【第251話】バレンタインアルバイト
バレンタインの話が長かったので、昼と夜で2話に分けました。
「少年! 元気してた?」
「いや、インフルエンザで休んでたでしょ、聞いてないんですか!?」
「あ、それは聞いてたけど、そうじゃなくって、バレンタインで撃沈したかどうかだよ」
「どうして、撃沈した前提なんですか?……撃沈はしてませんよ」
「えーっ、じゃあ、岬お姉さんの手作りトリュフチョコは、全部吾郎くんに……」
「いやいや、なんで吾郎くんが撃沈前提なんですか、あの幸せそうな顔は、絶対彼女にチョコもらったでしょ」
「うそっ、あの歩く筋肉の吾郎くんが!?」
酷い言われようだな……その筋肉の恩恵受けてるの俺達なのに……
それに、アンドロイドじゃないんだから、俺たちみんな、ある意味歩く筋肉だと思うけど……
「それはそうと、岬さんおつまみ以外も作ることあるんですね」
「何を言うか、少年、トリュフチョコはウイスキーのおつまみだろ」
……岬さんは、お酒が大好きで酒屋のバイトしてる先輩だ、料理はお酒のおつまみしか作らないと豪語してたのに、まさかと思ったが、平常運転だった。
と、そのとき、
「こんばんはー!」
「あら、天音ちゃん、久しぶり―! どうしたの? もしかして復帰するの?」
「岬さんお久しぶりです。実は本命の大学に合格したので、その報告と、落ち着いたら復帰したいですっていう相談で」
「えっ、ホント! お祝いしましょ! 大学生になったらお酒飲んでいいんでしょ?」
「駄目に決まってるじゃないですか、大学生だって、20歳になるまでは誰も飲まないですよ」
「えーっ、じゃあ、あと2年も待たないといけないの?」
当たり前だ、天音ちゃんを魔の手から守らないと……
「あと、これ、バレンタインの生チョコです。どうぞ」
「うそー、私のもあるの? ありがとー! あれっ、少年の方が大きいけど」
「ご、ごめんなさい、先輩は、家庭教師してくれて、そのお礼もあるので……」
「あ、そういうことか、お姉さん勘違いしちゃったー、ほら、私のトリュフチョコもあるから食べて食べて」
「えっ、岬さんの手作りですか!? すごーい、いただきまーす……あっ、結構ビターですね、でも、美味しいです」
「あっ、じゃあ、俺も一口って、なんで引っ込めるんですか!」
「少年は天音ちゃんからたくさんもらってたから、あげない」
なんてこった、天音ちゃんが食べるところまで見せられた挙げ句におあずけとは……
「岬さん、先輩は本当に一生懸命数学を教えてくれて、私が大学に入れてバイト復帰できるのも先輩のおかげなんですよ」
「そっかー、しょうがないな、じゃあ、天音ちゃんに免じて、一つ食べさせてあげよう」
……随分もったいつけられたけど、ここは気が変わらないうちにもらっておこう。
トリュフチョコを1つ摘んで口に入れると……確かにカカオ多めだけど、しっかりとバランスの取れた味で、これは、どう考えてもウイスキーが欲しくなる。
「これは、ウイスキーと一緒に食べるべきですね」
「そうだろ、そうだろ、バイト終わったら、うちにくれば飲ましてあげるぞ」
「いや、行きませんよ、何考えてるんですか」
「今のは、絶対、朝まで飲む約束するところだったろ! 誰か! 話し相手プリーズ!」
なぜ俺が朝まで話し相手になると思ったのか……岬さんが一人暮らししてるマンションに行くとか、危険すぎる。
「わ、私がお酒飲めるようになったら、行きますから」
「ホント! ありがとー天音ちゃん!……あーでもあと1年以上あるのかー」
天音ちゃんだけ行かせるのも危険な気がするが、まあ、店長たちと一緒に飲みに行ったときも、特に自分が飲むのを楽しむだけで、人に飲ませるわけじゃないからその点は大丈夫なんだよな。
おそらく、オススメのお酒を飲ませてくれるんだろうけど、そのオススメのお酒がウイスキーだったりワインだったり、ジンだったり、ラムだったり、ウォッカだったり……いや、やっぱり20歳になったばかりの女の子にはきつすぎるだろ。
「そ、そのときは、俺も行きます」
「おー、少年、ようやく、誘いに乗ってくれる気になったか!」
「せ、先輩、一緒に行ってくれるんですね」
どうしよう、魔の巣窟みたいな部屋だったら……いや、そんな部屋に天音ちゃん一人で行かせるわけにはいかない……
まあ、1年以上先の話だし、そのころには忘れてるかもしれないし……
「そういえば、岬さん、もう10分休憩終わりますよ、俺もシフト入るんで、店長と交代しましょう」
「ああ、そうだった。喜べ、1時間延長することになったから、一緒に働けるぞ」
その時給で、ウイスキー買うんですよね、多分。
「いえ、俺、品出ししますから……棚の商品減りまくってましたし……」
「なに? それじゃ、一人レジ担当になっちゃうじゃないか」
吾郎くんは、冷蔵庫入ってくれると思うから、必然的に岬さんはレジ担当だ……だが、男性客からは絶大な人気を誇る岬さん……レジをやってもらわない理由はない。
お客さんも、岬さんがそんなに酒豪だって知らないし、働いてるときはシラフだし、普通の美人なお姉さんにしか見えないからな……
「じゃあ、天音ちゃん、チョコレートありがとう、もう仕事入るね」
「い、いえ、どういたしまして、店長と吾郎さんにも渡すので、もうちょっと居ますけど、頑張ってください」
天音ちゃんの激励を受けて、バイトのシフトに入る……そういえば、こういうイベントの日って、お客さん増えるからバイトばっかりしてたな。
そう考えると、アルバイトもバレンタインのイベントのひとつか……
何となくアルバイトに来ると落ち着くというのも、変な感覚なんだけど……
気兼ねない仲間と、こういうイベントの日も一緒に仕事するのは、連帯感を強めてくれる。
家庭教師のバイトも終了になるし、社会人になるまでは、絶対このアルバイトは続けないとな。
そんな、アルバイトの大切さが身にしみる日だった。




