【第250話】バレンタインスイーツ
「バレンタインだけど、ティラミスで良い?」
ん? ティラミスってチョコだっけ?
「えーっと、チョコは文化祭でたくさん食べたでしょ……それに、まだお腹の調子が戻ってないかなと思って……上にかけるのはカカオパウダーにするから」
なるほど、そういう気遣いだったか……それはオリジナルだな、手作りで作ってもらえるなんて、嬉しいに決まってる。
「うん、嬉しいよ、ちょっと楽しみかも」
「夕花も、チョコプリン作るから、期待してね」
夕花はこの前、プリン作りを褒めてから、得意になったみたいだな、チョコプリンか、それも楽しみだな。
「うん、夕花もありがとう」
手作りのデザートが既に2つも確定しているなんて、去年のバレンタインには考えられなかったな……
『私も! 私も作って送りましたから! ちゃんと今日中に受け取ってください!』
えっ、陽花もくれるの……まさか、送ってくれるなんで思ってなかったけど。
「陽花もありがとう。今日届くの?」
『はい、クール便で今日届くように送ってあります!』
既に3つ確定……うーん、去年までが散々だったから反動がすごいな。
まあ、その内2つは自分たちの作ったAIからもらうというのが、自作自演のような気がしなくもないが……
「何を送ってくれたの?」
二人と被らないように、一応、聞いておこう。
『エクレアです! 中もチョコクリームですので、私だと思って食べてください』
なぜ、チョコクリームだと陽花だと思って食べることになるのだろうか……
離れているから、自分をアピールしたいというのは分からないでもないが……
「えーっと、陽花を思い浮かべながら食べれば良いの?」
『違います。私だと思って、美味しく召し上がってください』
どう違うんだろうか……まあ、どうせ食べてみて間違ってたらダメ出しされるだろ。
「分かったよ、陽花だと思って食べるよ」
『本当ですか? 具体的にはどのように?』
「いや、分かるかー!」
いつになく、不毛なやり取りだった……あまり無下にはできないと思ったのが裏目だったか。
「陽花お姉ちゃん、甘いね、夕花は直接的な手段にでられるんだよ」
『そ、それは、ずるいです。な、なにをする気ですか』
「えーっとね、あーんして食べさせてあげるのは普通だから、そうだね、口移しで食べさせてあげるとか」
「却下だ!」
「えーっ! なんでー! バレンタインってそういう日でしょ!」
「どこの国で、そんなバレンタインがあるんだ! 少なくとも日本にはそんな風習はないから!」
「……じゃあ、あーんだけで我慢するよ、ちなみに、口移しを思いついたのは麗香さんだから」
「なにそれ、なんで麗香さんがそんなこと……」
「夕花にプリンだけ食べられる機能をつけられないかって相談したら、出来なくはないけど食べたプリンをどうにかしないといけないって」
そりゃそうだ、吸収できるわけ無いんだから、食べたらどこかにしまっておかないといけないよな。
「それだったら、一回、プリンを貯めておく場所を作って、後で口移しで誰かに食べさせるとかなら面白いかもって」
無責任すぎる……しかも、その誰かって、ほぼ俺しかいないよな。
「却下だ!」
「えーっ、お兄ちゃんがプリン食べられるようにしようって言い出したのに」
「そこまで話が飛躍するとは思ってなかった。どう考えてもそんな機能いらない」
せっかくのプリンだったら、普通に食べた方が美味しいに決まってるだろ……
食べ物で遊ぶんじゃない。
「ピンポーン」
あれ? 誰か来た?……いや、陽花からのクール便かな?
急いで、ドアを開けると……
「あっ、涼くん、こんにちは」
えっ、さ、早耶ちゃん!?
「早耶ちゃん久しぶり―、会いたかったー!」
三千花が、早耶ちゃんを出迎える……
あれ? 来るって言ってたっけ?
「もしかして、LIME見てないの?」
えっ、LIME?……ホントだ、遊びに行くねって、書いてあるけど……
「ごめん、見てなかった」
「えっ、『涼くんにもLIME送ったけど、今日遊びに行くね』って来たから、待ってるって返事しちゃった」
……俺がLIME見なかったのがいけないんだけど、知らぬ間に遊ぶ約束が成立してたみたいだ。
「えーっと、ごめん、LIME見て無くて……いらっしゃい、上がって」
「うん、三千花ちゃんから返事来たから、そっちで見たのかと思って……チョコブラウニー作ってきたから、みんなで食べよう」
なるほど、バレンタインの日に、俺から返事するのは憚れるので、三千花経由で返事したと思われてたか……まあ、LIME見たとしても、どのみちそうなったかもしれないけど。
ということで、午前中からブラウニーでのティータイムとなった。
* * *
「そういえば、昔、早耶ちゃんのお母さんからチョコをもらったことがあったよ」
「えっ、それって、どんなチョコ?」
「おっきいハートのチョコだったけど、なんかお袋と会う用事があったみたいで、俺が外から帰ってきたら、そういえばって言って、バレンタインだからってもらった」
「それ、お母さんからじゃなくて、私からだよ」
「うそっ、そんなこと、全然言ってなかったけど!?」
「私からしかあり得ないでしょ、ハートだし」
「……随分、派手な義理チョコだなと思ったけど……」
なんてこった、義理チョコだと思って食べたチョコが、まさか、幼馴染からのチョコだったとは……
「義理じゃないって分かるようにハートにしたのに」
いや、分かるかい! 直接もらったんならまだしも!
「でも、あんまりストレートすぎて、渡しに行こうか迷ってたら、お母さんが気を利かせて渡しておいてあげるわよって……」
お母さん、いらない気遣いでした……母親と姉貴と早耶ちゃんのお母さんという義理チョコ3つだと思って、撃沈してたんですよ……
「そ、それは、長年のなぞが解けて良かったけど……」
「でも、あれは手作りじゃなかったから、もう、どっちでもいいかも……今、ブラウニーを食べてくれてるし」
流石に、小学生だったから、お菓子作りとかは出来ないもんな……
「それに、三千花ちゃんの作るティラミスも食べられるし……来て良かった」
うーん、そう考えると、近年のバレンタインって、みんなでスイーツを作って振る舞おうっていう趣旨に変わってきてるな……
チョコレート一辺倒のバレンタインの時代は終わったのか……ハートのチョコレートの謎が解けたと同時に……
「このブラウニー美味しいわね、甘すぎず、苦すぎず、しっとりしてて、食べ過ぎちゃうかも」
「うん、確かに、ポロポロこぼれることも無くって、生チョコなのかケーキなのか、食感と味のバランスが最高だね」
「そんなに?……そう言ってもらえると、また色々作ってくるね」
なんか、想像してたバレンタインと違ったけど、過去一だったな。
この後、夕花が作ってくれたチョコプリンと、陽花から送られてきたエクレア、そして、三千花の作ってくれたティラミスを堪能した。
早耶ちゃんのお父さんとお母さんには、ティラミスとチョコプリンをおみやげに持っていってもらった。
あっ、夜はバイトだったな、もしかすると、岬さんからも義理チョコがもらえるかもしれない。
もちろん、三千花からのティラミスが一番嬉しかったんだけど、男って何個もらっても義理でも喜んでしまう生き物なんだな。
そんなことが生まれて初めて分かった平和なバレンタインデーだった。




