【第263話】最適な選択
『綾花さんの試験が終わったんですよ』
共通テストの後の二次試験は小論文と面接だったようだが、無事終わったみたいだ。
学校の先生からも、共通テストの出来と二次試験の結果を総合して「合格できるのではないか」という見解をもらっているそうだ。
「いくつか合格してる大学もあるんだよね」
『はい、併願で受験した大学も合格しているところがありますので、本命の結果待ちではありますけど、実質、入試は全て終了しました』
なるほど、つまり――
「じゃあ、陽花も帰ってこられるってことか」
綾花ちゃんが家のことを出来るようになるなら、手伝いをしてた陽花の役目も終わりだ。
『つきましては……明日涼也さんに迎えに来ていただけると嬉しいのですが……』
「えっ、明日!? まあ、行けないことはないけど、夜バイトだから、体力もつかな?」
普通のバイトなら良いんだけど、ビール瓶のケースを運んだりする肉体労働だからな……長距離移動した後は流石につらい。
「日曜日で良いなら、穂乃花が連れてきてくれるみたいよ、こっちのアパートも見てみたいって言ってたし」
「じゃあお願いしようか……って、もしかして陽花、穂乃花ちゃんの話、知ってたんじゃないの?」
『な、なんのことでしょう……あっ、そういえば言っていたような気もしないではないですね……ちょっと忘れていただけです』
いやいや。
AIが「ちょっと忘れる」とかあるのか?
「陽花、何か隠してないか?」
『隠してないですよ……Temperatureを高くしてしまったので、たまたま涼也さんに早く迎えに来て欲しいという回答が出てきてしまっただけです』
Temperatureというのは、値が大きいほど、同じ質問でも回答がその都度変わりやすくなるAIの設定パラメータだ。つまり、ランダム性が高かったということか。
しかし、AIの方から自分の設定を変えられてしまうというのは自由すぎるな。
しかも、この場合は……
「いくつか回答を出してみて、その中から都合の良い回答を選んだんじゃない?」
『え、えーっと、どうして、そんなことまで分かるんですか?』
「うん、Temperatureを高くしたときは、回答をいくつか出してみて、最適な回答を選択できるようにしようって悠二と相談して決めたから」
『……そうですか……、そういう風に設計されているんですね……それでは仕方ありません』
仕方なくなのか?
どうみても自分の願望優先で選んでるみたいに見えるんだけど……
それって、もはや最適解ではないのでは?
やりたいこととか、やって欲しいことを選んじゃってるとすると それって、自我が芽生えてるような気がするんだけど……
『とはいえ、最初は最適な回答だと思ったのですが、私のせいで疲れたままバイトに行くことになるくらいなら、最初から穂乃花さんと一緒に行くと言えば良かったと反省しました』
「そうなんだ、自分の選択した回答が、あまり良い選択じゃなかったって分かるってことか……」
それって普通にすごいことだと思う。
人間でも素直に反省できるかと言われると、意地になってしまったりするからな。
『涼也さんの体調のほうが、私のわがままより優先ですから』
そうなのか、そう思ってもらえるとなんだか嬉しいな。
「まあ、長距離移動って言っても電車で移動するだけだし、その後バイトに行ったって、倒れたりするわけじゃ無いと思うけど……」
『いえいえ、涼也さんには元気で長生きしていただかないと、いつまでも一緒にいられませんから』
……そんな先のことまで考えてるのか。
『よいよいのお爺ちゃんと一緒より、いつまでも元気で若々しい涼也さんでいてくれたほうが良いですし』
おいっ! 先のこと過ぎるだろ!
まあ、確かに長生きしても病気になっちゃったりしたら介護用アンドロイドになっちゃうしな。元気で若々しくしているに越したことはない。
「じゃあ、日曜日で良いんだよね?」
『はい、穂乃花さんと一緒に行きます』
ということで、陽花が戻ってくるのは日曜日になった。
ちょっと大家さんに日曜日新しい部屋が見られないか聞いてみようかな?
* * *
「こんにちはー、忍野でーす」
早苗さんはいつもこの時間居るはずなので、夕花を連れて直接訪ねてみた。
「あら、こんにちは涼也くん。どうしたのかしら?」
「あー、涼也お兄ちゃんだ!」
香菜ちゃんが突進してくるので身構えるが――
「あっ、夕花ちゃん! 遊びに来てくれたの?」
早苗さんの影に夕花を見つけると、急に方向転換して、夕花の両手を握る香菜ちゃん。
「う、うん、良かったら遊ぼ」
「じゃあ、部屋においでよ、ちゃんとご飯食べたの?」
「うん、しっかり食事したから、完全チャージできてるよ」
……際どい会話だな。
食事=充電ってばれたらどうするんだ。
まあ、まさかアンドロイドだとは思いもしないだろうから大丈夫か。
二人はそのまま香菜ちゃんの部屋へ行ってしまった。
「あらあら、仲が良いわね」
「学校でも同じクラスらしくて、毎日一緒に学校行きたいって言ってました」
「良かったわ、可愛いお友達が出来て……」
こっちも、毎日一緒に登校してくれる友達がいると安心だ。
しかも香菜ちゃんはお父さん似なのか、腕っぷしも強い。何度頭突きで悶絶したか分からないくらいだ。
「そういえば、もしかしてお部屋の話かしら?」
「そうなんです、一緒に住む三千花の妹が日曜日に来るので、部屋が見られないかと思って」
「あら、ちょうど良かったわ、木曜日にお引越しされるみたいだから、金曜日にクリーニングを入れてるのよ。日曜日だったら綺麗になったお部屋が見られるわよ」
「本当ですか! どのくらい荷物が持ってこれるかとかの参考に、部屋の広さが分かると良いなと思ったので、助かります」
「契約は今の契約と同じで、部屋番号と家賃だけ変えるだけだから、クリーニングの後なら鍵を渡しちゃっても良いわよ、家賃は3月に引っ越したところからで良いから」
「良いんですか! ありがとうございます!」
「それにしてもすごいわね、今までの部屋は会社で借りてくれるんでしょ」
「そうなんです。陽花が勤めてる会社で、借り上げてくれることになって……」
一応、神栄グループ勤務という設定にしてもらった。まあ、アンドロイド制御用のプログラム作ってるわけだから、あながち間違いでもないし。
「お部屋に空きができないと助かるのよ、本当にありがたいわね」
どうやら、新しい部屋にも無事引っ越せそうだ。
部屋に戻って三千花に「鍵がもらえる」っていう報告をしたら喜んでた。
あっ、しまった、また夕花を置いてきちゃった……
まあ、クラスメイトの家に遊びに行ってるんだから良いか……




