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【第258話】夕飯の選択

「涼也さんとスーパーに来るのも久しぶりですね」


「えーっと、そっか、久しぶりだな」


 一瞬、夕花と来たときのことを考えてしまったが、よく考えたら中身は陽花だった。

 そう考えると、しばらく一緒に来てないな。


「何か食べたいものはありますか? 何でも作りますよ」


 せっかく入れ替わってこっちにきたから、今日は陽花が作りたいということか……


 陽花のことを甘やかそうと思ったら、俺が甘やかされてる?……いや、陽花は食べられないんだから、俺が好きなものを作った方がいいのか……何にしよう?


「じゃあ、お肉かな」


「お肉ですか? それでは焼くだけになってしまいますが……」


 いや、たとえステーキだとしても焼くだけってわけじゃないと思うけど、思いのほか不満そうな答えが返ってきた。


「えーっと、でも、やっと普通に食べられそうだからお肉が食べたいんだよね、どんな料理にするかは任せるけど」


「お任せですか、私が考えるより涼也さんが何か決めていただけると嬉しいのですが……」


「えー、じゃあ、ステーキ」


 ステーキ肉がセットで安くなっていたので、そう言ってみると……


「却下です!」


 うっ、理不尽だ……


 決めていいって言ったのに……大体こういうときって、すでに考えてる答えがあって、それを当てないといけないんだよな……でも、もう、分からないから聞くしかないか。


「じゃあ、何にする? 別にステーキじゃなくても、お肉が入っていればいいから」


「そうですね……お鍋にしようと思ったのですが、お肉が入っていると言えば、キムチ鍋とかですけど、まだあまり辛くない方が良いですよね……すき焼きあたりですかね」


「あっ、うん、すき焼き食べたいかも」


「それではすき焼きにしましょう。長ネギと春菊と糸こんにゃくと椎茸と……」


 鍋にしたいなら最初に言ってくれれば良いのに、そこが女心の難しいところだな。


「なんで鍋にしたかったの?」


「お鍋なら一緒に食卓で作れるじゃないですか、食べられなくても鍋奉行をしていれば、同じ食卓を囲めますから」


 なるほど、そういうところまで考えていたのか、俺の考えが浅かったな。

 陽花のやりたいことを叶えてあげたいと思ってたのに、全然陽花のことを考えてなかったみたいだ。


「ごめん、そこまで考えてなかった」


「ど、どうしたんですか急に、お鍋にしたいのは私のわがままですから、涼也さんのお肉が食べたいというのと合わせて、すき焼きで良いじゃないですか」


 陽花に、不思議そうに見つめられる。


 傍から見ると、小学生に謝ってなだめられてる大学生だな……いや、まさにその通りなんだけど……


「いや、全然わがままじゃないよ、一日しか一緒にいられないんだから、同じ食卓を囲みたいって思うのは当然なのに、むしろ、お肉だったら何でもいいなんて俺の考えの方がわがままだったよ」


「そういうところが、涼也さんの良いところなんですよ、私の立場に立ってどうすれば良かったか考えてくれるんですから」


「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」


「美味しいすき焼き作りますね、あっ、焼き豆腐も入れましょう」


 ランドセルを背負って、左手に持った買い物かごにすき焼きの材料を入れていく陽花……これは小学生の格好してるけど、お母さんみたいだな。


「大体、揃いましたね、お会計しましょう」


 ――レジでお会計を済ませて、買い物袋に買ったものを詰めていると、


「あれっ、動きがおかしいです……」


「えっ、どうした? 大丈夫か?」


『お姉ちゃん、もしかして実験室で充電しなかったの?』


「はい、特に充電はしていませんが……」


『じゃあ、メインバッテリーが切れたんだよ、予備の固体電池はCPUとメモリは維持できるけど、体の動作は遅くなるから普通には動けないよ』


「そ、そうなんですか……どうしましょう」


『どうしましょうって、お兄ちゃんにおんぶしてもらうしかないよ』


「どうしよう、荷物もあるから、それも持たないといけないのに」


 食材も買ったし、もらった服もあるのに、おんぶすると手で支えないといけないから荷物がもてないんだよな。


『じゃあ、ランドセルに食材は入れちゃって、洋服は軽いからランドセルのどこかに引っ掛ければいいし、荷物がなければお兄ちゃんにおんぶしてもらえるでしょ』


 夕花に言われるままに、ランドセルから洋服を取り出して、食材を入れる……長ネギがリコーダーを入れたときみたいにランドセルからはみ出してる……ちょっとシュールな光景だけど、この際しょうがない。

 洋服は給食袋みたいに、ランドセルの横のフックに引っ掛けた。


 とりあえず、店の外まではゆっくり歩いて、陽花にランドセルを背負い直してもらって、その陽花を俺がおんぶする。


「ごめんなさい、涼也さん、普段の私の体のつもりで電力を使いすぎてしまって」


「いや、俺も買い物カゴとか持てば良かったのに、気が付かなかった……ごめん」


「でも、思いがけず、涼也さんにおんぶしてもらえました」


「そうだな、陽花のままだったら、おんぶするのは難しいからな」


 食材とかの重さもあるとはいえ、夕花なら家までおんぶして家まで帰れる。

 でももし、陽花をおんぶするとなったら、家まではもたないだろう。


「涼也さんの匂いがします」


「いや、あんまりくっつくなよ」


「しがみついていないと、おんぶしづらいですよね?」


「まあ、そうなんだけど……じゃあ、しっかり掴まっててくれ」


 ランドセルを背負った陽花をおんぶして歩いていく……ランドセルからはみ出した長ネギが、歩くたびにピョコピョコゆれていた……


* * *


「おかえりなさい……って、どうしたの!?」


「陽花のメインバッテリーが切れちゃって、おんぶして帰ってきた」


「じゃあ、すぐに充電しないと……とりあえず、ランドセルは預かるわよ……って、なんでネギが入ってるの?」


「すき焼きにしようと思って、材料買ったところでバッテリーが切れちゃって、俺もおんぶするなら両手ふさがっちゃうから、ランドセルに詰めた」


「そうなのね……とりあえず、冷蔵庫に入れておくから」


 すぐに、陽花を部屋に連れて行って、充電用のパットを背中に入れた。


「ありがとうございます。少し充電したら料理の準備しますので」


「陽花ちゃん、材料を切るのはやっておくから、お鍋に入れるところからで良いわよ。台所じゃなくて、食卓で一緒に作れるからすき焼きにしたんでしょ?」


 三千花はすぐに陽花の考えを理解してくれたみたいだ。

 気づかなかったのは俺だけだったか……やっぱり、そういうところまで気が回せるようにならないと駄目だな。


* * *


 充電が終わって、夜はみんなですき焼き鍋を囲んだ。


「はい、お肉ですよ、どうぞ」


 陽花は、お肉とかに火が通ると、食べるのが追いつかないくらいの速さで取り分けてくれた。


「ありがとう、美味しいよ」


「そう言っていただけると、入れ替わった甲斐がありました」


 陽花とはまた少し離れ離れになっちゃうけど、夕飯を一緒に楽しめて良かった。


 明日からは夕花に戻るから学校に行かせないとな。


 ――こうして慌ただしい入れ替わりの一日が、温かい食卓をみんなで囲みながら終わるのだった。

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