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【第255話】陽花の葛藤

「お散歩に行きます!」


『ちょっと、お姉ちゃん何でいきなりメモを無視するの……午前中は洗濯でしょ』


「あっ、涼也さんの洗濯物の匂いを嗅ぎながら、洗濯をするんですね……それは捨てがたいです……」


「大丈夫よ陽花ちゃん、私が洗濯しておくから」


「本当ですか! ありがとうございます! 洗濯物の匂いを嗅ぐのは三千花さんにお譲りします」


「えっ、そ、そんなことしないわよ」


 しないんだ……まあ、しないだろうな、普通……


「大丈夫ですよ、出掛けた後でご堪能いただければ」


「し、しないってば!」


 いつになく、感情的な反応だな……よっぽどいやなのかな……うーん、汗の匂いとか気をつけないと……


『そんな大事なルーチンをあきらめて、どこに行くつもりなの?』


「それはですね……せっかくなので小学校に行ってみたくて」


『小学校!? いきなり行っても入れないよ』


「外から見るだけでも良いんです。この格好じゃないと、小学校の外から眺めていたら不審者扱いされますから」


 なるほど、確かに大人が小学校を覗いてたら、不審者までいかなくても、警戒はされるからな……


『でも、夕花の保護者なんだから、学校に行くことはあるでしょ』


「そうですね、保護者として行くことはできるかもしれませんが、小学生の目線からみられるチャンスは今しかありませんから」


 そうか、俺とかはどうあがいても小学生に戻ることは出来ないけど、今の陽花はそれが出来てるんだから、今の格好じゃないとできないことをしたいのか。


「分かった、じゃあ、小学校に行ってみよう……ただ、平日で授業をやってると思うから、邪魔にならないようにしないといけないけど」


「分かっています。大人しく、外から見ているようにしますので」


 こうして、小学校に行ってみることになった。


* * *


「手をつないでください。迷子にならないように」


「いや、陽花のときは手を繋いだりしないから大丈夫だろ」


「それは、大学生が手を繋いでいたら付き合っていると思われてしまうからです。でも、今だけはそれができるんですよ!」


 そっか、夕花は普通に手をつないでくるけど、陽花も手をつなぎたかったのか……それは考えても見なかったな。


「じゃあ、ほら、迷子にならないようにしっかり繋いでおこうか」


「ありがとうございます! 一生の思い出です!」


 そこまで言われると、ちょっと可哀想な気もしてきた……自分から派生した夕花はいつも俺にべったりなのに、自分はいつも我慢してたのか……

 もう片方の手で、陽花の頭を撫でてみる……


「ど、どうしたんですか! そんなにやさしくされたら……どうかなっちゃいます!」


「いや、そんな普段と違うかな……もしかして俺、やさしくなかった?」


「そうですね、どちらかというと雑に扱われることが多いと思います……ああ、でもその反応も捨てがたくって、うざがらみしてしまうんですけど……」


 うざがらみしてるっていう自覚はあったんだ……しかも、雑に扱われるのもご褒美って……

 まあ、AIは全般的に受動系なんだろうけど。


「まあ、黙ってれば誰もが振り向くほどの美人なんだけどな……」


「黙っていたら、存在意義が無いじゃないですか、対話型AIなんですから、しゃべってなんぼなんですよ、まあ、美貌と知性を兼ね備えているのが罪なのですが……」


「自分でそこまで言えるのは大したもんだけど、逆にそれがツッコミどころなんだよな」


「ええっ!? 非の打ち所が無いはずなんですけど……」


 自意識過剰と言うか、何か憎めないのはそういうところだ……


「もしかして、美人の無駄遣いでしたか?」


「うーん、まあ、残念系美女というか……でもツンケンした美人よりは親近感が湧くけど」


「どっちなんですか! 褒めるか貶すかどちらかにしてください!」


 貶しても良いんだ……


「褒めると天狗になるくせに……」


「当たり前じゃないですか! 女の子なんですから」


 まあ、それが陽花っぽいから良いんだけど……


 そんな話をしていたら、小学校に到着した。


「ここが小学校なんですね、もう少し小さいかと思ってました」


 そういう意味の小学校じゃないから……


「生徒の数にもよるけど、1年生から6年生まで100人ずついたとしても、600人だから、このくらいの広さはないと駄目なんじゃないかな」


「なるほど、人数に合わせた建物なんですね……子供の身長に合わせて、天井が低いこともなさそうですし」


「先生は大人だからな、子供しか入れなかったら、勉強教えてもらえないだろ」


「ちょっと想像力が豊かだっただけじゃないですか……そこまで言わなくても……」


「ごめんごめん、陽花の発想が突拍子もなかったから、ついツッコミたくなっちゃったんだよね」


「しょうがないですね、じゃあ、肩車をしてくれたら許してあげます」


 えーっ、ここでそんな目立つことやりたくないな……でも、陽花の目は肩車してくれないと許さないと言ってるみたいに見えるし……


「じゃあ、ちょっとだけだよ」


 ここはさっさと済ませてしまおうと、肩車する……しかし、ミニスカートで肩車とか、恥ずかしくないのか……


「思ったより、恥ずかしいですね」


「そうだろ、こっちも恥ずかしい」


「あれは何をやっているんですか?」


「ああ、体育の授業じゃないかな、鉄棒で逆上がりを教わってるんだと思うよ」


「逆上がりですか……この体ならできますかね」


「いや、鉄棒やるならズボン履いてきなよ……まあ、授業に乱入はできないから、今日はどっちにしても無理だけど」


「そうですか、でも、私は本来の体に戻ってしまいますから、実際に鉄棒するのは夕花ですね」


「陽花も、自分の体に戻ってから公園とかでやってみれば良いんじゃない? やりたいなら年齢は関係ないよ」


「私は夕花と同じ年齢なんですけどね……見た目年齢ということでしたら、確かに大人がやって良いことかは考えて、行動パターンから外していたかもしれません」


「こうやって、体が入れ替わったらやりたいと思うことがあるなら、それは貴重なことだと思うよ、まあ、やる前に相談してくれれば、協力できることはするよ」


「本当ですか! それが聞けたら、ここに来た甲斐がありました」


 そうか、知らず知らずのうちに、ブレーキをかけてたところがあるのか……それがあるから逆に暴走したりもしてたのかもな。


 その辺の制限があまりなく、自由に出来てたのが夕花だってことか……そう考えるとここまで性格が違ってくるのも頷けるな。


 こうやって、陽花のわがままを聞く機会っていうのも、必要だったのかもしれない。


 今は子供の体になったから出来ることを思う存分やればいいと思うし、まあ、元の身体になっても、多少のわがままは聞いてあげないとな。


 陽花の本心が聞けて、少しやさしくしないといけないなと思うのだった。

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