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【第261話】初日授業と掃除当番

「はい、この問題が分かる人、いますか?」


 半径2cm、中心角90度の扇形の面積……円全体の面積が2×2×πで4π、その1/4だから、答えはπ(3.14)……うーん、サービス問題だね。

 ちなみに、弧の長さも同じように3.14っていう、扇形を習うときに最初に覚えるやつだ。

 これならみんな分かるんじゃないかな……って、誰も手を上げないの!?


「あら、夕花さん、もしかして答えが分かりますか?」


「えーっと……ヒント! ヒントがないと分かりません!」


 みんな分かんないんだから、さすがにノーヒントで解いたら目立っちゃうよね。


「ヒントですか、じゃあ、円の面積の求め方は?」


「半径×半径×3.14です」


「すごいですね、よく覚えていますね」


「えっ? それは……ちょうど前の学校で習ったばっかりだったからです」


「それでもすぐに出てくるなんて偉いわ、じゃあ、円をいくつに切り分けたら90度になるでしょう」


「えーっと、ケーキを4つに切った大きさと同じだから、4つです」


「すごいわね、じゃあ、この扇形の面積はいくつですか?」


「それは……2×2×3.14÷4なので……あっ、ちょうど3.14です!」


 今思いついた振りをしてみる……これなら先生にほとんど教えてもらってるみたいなもんだから、大丈夫でしょ。


「あらあら、小数の計算が暗算で出来るなんてすごいわね」


「い、いえ、2×2が4なので、最後に4で割るから、4÷4が消えて、ちょうど3.14になっただけで……」


「あら、分数の計算が暗算で出来るの? すごいわね夕花さん。はい、みんな拍手ー!」


 パチパチパチパチ!


 えっ、そんな大げさなことなの!? もしかして、やらかしちゃった!?……なんで達也が得意げになってるのよ! 自分で解いたんじゃないでしょ!


「すごいね、夕花ちゃん、まだ解き方も教わってないのに正解しちゃうなんて」


 斜め前の席の香菜ちゃんが、目をキラキラさせて話しかけてくる。


「えっ!? まだ、解き方教わってないの? 私、前の学校で習ったけど!?」


 既に教わったことあることにしとくしかないよね、実際、最初から知ってたし……


「そうなの? 頭の良い学校だったんだね!」


「でも、なんで? 習ってない問題が解けるわけないのに、なんで当てるの!?」


「先生がね、『算数は解き方を思いつけば、習ってなくても答えがだせるのよ、そうやって工夫して答えた問題は一生わすれないのよ』って、いつも言ってるんだ」


「そうなの……でも、だれも手を上げなかったけど……」


「そうだよ、みんな分からないから、いつもは、じゃあ、解き方を教えますねって、先生が教えてくれるんだよ」


 ……なにその、芝居がかった授業……もしかして、私、最初に自力で問題解いた人みたいになっちゃったってこと?


「でも、ほら、先生が教えてくれたヒントが、解き方そのものだったから……それを聞いて答えても全然すごくないよ」


「またまたー、だって小数の入った、4つの数の掛け算と割り算を一瞬で答えちゃんだから、すごいに決まってるでしょ!」


 いやいや、掛け算と割り算は整数のところしかしてないから……えっ、うそでしょ、もしかしてみんな、2×2×3.14を12.56って計算してから4で割ろうとしてたとか?


「えーっと、たまたま2×2が4だから、4で割ったら1になるなーって思っただけて」


「うそーすごーい、3.14が途中に入ってるんだから、普通そんなこと思いつかないよ!」


 だめだこれ、先生が教える前に問題解いちゃったっていう色眼鏡がかかってるから、何言っても「すごい!」ってなっちゃうやつだ……


「ほ、ほら、ちゃんと授業聞こうよ、前向いて香菜ちゃん」


「そ、そうだね、でもホントすごかったよ夕花ちゃん」


 やらかしたー、次こういうことがあったら、絶対「分かりません」って言おう。


 その前に、先生と目を合わせちゃ駄目だ……きっと、私なら解けそうだって見抜いて当ててきてる。


 ……うーん、小学生って難しいな……加減が。


* * *


「今日の掃除当番は、香菜ちゃんと達也くんと……」


 帰りの会で、掃除当番の話が出てくる……香菜ちゃん掃除当番なんだ……一緒に帰りたいのにな。


「先生、私も掃除当番やってみたいです」


 掃除は得意だし、今日転校してきたとは言え、当番に入らないと特別扱いされてるみたいで気が引ける。

 それなら、香菜ちゃんが当番のときにやっちゃえば、いつも一緒に帰れるから、ナイス提案だろう。


「夕花ちゃんありがとう。達也くんが真面目にやってくれないから助かるよ」


 そうなんだ……じゃあ、私が掃除の極意を叩き込んであげようかな?


 ――帰りの会も終わって、みんなで机を下げる。


「まず、ほうきとちりとりで、床のごみとホコリをとろうか」


 香菜ちゃんが提案してくれる。本当は黒板を先にやったほうが良いんだけど、まあ、チョークの粉がこぼれても、後で雑巾で拭けばいいか。

 でも背が高いのが一人いるから、黒板は任せちゃおうかな。屈んで床の掃除するより、そっちの方が適任だ。


「じゃあ、達也くん背が高いから、黒板キレイにしてよ、高いところまで手が届くでしょ?」


「えっ、俺?……おう、やってやるよ、ちびっこじゃ届かないだろうからな」


 偉そうだな―と思いつつ、やってくれることには感謝する。


「ありがとー! もしかして、あそこにも届いちゃったりする?」


「当たり前だろ、ほら、余裕で届くぞ」


 さすがに小学生なので余裕では無いみたいだけど、背伸びして上の方もキレイにしてくれる。


「すごい、すごい、あんなとこ私じゃ絶対届かないよ」


「そうだろ、そうだろ、任せろよ」


 じゃあ、色々任せるとしようかな?


 これだけの体格、色々手伝ってもらわないともったいない。


 それに、他の子も「達也くんが、あんなにやってるなら」って、負けじと頑張ろうとしてるし……


 まあ、多少雑なところがあるから、運んでくれた机もきれいに並べ直したりしないといけないけど、そういう細かいところチマチマやるだけならバッテリーの消費も少なくて助かる。


 結局、普段出来ないところまできれいにしたのに、掃除はあっという間に終わったちゃった。

 まあ、普段の掃除当番より一人多いから当たり前なんだけど。


「うそー、こんなにきれいになるなんて、夕花ちゃん、すごいよ」


「達也くんが高いところとか頑張ってくれたおかげだね、ありがとう!」


 実質、一番動いてたし、労いの言葉は必要だ。


「ホントだね、助かったよ、ありがとう達也くん」


「えっ、俺?……なんだよ、こんなことで良かったらいつでもやってやるのに」


 おおっと、今まで真面目にやらなかった子に「ありがとう」って言える香菜ちゃんすごいな、達也も満更じゃないみたいだし……香菜ちゃんかわいいからなー。


 こうして、転校初日はバッテリーも節約出来て、掃除当番をやってもこの時間に香菜ちゃんと一緒に帰れるから、完璧だね。


 ちょっと目立ち過ぎちゃったけど、それは転校初日だったからで、明日からは大人しくすれば良いし……


 もはや、取り返しのつかないくらい、クラスに影響を与えてしまっている自覚のない、夕花だった。

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