうね、畳のほうが落ち着くかも……涼也は洋室にパソコンとベッド置くのよね?」
そうか、夜パソコンとか使うこともあるから、必然的に洋室になるのか。
そうすると、ベッドもそこに置くことになって……三千花と離れちゃうな。
「そうなるかな……そうすると、陽花は……」
「私は涼也さんの部屋で一緒に……」
「いやいや、そうはならんだろ」
「陽花ちゃんは和室で一緒に寝ましょう……涼也も寝るときは和室で寝てもいいけど」
えーっと、ベッドから布団を持っていけば良いんでしょうか?……ものすごく魅力的な提案だけど、穂乃花ちゃんがジーッとこっちを見てるんだよね……どう答えれば良いんだ?
「まあ、バイトでみんなが寝た後帰って来ること多いから、とりあえず洋室にベッド置くとして、後は追々考えようか」
「私に遠慮しなくてもいいよ……耳栓して寝るから」
穂乃花ちゃんが爆弾発言をしてくる。
「そ、そ、そんなことは気にしなくても大丈夫よ、ほら、陽花ちゃんも居るんだし!」
三千花が思いっきり動揺してるな……まあ、陽花が居る時点でそういうことにはならないと思うんだけど。
「私にも遠慮しなくて大丈夫ですよ、コールドスリープに入りますから」
なにそれ、そんな機能あるの?
「陽花お姉ちゃん、そんな機能無いでしょ……それはただの寝たふりだよ」
あぶなっ! 危うく引っかかるところだった。寝たふりってことは、丸聞こえってことだよね。
「それって、全部聞いてるってことだよね?」
「そ、そうですか? 聞こえてると聞いているは違うと思いますよ、利用者のプライバシーは侵害しませんので……」
「今まで、俺のプライバシーは侵害されてきたと思うんだけど?」
「そ、そんなことありませんよ、最初の頃はプライバシーの境界が曖昧だっただけです」
いやいや、人のハードディスクの中身、全部見てただろ、思いっきりプライバシーの塊なんだけど。
「スマホから取り込んだ音声も、全部聞いてるんだよね?」
「いえ、全部というか、涼也さんと私に関連することだけに絞り込んでいます」
それじゃ、俺の情報は全部聞かれちゃってるんだけど。
「そういえば、健斗はそういうところどうしてるんだ?」
『久々に話しかけて頂いて光栄です。私はアクセスしている端末も多いですし、自分への問いかけに対してのみ回答するようになっていますので、それ以外は記録もされず流れていってしまいます』
「なるほど、まず、健斗に話しかけないと、回答はしないってことか」
『そうです。そうしないと、陽花姉さんに対する問いかけに対しても全て回答してしまうことになって、競合してしまいますので』
まあ、そうだよな、明らかに自分への問いかけじゃないものにまで反応してたら、競合するよな。
「だそうだけど、陽花は俺に関する情報も全部持っていくんだよね?」
「そう言われるとプライバシーの侵害のように聞こえますが、いざというとき”聞いていませんでした”は通用しないと思いますので、意識して聞くようにしています」
なにその「先輩の話はちゃんと聞いとけ」みたいやなつ。
「まあ、でも、俺のプライバシーはないんでしょ?」
「そうとも言えますが、大丈夫です。私の趣味嗜好以外の目的で使用することはありませんから」
いやいや。
趣味嗜好の目的で使うなよ。
――と、そんな話をしていたら、
「そ、そんなに知られたくないプライバシーがあるなら、別の部屋で大丈夫よ」
と、三千花から言われてしまった。
なんとなく、部屋割りが確定しちゃったみたいなんだけど……
これは陽花の策略にハマったような気がする。




