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【第265話】陽花帰還

「遅いな―」


「そんなことないでしょ、まだもう少しかかると思うわよ」


 日曜日、穂乃花ちゃんと陽花が来るのを待っている。


 今回は陽花が連れてくると主張したため、家で待っていることにしたのだが――これがどうにも落ち着かない。待っているだけというのは、どうにもやきもきするものだ。


「下手に待ち合わせするからいけないんだよね、場所が分かってるなら直接来てもらったほうが迷うことも無くていいよ」


 前回待ち合わせしてはぐれてしまったから、夕花もそういうことを言ってくる。

 学習したということなのか、待ち合わせを諦めたということなのか……まあ、AIなんだから前者だと思っておこう。


「そうね、最初からルート設定も全部任せてるし、陽花ちゃんが付いてるなら穂乃花も迷ったりしないと思うけど」


「この前だって迷ったわけじゃなかったんだよ、待ち合わせに失敗しただけで……」


 そうだよな、急遽新宿で待ち合わせすることになって、お互い駅の構造をよく分かってなかっただけだからな。


「まあ、確かに、夕花が迷ったわけじゃないからな……それに、予め新宿で待ち合わせって分かってたら新宿を学習してただろうし」


「そうね、穂乃花が急に電車乗り換えたりしたからね、夕花ちゃん、ごめんね」


「ううん、あれは行きそうな場所をあらかじめ学習しておこうって思うきっかけになったから良かったよ。穂乃花ちゃんが乗り換えるって言ったときも、夕花もそっちの方が早いって思ったから穂乃花ちゃんのせいでもないし……」


 そっか、もしかして、あれを気にしてるのって俺だけだったかもしれないな。


 確かに待ち合わせた場所で会えなかったとはいえ、そのあと会えたわけだし、実質それほどデメリットはなかった。むしろ、新宿から帰ったから家に着くのは早かったわけだし。


 ……とはいえ、穂乃花ちゃんが泣いちゃったから、ちょっとトラウマになってるんだよな。


「まあ、普通に家にたどり着ければいいだけだから、心配すること無いか……」


『そうですよ、私も乗換駅のことは調べてありますから、経路については心配しなくても大丈夫です……むしろ、穂乃花さんがずっとクシャミをしていますので、そちらのほうが心配ですが……』


「それって、花粉症じゃないかしら? 天気が良いから急に症状が出る人が増えてるみたいよ、穂乃花マスクしてきてないの?」


『えーっと、それがマスクは持っていないみたいで……』


「じゃあ、どこかで買ったほうが良いんじゃないかな? 駅の売店とかもで売ってると思うから」


『承知しました。どこか買えるところがあったら購入します』


 花粉症は予防が大事だからな……俺も予防的に薬を飲んでたりするし、外出のときはマスクをするようにしてる。


 でも、アンドロイドは花粉症にならないから、穂乃花ちゃんにマスクしたほうが良いとかアドバイスするのは難しいな……急になったら、花粉症なのかだって分からないだろうし。


「向こうでは大丈夫でも、こっちに来ると駄目だったりするのよね、何でかしらね」


『アスファルトに落ちが花粉が巻き上がって再飛散したり、排気ガスなどの大気汚染物質と結合してアレルギー症状が出やすくなるというのがあるみたいですね、ネット情報ですけど』


 そうなのか……まあ、再飛散するんだったら、降ってきた花粉と地面からの花粉でダブルパンチだからきついよな。


「三千花は大丈夫なの? 女の人って化粧とかもあるから大変だよね」


「えーっと、花粉の時期になったら薬は飲むようにしてるし、マスクもするから、天気のいい日に目が痒くなるくらいかしら……それに、お化粧はしてないから……」


「えっ、してないの?」


「……ごめんなさい、デートのときはするようにするから……」


「いや、して欲しいっていう訳じゃなくて、してると思ってたから」


 朝、俺が起きる前にしてるのかと思った……そう考えるとファンデーションとかしなくても良いなんて、肌キレイだな。


 もちろん、陽花も夕花も化粧なんかしないし、三千花もしないとなったら周りに化粧する人がいないから、普通の女の人がどうしてるのか分からないな。


 あっ、姉貴が酔っ払って顔近づけてきたりすると、化粧くさかったときがあったな……まあ、お酒と化粧の匂いが混ざって、勘弁して欲しいん匂いなんだけど……


「そうなの……お風呂上がりとかと同じでしょ?」


「えーっと、お風呂上がりはしっとりしてるし、その後、何かつけてるでしょ?」


「化粧水とか、乳液とかはつけてるけど……さすがに肌ケアはしないと……」


 そっか、あれは肌ケアだったのか……その辺の知識に疎くて全く分からなかったな……陽花も夕花もケアしなくてもツルツルしてるし……


「いや、肌ケアだけでそんなにキレイなんだったら、無理に化粧する必要も無いんじゃないの?」


「そ、そう……ありがとう……でも、一緒にお出かけするときは口紅くらいはつけるようにするわね」


 顔を真っ赤にしてうつむきながらそう話す三千花、えっ、今の会話に恥ずかしい要素あった?


「もー、お兄ちゃん、そうやって人前で口説くのやめてよ、穂乃花ちゃん居ないときで良かったよ」


 えっ、これって、口説いてることになるの? どの辺が?


『女性に「キレイだよ」って言うのは、口説くかセクハラかどちらかですよ』


「えっ、そうなんだ」


「そうだよ、そういうところだよ」


 そうなんだ……全然そんなこと考えてなかったな……来年から社会人にもなるんだし、気をつけよう。


『もうすぐ着きますよ、切り替えてくださいね』


「さすがに恋愛モードになりそうだったら、夕花が止めるよ」


「全然、そんな雰囲気じゃなかったと思うんだけど……」


 ……と、思って三千花を見ると、なんかモジモジしてる。


「き、急にそういうこと言われると、心の準備が出来てないから……」


 そういうもんなんだな……穂乃花ちゃんも一緒に住むようになるんだから気をつけるようにしよう。


* * *


「ピンポーン」


「あっ、着いたみたいね」


『着きました。開けてください』


 常時通話してるみたいなもんだから確認いらずで楽だな。


 鍵を開けると、当たり前だけど、陽花と穂乃花ちゃんが立ってた。

 穂乃花ちゃんは、どこかで購入できたみたいで、マスクをつけてる。どうやら、クシャミはおさまったみたいだ。


「会いたかったー」


 穂乃花ちゃんが抱きついたのは……夕花だった……うーん、一緒に受験勉強したから仲良くなってたんだな。ちょっと微笑ましい。


 ……が、実の妹が自分のところに来ないので、ちょっと残念そうな三千花……と思ってると、


「三千花さん、会いたかったです!」


 陽花が三千花に抱きついた……俺じゃないんだ……


「もしかして、涼也さんもにも抱きついた方が良いですか?」


 残念そうにしている俺を見て、陽花がそう言ってくれるが、


「イヤ、イイデス」


 感情のこもっていない言葉で、そう返事をした。


「この姿で抱きつくと色々角が立つと思いまして……その分、この前入れ替わったときに堪能させていただきましたので」


「ソウデスカ」


 色々配慮していただいてすみませんね。


「えっ、もしかして、私が抱きついた方が良かったかな?」


 穂乃花ちゃんが俺のことを気遣ってくれるけど、


「イヤ、ダイジョウブデス」


 ……そこは夕花に抱きつくで正解だと思う。


 別に抱きついてもらいたかったとかじゃないんだけど、陽花はあれだけ早く会いたいって言ってたから、肩透かしくらった感じだ。


 なんか、俺のほうが早く陽花に会いたくなっちゃってたのかな……


 まあ、なにはともあれ、陽花が帰ってきたのだった。

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