【第260話】初登校バトル
「行っちゃったね」
「そうね、じゃあ、朝ご飯にしましょうか」
夕花を見送って一段落したので朝食にする……別に充電してる間に食べて良いって言われたんだけど、俺も三千花もまったく喉を通りそうになかったから、夕花が家をでてから食べることにした。
あれだけしっかりしてる夕花を送り出すのにも、こんなに気疲れするんだから、一年生の実の娘を送り出すとか、どれだけ緊張するんだろう。
子供を持つ、親の気持ちが少しわかった気がした。
* * *
「あれ、もしかして夕花ちゃん?」
「えっ、香菜ちゃん?」
「もしかして、今日くる転校生って、夕花ちゃんだったの! 同じクラスだよ!」
「ほんと? 嬉しい〜!」
「えーっとね、クラスはみんな仲良いんだけど、一人だけ達也っていう男子がワガママだから気をつけてね」
「ありがとう、大丈夫だよ、向かってきたらやっつけるから」
「えっ、夕花ちゃんそんな武闘派だったの? でも達也は空手やってるから戦っちゃ駄目だよ」
「うん、喧嘩するなら口喧嘩だよ、男の子と素手で戦って勝てるわけないでしょ」
その対応も大概だな……なんて思いながら、歩いていると、学校に到着した。
「えーっと、夕花ちゃんは職員室に行くんだよね、柊木先生のところ案内しようか?」
「うん、ありがとう」
本当は初めて会うんだけど、昨日会ってることになってるから、案内してもらえると助かる。
職員室は一階にあるの知ってるから、入口で柊木先生お願いしますっていう手もあるんだけど、その人が柊木先生だったら困る。
ここは素直に香菜ちゃんに柊木先生のところまで連れて行ってもらおう。
「失礼しまーす」
「失礼しまーす」
小学生がどんな挨拶するか分からなかったから、香菜ちゃんの真似をする。
香菜ちゃんが手を引いて先生のところに連れて行ってくれると、先生がニコッと笑顔になった。
この反応、柊木先生に間違いないと思うけど、知ったかして違ってたら困るから、ここは初めて入った職員室に緊張している風を装って、モジモジする。
「夕花ちゃん来てくれたのね、あら、ランドセルも間に合ったみたいね、今日からよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「あら、そんなに緊張しなくても大丈夫よ……香菜ちゃんと仲良くなったのね、良かったわ」
昨日の先生の話はスマホを通して聞いてるから、柊木先生の声だってことは確認できた。 本人だって分かれば、昨日の話の続きをしないと……
「先生、その……教科書が無くって……」
「大丈夫よ、使ってない教科書を用意してあるから……はい、これ、今日の分ね」
良かったー、ちゃんと用意してくれてたみたいだ……今日は国語と算数と理科と社会と道徳か……とりあえず、主要4教科は確保できたから、後で、全部メモリに記録しよう。
「先生ありがとう! 算数大好き! 頑張るね」
算数は普通にやったら全部満点になっちゃうから、大好きってことにしとかないと……それでも引っ掛け問題は間違えたりする必要あるかな。
「夕花ちゃんは算数が好きなのね、良かったわ、苦手な子も多いから」
「えーっ、夕花ちゃんすごーい、今度一緒にお家でお勉強しようよ」
「うん、好きだけど分からないところもたくさんあるから一緒にお勉強しようね」
「あら、香菜ちゃんも夕花ちゃんも偉いわね」
これなら、いい点とっても頑張って勉強したってことになるから良いかな……
それにしても、学校って結構、加減するのが大変かも……
* * *
「今日から一緒にお勉強する忍野夕花ちゃんよ、みんな仲良くしてあげてね」
「忍野夕花です。よろしくお願いします」
職員室に引き続き、ちょっと緊張した感じで、超無難な挨拶をする。
これで、おとなしい子っていう印象を持ってもらえれば良いんだけど……
「それから、夕花ちゃんはアレルギーで給食が食べられないから、みんなも気をつけてあげてね、間違って食べちゃうと大変だから」
あらかじめ伝えておいた、ご飯が食べられない理由を先生が伝えてくれる。
「えっ! じゃあその分、俺が食ってやるよ!」
「こらっ、達也くん、給食はみんなで食べるんだから、独り占めしちゃだめよ」
この子が達也か……体も大きくて威圧的な感じがするな……うーん、これは仲良くはできないかも。
「給食は食べられないけど、給食当番はやるからね、ちゃーんと平等によそってあげるよ」
「うっ、給食当番やるからってずるいぞ」
「こらっ達也くん、夕花ちゃんは平等にって言ってるのよ、ずるくないでしょ」
そう、あくまで、公平な反撃だから、先生にも認めてもらえるし、何より給食が食べられなくて”弱い子”っていうイメージを払拭できるから、このくらいは良いでしょ。
「先生、あの空いているところが私の席ですか?」
「そうそう、あそこが夕花ちゃんの席ね」
達也の2つ後ろの席か……こういうときって、横を通るときに絶対にちょっかいかけてくるんだよね……うーん楽しみ。
「じゃあ、席に移動しますね」
「そうね、続きは席についてからにしましょう」
一番後ろの席だから、達也の横を通らなくても良いんだけど、あえて達也の席がある通路を通って自分の席に向かう。
案の定、達也が通路に足を出してくる……んだけど、なにその遠慮したみたいな足の出し方、これじゃ、気づかなかったら引っかからないでそのまま通っちゃうんだけど。
仕方ないので、わざと足を引っ掛けて、よろけてみる……でも、転んじゃったら達也が先生に怒られて、初日から騒動になってしまうので、片足で、ピョンと飛んで、何事もなかったかのように着地する。
プリーツのスカートがふわっと舞い上がったけど、大丈夫、見えてない角度だ。
「ゆ、夕花ちゃん、大丈夫?」
先生が心配して駆け寄ってくれるけど、自作自演なので問題ない。
「ちょっとバランス崩しちゃいましたけど、全然大丈夫です!」
ちょっと照れたような笑顔で、先生を安心させる。そして、そのままの笑顔で、達也の方を見てニコッと笑ったら、なんか恐ろしいものでも見るような顔で視線を逸らされた……
こんなに可愛い女の子の笑顔を見て、その反応って……心外だな。
でも、どうやらクラスの問題児に立ち向かう転校生っていうイメージが出来ちゃったみたいで、朝の会が終わったら、クラスの女の子たちに殺到された。
しまった、目立たないようにしなきゃいけなかったんだ……
* * *
給食の時間になったので、先生から白衣をもらって、給食当番の配置につく。メイン料理の四川風麻婆豆腐を取り分ける役だ。
正直、どの辺が四川風?っていうくらい、全く辛くなさそうなんだけど、どうやら人気メニューらしい。
女の子は「ちょっと少なめにして」って子が多いので、みんなの表情を見ながら、「このくらい?」って感じで、ちょうどいい量を取り分ける。
男子は女子が少な目な分、ちょっと多めによそってあげるとみんな喜んでくれる。計算上だと、これでも何人かおかわり出来るくらい余るんだけどね。
おおっと、香菜ちゃんも男子と同じ量をご希望だ。たくさん食べる女の子って、なんか憧れるな。
問題の達也がやってきたので、普通の男子の量をよそってあげる。ここで量を減らしたら、こっちがいじわるになっちゃうからね……平等、平等……
「なんだよ、これだけかよ」
普段、そんなことを言って、他の人より多くよそってもらってたのかな? 子供だなーとあきれながらも、耳元で、
「おかわり出来る分くらい残るようにしてあるから、早く食べておかわりしなよ」
と、ささやいてあげる。まあ、小学生相手に向きになってもしょうがないからね。
すると、顔を真っ赤にして、驚く達也……そんなに驚かなくても良いのに。
この後、ガツガツと給食を平らげて、一番乗りでおかわりをゲットした達也……うーん、そんなに急がなくても、多分、おかわりする男子の分くらいは全員分残ってると思うけど……
チラチラと、こっちを見ながら、何かに勝利したみたいに、満面の笑みを浮かべる達也。
もしかして、調子に乗ってる?
もうちょっと、懲らしめたほうが良かったのかな?
……でも、実質被害を受けてないから今日のところはこれくらいで良いか。
そう思っていたのに――
この給食の時間を境に、達也の態度がちょっとおかしくなるのだった。




