【第264話】ダンスvs柔道
「あのねー、達也はぜったい、夕花ちゃんのこと好きだと思うよ」
「えっ、全然そんなこと無いと思うけど……」
むしろ香菜ちゃんのこと好きなんじゃないかな、可愛いし、優しいし、面倒見いいし……
「私なんかより香菜ちゃんのこと好きなんじゃない? 香菜ちゃん可愛いし」
「えっ私? そんなわけないじゃん、達也から暴力女って言われたんだよ、手出そうとしたから絞め上げただけなのに」
いやいやいやいや。
あれだけの体格差があるのに「絞め上げた」ってどういう状況!?
……もしかして、達也って激弱?
「それに、夕花ちゃんの方が良いに決まってるでしょ、今日一日だけで、夕花ちゃんのファンになった子も多いんだよ」
えっなにそれ!?
どうして!? あんなのでファンになっちゃうとかあり得ないでしょ……
「全然そんなわけないよ、勉強だって平均点取れれば良いほうだし、運動も苦手だし、なんにも良いところなんてないよ」
「またまたー、前の学校って頭良い学校だったんでしょ、うちの学校だったらトップクラスだよ」
いやいや、ホントに平均点狙うから……
うーん、期待させといて普通とかちょっと恥ずかしい気もするけど……
「本当に普通だから……運動だって体育はほとんど見学だし……」
「えーっ、ダンス楽しいよ、運動会もあるし、ダンスくらいは出ようよ」
「ま、まあ、そんなに激しいダンスじゃなかったら大丈夫かもしれないけど……」
――AIだから動きを覚えるのは得意なんだけど。
その動きを関節モジュールを使って表現するのはすごく大変なんだよね……
でも、陽花お姉ちゃんの作ったプログラムを使うと、いくつかの関節モジュールを連動させて、人間と同じような動きができるからすごいんだよね。
あれっ? もしかして、ダンスだったら無双できちゃうんじゃない?
――いやいやいや、駄目でしょ、平均狙うんだから。
「えーっと、今習ってる振り付けは、こんな感じ」
香菜ちゃんのダンスを見てると「あー、小学生って、こんな風で良いんだー」っていう、ちょっと微笑ましい動きだ。
これなら、真似っこして完璧にトレースしても小学生っぽいダンスになるな。よし、やってみよう。
香菜ちゃんと全く同じ動きをトレースしてみると……
「っぷ、なに、夕花ちゃん! ダンス下手っぴな私みたいな踊り方になってるよ、そこまで真似しなくても大丈夫だよ」
思いっきり笑われた……そっか、香菜ちゃんダンス下手なんだ。
これは香菜ちゃんをお手本にしてれば、そんなに目立たないかな……
――いや、むしろ目立っちゃうでしょ、これ。なんでそんなに武術っぽい動きするの!?
「香菜ちゃん、なんか武術やってる?」
「えっ、なんで分かるの? お父さんが柔道やってるから、相手してもらうんだけど、全然勝てないから道場で習い出したんだよ」
なんと、柔道女子だったのか……それなら絞め上げるっていうのも分からないでもない。
「えっ、すごーい、香菜ちゃんのお父さんも柔道やるんだね」
「見た目は痩せてて全然そんな風に見えないんだけど、どんなに頑張っても歯が立たないんだよね」
小学生相手にそれは大人げないな……
「でも、小さくても勝てちゃうのが柔道だって師範の先生が教えてくれたんだ」
「ふーん、すごいんだね」
「夕花ちゃんでも、コツが分かれば大人でも投げ飛ばせちゃうよ」
それはいくらなんでも無理なんじゃ……省電力型の設計になってるし……
「こうやって、相手の洋服の裾を掴んで……なんかダンスみたいでしょ?」
「ホントだね、でもこんな感じで投げ飛ばしたりできるの?」
「えーっと、こう、裾を引っ張ったり押したりして、相手のバランスを崩すんだって……そしたら、体重が掛かってない足を、スッと払って……」
「こんな感じ?」
香菜ちゃんの動きに合わせるようにして、そこから重心をずらすみたいに少し押し込んでから、ちょっと戻して、足を払った。
すると――
香菜ちゃんがコテンとひっくり返った。
手は握ってるので、ちょうどダンスでターンしたまま、背中からこっちに寄りかかったみたいな感じだ。
「えっ、すごい、今、どうやったの?」
「自分でも分かんないけど、何となく、体重が移動するのに合わせてみたらこうなっちゃった」
「もしかして、夕花ちゃん才能あるかも! 柔道やらない?」
「えーっと、ごめん、ちょっと体力的に耐えられないと思うから……」
絶対、バッテリー切れになったり、部品が壊れちゃったりするよね。
許可を申請してみる必要もないくらいだ。
「そうなんだ……絶対強くなりそうなのに……」
うーん、最初の頃、涼也お兄ちゃんを参考に学習したときの名残なのか。
強くなって相手を倒すとか、そういう意欲が全く沸かないんだよね。
「なんか、勝ち負けってそんなにこだわってなくて……みんなで仲良く生活できたらいいなって思ってて」
「あー、それ、すごく夕花ちゃんっぽいかも。みんなそれで夕花ちゃんのこと好きになっちゃったんだよ」
「でも、そんな普通なのって、目立たなかったり、相手にされなかったりするんじゃないの?」
「そうでもないよ、頭よくても『たまたま出来ちゃっただけ』みたいに言ったり、自分がやれば一番上手く出来るのに、人にお願いして、褒めてくれたり感謝してくれたり……そんなこと言う子って他にいないから、絶対好きになっちゃうよ」
……なんか心当たりある。
もしかしてやらかしてたかも。
だって、ズルして人に勝とうとか、自分だけ得しようとか、そんな必要ぜんぜんないし。
むしろ、誰かが喜んでくれるなら、バッテリーも惜しまず、なんでもしようと思っちゃうんだよね。
しかも、人間社会で目立っちゃったら、もしかしてお兄ちゃんと一緒にいられなくなるかもしれないから、絶対に目立たないようにしないといけない。
世界の片隅でもいいから、ひっそりとお兄ちゃんのお世話をしてあげてれば他に欲しいものなんてないんだよね。
「えーっと、そういってくれるのは嬉しいんだけど、あんまり目立ちたくないんだよね……お友だちだって、香菜ちゃんがいてくれたらそれだけで充分だし……」
「うそっ、うれしいー! 私も夕花ちゃんがお友達でいてくれたらそれだけで良いかも!……でも、ぜったい他の子も夕花ちゃんとお友だちになりたいって思ってるはずなんだよね」
いやいや、むしろ香菜ちゃんのほうが人気あると思うけど……
あんまり、香菜ちゃんを独り占めするのも良くないから、やっぱり私は日陰を歩いていく存在でいないと……
「特に、達也!……あいつがあんなに素直に言うこと聞いたところなんて、みたことないんだから! ぜったいに、夕花ちゃんのこと好きなんだよ!」
えー……?
私はお兄ちゃんがいてくれればそれで良いんだけど。
まあ、お兄ちゃんがヤキモチ焼いてシスコンに走ってくれるのはちょっと楽しいから、男子の話は織り交ぜていかないといけないかな……
でもお兄ちゃん以外の男子に好かれるとかは勘弁だな。
「あれっ、そういえば、お兄ちゃんは?」
「そういえば……もう帰っちゃったんじゃない?」
「がーん、また置いてかれたー!」
同じアパートとはいえ、一言も無しで置いていかれるのはちょっと寂しい。
こんなんなら、一緒に来ないで、一人で遊びに来たほうが、まだショックが少ない。
もー、ちゃんと夕花のこと分かってくれてるのかな?
家に帰ると、置いていかれた件を、またネチネチと問い詰めてしまう夕花だった。




